1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(4)
3
それから暫く、狼男が我が国の市街地への出没が、頻繁になっていった。何故かいつも五番通りの洋服屋の近くに、である。
それに対し、東学院の生徒会会員や有志、先生方、軍の
裂葉に助けられてから、約ニ週間が経った。朝、まだ夜の明けてない午前四時半。朝方の人間である三日月にとっても、この時間帯に目覚めることは多少稀であるが、奇妙なことが起きた。何故だろうか、同居人である鐘山と廣邊が起きているのだ。彼らがこの時間帯に起きることはまず無い、三日月は不本意だが、校則によって彼らを起こしたことすらあるのだ。(二人にしても三日月に起こされるのは不本意であった)
そして、寝るふりをしながら、彼等の方へと耳を欹てる。
「(おい、なんだよ、こっちは寝てたのに)」と鐘山。
「(今、あの俺らが狼男を攻撃してるらしいから、俺らも行こうぜ)」
三日月は息のつまる思いをしたが、息を殺し、じっとしていた。軈て、二人がこの部屋から出ていったのを確認し、立ち上がった。
(どうすればいいんだ……僕は)
前に裂葉と話した時のことを思い出す。
(助けに行かず、見て見ぬふりも出来る)
(あいつは妖なんだ、僕を前助けてくれたのだって、偶然に過ぎない。たった一回の恩を返すためだけ、あの日のことを謝りたいだけで、学院に背くようなことはしてはいけない。あいつは、妖だ。僕たち人類の敵なんだ。悩むことなど何も無い。今は少し早く起きちゃったから、二度寝なりして、休むべきだ。あいつは妖だ。僕たち人類の敵だ。あいつは妖だ。僕たち人類の敵だ)
そう自らに言い聞かせ、布団の中に再度入ろうとした時、ふとして窓から外を見ると、なにやら炎のような明るい光と煙が立ち込めてる場所があった。
(五番通りだ……服屋の近くだ)
三日月はそこで、狼男が攻撃されてると憶測すると、居ても立っても居られなくなり、着ていたパジャマの上からコートだけを羽織り、そのまま現場にダッシュで赴いた。
そして、五番通り付近にやってくると、やはりというべきか、逃げ惑う狼男が、
「おい、オクソール!」「はいよ!」
「
見てみると、その男は目つきが悪く、一見すると不良のような少年であった。髪は白く、肌も色白い。持っていた大きなハンマーを地面に振りかざし、地面を抉り、狼男はそれを避けきれず、直撃して倒れてしまう。その姿を見て思わず、三日月はこう言った。
「やめて!!」
その発言をした時、討伐隊の多くが僕の方を見るのが分かった。そして、足を震わせながら、構わず三日月は討伐隊と狼男との間に割り込み、手を大きく広げ、狼男を庇うポーズを取った。
「何の真似だ?」そのオクソールという精霊を仕えた男が尋ねた。
(何やってるんだ、僕……何で妖なんかを見捨てずに、庇ってるんだ、バカなのか?僕は)
「何の真似だって聞いてんだよ⁉︎」
その男がさらに声を荒げて言い、僕の方に近づいてきた。
「攻撃を止めてください」
「あ?貴様、何言ってんだ? どけろ」「どきません」
彼は持っているハンマーを肩に担ぎ、見下しながらそう言った。
「この妖が、何かしたんですか? この妖によって何か不利益を起こしたんですか?」
三日月は彼にそう話しかけ、説得を促した。だが、彼はそんな三日月の発言に対して、どう思ったのだろう。やはり面倒臭く思ったのか。何も言葉を返さずハンマーを振り下ろそうとした。
「最後の忠告だ。そこをどけろ。さもないと、お前ごとこのミョルニルで潰す」
その発言に怖がり、三日月は目を逸らし黙り込んでしまう。そして、三日月と彼との周りに大勢の人が居ることを知った。
「どれだけフィラバスターやってるんだ? さっさと潰すぞ」
「はいはい、八津君、ここまでここまで」
そう言いながら、三日月と八津君と呼ばれた男の中に入り込み、仲裁しようとする。そして、三日月はさっきまで対峙してた男が誰なのかを知る。
(八津……?もしかして、八津遥か⁉︎言われてみれば、そうかもな……)
ー八津遥 彼は中等部の2年からほとんど1位を独占し続けている優等生だ。三日月とは中等部1年の時は同じクラスで、何回かは話したことはあったものの、クラスが異なることなどによって、それから会うことはなかった。そのうえ、成長期の人は変わりやすいもので、2年も会わなくなれば、誰なのか分からなくなる。彼の声に声変わりが起きたことも三日月が認識出来なかった要因の一つだ。
中に割り込んできた女性は、背が高く、胸も大きく、東学院の制服を着ていなければ高校生とは思えない。先生方か軍関係者と思うほど、顔立ちは凛々しく、大人っぽい。長く青く下ろされてる髪型に、緑色で大きい目。三日月はどこかで見覚えがある人だと感じたが、思い出せなかった。彼女の肩に乗ってる紅い竜はおそらく、彼女の
「ダメだよ。八津君、そんな物騒なこと言っちゃ」
フンと鼻を鳴らし、八津は引き下がる。そして、彼女は諭すように三日月に対して問いかける?
「その狼男を討伐したいんだけど、どいてくれないかな?」
「悪いですけど、嫌です」
「何故?」
三日月は校則を破り、ここまで来た。だから、引き下がる訳にはいかなかった。
「何故って……この狼男は、誰にも迷惑かけてないじゃないですか⁉︎」
「妖は人類の敵よ。
「でも!」
「でも、何? その狼男が、今後人間を襲わないなんて確証ある?」
「それは……」
三日月は口籠る。そして、あることを閃く。
「狼男って、妖の中でも珍しく、人の言語を理解する種ですよね⁉︎ 妖だとしても、話せばきっと分かってくれるはずです。話して、確約させましょう」
「じゃあ、何故、さっきからその狼男は黙りこくってるのかしら?」
「多分、人が怖いだけです。回復させてあげてください」
「いいわ、リンドヘルム。森へ行って、妖見つけてくる。だから、アンタはちょっと待ってなさい」
「分かった!」と彼女の精霊は鳴く。
そうして、彼女は立ち去った。そして、恢島と目があった。彼女は心底失望した表情であった。「アンタ、何してんの?」と言われたような気がして、気まずく目を逸らす。自らが貴族に笑われてることに気がつき、ますます惨めな気持ちになる。
ほどなくして、彼女が帰ってきた。彼女の相棒であったリンドヘルムは気絶している一つ目小僧という妖を抱えていた。リンドヘルムが狼男の近くに、その妖を置いた。そして、彼女がこう言った。
「アンタも離れていて」
そう言われ、少し離れる三日月。そして、彼女は大声でこう唱えた。
「
彼女が発した回復霊術「
みるみるうちに、狼男の体の傷が塞がれてゆく。ぐったりとしていた様子もどうやら治ったみたいだ。
「さて、話しましょう。私たちと」
そう彼女が言った途端、狼男は森へ逃げてしまった。
「ちょっと⁉︎ アンタ…」
「なんで⁉︎」
三日月は周りの敵対するような目をきにせず、狼男を捕まえるため、森へ走った。
「待ちなさい!」
しかし、森は危険区域。近場ならまだしも、遠くへ逃げてしまえば、大量の妖に襲われる危険性が高い。夜行性な妖ではあるが、まだ夜は明けてない。さらに、人々の管理も行き渡ってないため、非常に複雑な道となっており、一度入れば迷う危険性も高かった。
「会長、ここは私が追いかけます」
そう言ったのは恢島だった。
「榎戀ちゃんはダメ! せめて、夜が明けてからじゃないと……」
「でも、そしたら、あいつは」
「あいつかぁ」
狼男の討伐より、三日月の安否を慮ったのが、許さなかったのだろう。彼女の言葉の一端には怒りが滲み出ていた。
「あの子、榎戀ちゃんの友達?」
「え? まぁ」
「そうなの。けど、あんな人関わらない方がいいわよ。ましてはそんな奴のために、わざわざ危ない橋を渡ろうなんて」
「すいません」
「もし、行くにしてももう少し待ちなさい。夜が明けるから」
「分かりました。」
恢島は焦っていた。彼の奇行、そして安否について。
(何考えてんのよあいつ……バカ⁉︎)
そんな中、1人の男子が再び声を上げた。
「会長、僕もあのバカを連れ戻しに行ってきていいですか?」
そう言ったのは、赤髪、赤メガネに整った顔立ちの少年だった。彼の名前は神谷明治。三日月の友人だ。
「榎戀ちゃんにも言ったけど、夜が明けてからなら、何も言わないわよ」
4
三日月は、狼男の姿を探して走った。何故逃げたのかが分からなかったが、とにかくその妖の姿を探して走った。
夜明け近くということもあり、妖は少なかった。幸いにも脚が速い妖には遭遇しなかったため、妖と戦うようなことは無かった。
走って、走って、走って、走って、走った。
夜が明けてきた頃、三日月は
(何をやってるんだろ……僕)
いっそ、妖に殺されたいとも思ったが、幸いか不幸せか日が昇ったこともあり近くに妖はほとんど居なかった。
(一回妖に助けられたことだけで、恩義を感じて、校則違反までしてしまうなんて……ほんっとバカだな……僕)
もそもそと
歩き出してから5分ぐらい経った時、近くから大きな水の音がした。歩き疲れた三日月はとにかく水が飲みたくて、その音の方へと歩みを進めた。
そして、音の方へと近づいたとき、三日月は大きな池に出た。そこには一糸纏わぬ姿で水浴びを楽しんでいた美少女の姿が居た。そして、その美少女は僕と目を合い、顔を赤らめ、こう叫んだ。
「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!」
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