1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(14)

14


 神谷明治は気になっていた。あの少女が何者なのかを、そして、三日月が何を隠しているのかを。三日月とは中等部からの親友で、よく讃岐、伍十嵐と遊んだり話をしていた。だから、分かる。いや、そうじゃなくても分かるのかもしれない。あいつは何かを隠している。目の泳ぎ様、しどろもどろさ、そして、不自然な対応、保護をしたいと言っておきながら、森にあの子を残そうという謎めいた発言。あの時は、榎戀が後ろから来て、色々有耶無耶になったが、まだ気になる点がある。


 大体の予想はついているが、三日月はお人好しだ。それは、断言出来る。だから、今でもを庇っているに違いない。そう胸に残しながら、彼は三日月の部屋へと急ぐ。


「杠葉三日月は居るか?」


 インターホンが鳴り、受け取った瞬間にそう告げた。鐘山と廣邉はびっくりした。インターホンで呼び出されるのはどちらか二人である可能性が高かった。勿論、三日月もびっくりしたが。


 ドアを開けると、立っていたのは神谷明治だった。


「おい、木人! お前だ、呼ばれてるぞ! ぼさっとしてないで、さっさと出やがれ」


「ご、ごめんなさい。 えっと、明治! 今行くから」


 そして、三日月は明治のもとへ来ると、「ちょっと来い」と明治の言うが侭に着いていく。


「まだ、あんな感じに言われてるのか」


「そ、そうだね」と、三日月は弱々しく返事を返す。


「お前は、もっと人に厳しくなった方が良い。お人好し過ぎる」


「そ、そう?」


 そうして、明治に連れて来られたのは学生寮の裏側、普通なら来る必要性が全く無さそうなところ。つまり、今から話すことは誰にも聞かれたくないことなんだろう。


「なあ、俺は話がしたい。あの、森で出会った少女について」


 三日月の顔が引き攣り、冷や汗をかいた。その様子は酷く慌てているようだった。なんらかの秘密がバレてしまうのを恐れているように。


「なあ、三日月、変だとは思わないか? 魔法の森にいたいけな少女がたった1人で居るなんて、しかもあの格好で」


 「格好」のことを触れた瞬間に慌てている三日月の顔が赤くなり、違う意味で慌てそうになっているのは、やはり彼がまだ思春期なのだろう。


「た、確かに、おかしいかもね。あのか、格好だし」


「なんか、悪かった。お前には早過ぎた話だったかもしれないな」


「え? 何? 明治って、そんな経験あったの? 僕が知らない間に!?」


「ない、俺もまだ童貞だが?」


 キッパリとした物言いに、三日月は少したじろいでしまう。


「じゃあ、なんであんなことを言ったんだよ」


 すると、明治は微笑みながら


「すまんすまん、ちょっと揶揄からかいたくなってな。それと、一応俺には妹居るし」


 と言った。しかし、三日月はさらに続けて


「い、妹の、そ、その裸とかって、そんな見るものなのか?」


 ここの寮では親族同士であれば、男女の相部屋は認められている。なお、明治の妹は七海ななみという、中等部2年の優等生だった。


「まあ、たまに。同じ部屋だし」


「え? 兄妹って、そんな感じなの!?」


 三日月がさらに驚いたように言う。


「ほかは知らないが、そんな特段変って訳でもないだろ。 ---だいぶ話が脱線したな。戻すぞ」


 その言葉を遮るように、三日月が言う


「待て、逃げるな。明治! ば、場合によっては警察さえ呼ぶことに」


 すると、明治は急に真剣な面持ちになると、


「今日、俺は俺の兄妹の仲の睦まじさを説明しに来たんじゃない。あの少女についてだ」


「ごめん、久しぶりに二人では、話すから、ちょ、ちょっと盛り上がっちゃって。えへへ」


 と、三日月は申し訳なさそうにしたのち、引き攣った笑顔になりながら、そう告げた。


「まあ、いい、戻すぞ。あの少女はおかしいというのは、お前も感じているだろう?」


 その質問に対し、三日月は目を泳がせながらこう言った。


「う、うん。僕も、ね、おかしいと、思うよ。けど、ぼ、僕に聞いたって、な、何もわからないと思うな。僕、あ,あの子のこと、何も知らないもん」


 そう言うと、明治はきょとんとしていても、仄かに笑みを含みながらこう告げた。


「いや、俺はお前が何かを知っているかなんて、微塵も感じてないのだが、ただ同じ状況を知るもの同士、意見交換が出来たらなとしか思ってないのだけれど」


 それを聞いた三日月は、全身に冷や汗をかきながらこう告げた。


「そ、そうだね。あれ、僕、なんでこんなこと言ったんだろうね」


 と無理をしているのが丸わかりである笑顔を貼り付けて、そう述べた。


「それで、あいつのところに何か不可解なことがある。それはいいな、あやかしにとって、人間というのは良い餌だ。しかも、肌着を身につけていない。しかも場所も場所だ。愛の無い親のもとに生まれて、過剰な躾として森に捨てられると言うことは無いとは言い切れないものの、あんな森の深いところに捨てる訳がない。そこで三日月、聞きたいんだが、お前はどう思う?」


 核心には触れず、あくまで一つの"疑問"として、三日月にそう問いた。

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