1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(15)
「え、えっと、確かにぼ、僕もおかしいと思うなっ! あ、あの、森にあんな深部で捨てられてるなんて……それに、記憶がな、無いって言ってたのも不自然だと思う」
しどろもどろになりながらも、そう受け応えした。明治は更に踏み込む。
「記憶がない……それは確かに変だな。三日月、俺は一つの仮説があるが、記憶が無いことの説明はつかない」
「仮説」という意味深な言葉を言い、三日月に問いかけ直す。
「記憶だよ? 普通に生活してみると、無くなることないからね。た、多分、何かあったんじゃないのかな? 例えば! 例えば、なんだろうな……うーん」
目線を決して合わせず三日月がそう答える。
「まあ、その何かが大事なんだけどな」
「じ、じゃあ、その何かを僕たちで考えましょう! 頭ぶつけちゃったとか!」
「まあ、それを考えるのもいいが、ところで三日月、さっきお前があの、狼男と別れてから、彼女と会ったまでの過程を教えてくれ」
「狼男」というワードが突然出てきて、動揺を隠せきれない三日月。
「へ? 狼男? なんで、いきなり、急に? い、いや、べ、別に嫌って訳じゃあないんだけど、な、なんで?」
その動揺っぷりに内心
「い、いやでも、べ、別に言っても、な、何のじ、情報にもならないと思うけど…… それなら、僕は明治の妹の話を聞きたいな!」
頑張って話を逸らし誤魔化そうとするが、そんなんで変わるわけもなく、「分かった。後で話すから、今はお前の話を聞きたい」と言われ、仕方なく少し脚色しながら話した。
「え、えっと、あの、例の狼男と別れたあと、も、戻ろうとして、来た道を戻って、いや、正確には戻ってなくて、変な道に行っちゃったみたいで、そしたら、ね、寝ているその少女を見つけて、その、だから、それで、と、とりあえず、上着を着させて、いや、着させてというか、被せて、そして、程なくしたら、起きたから、で、それから明治から連絡来て……って感じ、だと思う」
自分のことなのに、「だと思う」なんて使うのは、そのまま受け取ればそれが作り話だと白状しているような物だ。それに、いくらなんでもしどろもどろになり過ぎてる。
「なるほどな。狼男と別れてから、少女に出会うまではどれくらい時間かかった?」
「え、えっと、じ、十分とかそのくらい!」
「そうか」
なんとか返答する三日月。そこで、明治は仕掛けるようなことを言う。
「なぁ、三日月、俺はあの少女が……」
その言葉を明治が告げた瞬間、三日月は胸の鼓動が早まり、ドキッとした。
「ちょ、ちょっと、待って! 妹の話は? そっちの方が気になるんだけど!」
意味のない足掻きをするが、そんなんで騙せる訳もなく。
「あぁ、この仮説が終わったら話してやる……ところで、さっきからお前、俺の話に対する茶々が多過ぎないか? まるで、お前がこの話を聞きたくないみたいに」
逆に核心を突かれたことを言われてしまい、戸惑ってしまう。
「そ、そんな、こと無いよ?ただ、明治と話すのが楽しくて……」
その言葉を聞いて明治は少し嬉しくもあるが、苦しくもあった。
「三日月、俺はな、あの少女が……」
再び胸の鼓動が早まったが、三日月はその後の言葉を聞いて、ホッとしてしまう。なぜなら
「あの少女が、あの狼男に助けられた人なんだと思う」
明治の言った論が本当とはかなりかけ離れたものであったからだ。
「それは、どうして?」
三日月は論が外れて、ほっとしたため、言葉を
「まず、その少女が森の外ではなく中に居ることだ。このことはあの狼男が助けたと思うと合理的だろ? そして、彼女が傷付いてないのも、納得が行く。そして、狼男には服という概念があまり分からないがためなのか、それとも、陵辱しようとしたのかは分からないが、洋服を破ってもおかしくないだろう」
だが明治の言った「陵辱」という言葉に少しの不快感を募らせた。
「そ、そんな「陵辱」だなんて、そんなことするような人、じゃなくて妖だとは思わないけど? そ、それに一応僕たちの命の恩人だし、悪く言うのは違うと思うよ?」
三日月は自分のせいで、明治の思い描く狼男に悪い印象を付けられたのではないか。と多少の罪悪感を覚える。
「まあ、俺らは男性だったから、助けられて、あの少女は雌だったから……っていう可能性も無くは無いと思ってる。所詮は俺らとは違う生物で、性欲は理性でコントロール出来そうにもないしな」
そう明治は言い放った。対して三日月は言い返さず、黙ったまんまだった。
「まあ、これは俺の自論だから、合ってる保証なんて何一つとして無い。そう心配するな」
そして、明治は腰掛けていた状態から立ち上がり、部屋に戻るような素振りを見せた。
「え、えっと……もう話終わり?」
三日月がそう問いかけた、すると明治は「ああ」という短い返事をして、その場から離れた。
(バレて……ないよな……)
それだけが気にかかる三日月は、明治の妹のことなんてすっかり忘れてしまっていた。
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