第4話1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(3)

三日月は目を覚ました。人の背中の上で。

「うぇぇっ⁉︎」

と素っ頓狂な声を上げ、一瞬驚いた後、冷静になり誰に背負われているのかを考えた時、


「そんないきなり変な大声上げないでよ。びっくりするじゃん」


と讃岐裂葉は言った。

 珍しい青い目、青い髪に痩せ気味の体躯・整った顔立ち。そんな彼の実力は折り紙付きだ。学年のランキングの中で、1桁に入ったこともあるほどの実力者。上級貴族出身であり、讃岐家という家柄は、山の近く一帯に畑を作り、川の水を占領し、多くの飢えに喘いでる農民を見殺しにしたとして、農民の間では悪い方で有名な名家だ。(その出来事は80年ほど前のことだが)なので農民からの恨みの風評により、顔立ちや性格に反して、嫌ってる人も多い。


「なんだ、裂葉か」


「というか、三日月」


「本来は相棒バディを持っていない人は、森の中に入っちゃダメなんだよ」


 学院の生徒を守るため、原則として森への立ち入りは禁じられているが、優秀な成績を有する者は森への侵入を許しているというのは、以前述べただろう。しかし、何度も言うようだが、精霊と契約していない者は霊力がしている者とくらべ、著しく低いのである。よって、精霊と未契約で、精霊使いエスプリットユーザーになれてない者は当然、危険な森に入れる訳が無い。だが、精霊未契約の生徒は学院の中ではかなり珍しく、このようなきまりを知ってる生徒は少ないだろう。だから、廣邉と鐘山は三日月の校則違反を咎めなかったのだ。


「大丈夫。僕と一緒に行ったということにするから、今回の君の暴走には、先生方も怒りはしない」


「あ、ありがと」


 三日月は短く返事をした。

 気まずい沈黙が流れる。さっき、あんなことがあったため、裂葉の方でも、三日月の方でも、話かけにくかった。

 そんな状況で、裂葉が口を開く。


「なんで、森に行ったの?」


 暫く三日月は黙ったのち、こう呟いた。


「狼男が、出たって聞いたから……」


「やっぱりか」


 呆れたように、そう小さく漏らし、続いてこう告げた。


「三日月が、そのことで思い悩んでるのは知ってるけど、相手は妖だよ? たまたま仲間割れして、僕らのところに便乗して他の妖を葬ろうとしただけだって」


「そうだとしても、僕は……」

「その狼男に謝るべきなんだ」


 ハァと大きな溜息をつき、裂葉はこう言った。


「三日月は優しい。妖にまで、気を遣って。けど、謝る必要なんて無いと思うよ。だって、偶然合った森の狼がそいつだなんて確証ないじゃん」


「けど、その狼男は身体が小さくて、背中に!……背中に、大きな切り傷があったんだ」


「じゃあ、その狼男かもね。けど、そいつに合ったとして、どうするの?」


「あの時の非礼をびる」


「そんなことお構いなしに襲ってきたら?」


「それは……」


 早くも口籠る。そして、裂葉はもう一回別の視点から質問をする。


「仮に、狼男が三日月のこと覚えてたとして、謝って、許してもらったとしても、妖だよ?退治されるのがオチだと思うんだけど」


 三日月は何も言い返せない。そして、裂葉はもう一度、三日月に言う。


「三日月は、先々のこと考えなさ過ぎ。ちょっと考えたら分かることでしょ。」


「そう…だね。」


 気がつくと、学院の前に居た。


「大丈夫? 歩ける?」と裂葉。


「大丈夫」と三日月。


「じゃあ、僕は寮生じゃないから、帰るね。じゃあね。」


「あ、ありがとう。裂葉」


 そして、三日月は嫌な二人の居る部屋へと戻って行った。


 ここ、国立霊術東学院こくりつれいじゅつひがしがくいんは、国内で二つしかない、霊術学院の一つ。よって、遠方から来る者も多く、寮がある。裂葉は家が比較的近いため、寮通いでは無いが、三日月は西の方に家があるため、寮で暮らしている。

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