第3話1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール
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その一時間後くらいだろうか。二人が帰ってきた。だが、三日月は二人と一緒に居たくなかったのだろう。その時は早めの夕食を食べに食堂に行っていた。そのため、二人と彼とが会ったのはそこからさらに三十分後となった。二人はもう一人居るルームメイトの彼には目もくれず、二人で談笑し三日月に対しての侮蔑(ぶべつ)の言葉を投げかけていた。このことは彼にとって日常茶飯事なことであり、何とも思わなかった。そんな中、二人のうち、廣邉(ひろべ)がこのような言葉を言う。
「そういえば、さっき見かけた狼男って、こないだ街に出た狼男じゃね?」
三日月は廣邉の「狼男」というワードに反応し、耳を欹(そばだ)てる。そして、鐘山が答える。
「なんだその狼男って、初めて聞いたぞ」
「一昨日の夜くらいに、狼男が街に現れたって情報が出てるんだよ」
「そうなのか。じゃあ、俺とお前とかで討伐しねーか? 狼男って、図体が大きくてノロマだから、討伐しやすいのに、討伐したら、凄そうに見えるからチャンスだよな!」
「その狼男、小柄な上、背中には大きな切り傷があるから、討伐しても何も思われないぞ」
狼男の特徴を、話された瞬間に三日月は「あっ!」という声を思わず出してしまった。
(小柄で背中の大きな切り傷がある⁉︎ もしかしたら……)
と思った瞬間、二人の誹(そし)りが飛ぶ。
「おいおい、最高三位の木人様は「狼男」に反応したぜ? お前ごときが倒せる相手ではないっつーの! お前も俺らの仲間に入れて欲しいのか? 木人が俺ら貴族の仲間に入れる訳ねーだろ?」
木人という言葉は、貴族たちが平民たちのことを指して言う蔑称だ。貴族と平民が同時に学ぶことが多いこの学校の初等部などでは、この言葉によるいじめが横行してるらしい。
「なんだなんだ? その狼男、あのジジイを殺したから、俺が仇を取るって言いたいのか?」
二人は嘲笑し、彼を罵る。そして、彼は勢いよく立ち上がろうとし、言葉を発す。
「なあ、そいつをどこでm…」
ゴンッ という音を立てて、彼は蹲った。彼が二人に何かをされた訳、、、ではなく、ただ、立ち上がろうとした時、頭をぶつけてしまった。
二人の嘲笑が大きくなる。しかし、彼はもう一度二人に問う。
「その狼男をどこで見たんだ?」
(この二人に聞きたくない。けど、それしか彼の場所を知る手段は無いと思う。それに侮蔑はされるだろうが、僕に伝えても、あいつらが困るようなことは何も起こさないと思い、話してくるはず)
彼の狙い通り二人は、ペラペラと情報を出した。
「おいおい、まさかの図星かよ。復讐は何も産まないからな」
「五番通りの魔法の森の近くで見たけど、討伐しに行くのかぁ? お前のような落ちこぼれの木人ごときに何が出来るんだ?」
二人は更に嘲笑を加速させる。それを尻目に、三日月は外へ出、狼男を探すために、五番通りの魔法の森付近へと走った。
彼らが住んでいる国・大光倉帝国(だいこうそうていこく)は、東、西、南の三方が深い魔法の森に囲まれ、北の一方が海であるため、他国からの侵略を受けにくいという利点がある。
都市としては、精暦が始まる千年以上前から発展しており、精暦が始まる原因となった精霊大戦争により、滅びかけたものの、その守りやすさから都市だけは守り切ることが出来たが、三方にあった深い森に大量の妖(あやかし)が棲みついたことにより、これ以上領土を広げることが難しく、現在は小さな都市国家となった。
しかし、領土とは裏腹に
では、何故霊東はこんな危険なところにあるのか? と思うかもしれない。しかし、人が増えるためには、農作物が必要。その農作物を育てるためには、水が必要なのだ。水道は完備されている国ではあるものの、主食である米を食べるには大量の水が不可欠であり、雪解け水が流れてくる森の近くに人々は集まった。下流でも良いだろう。と思う人が居るかもしれない。しかし、この国に水道や下水道が完備されたのは、ここ五十年程度であり、それ以前は川に下水を流していた。そのため、下流の水は酷く濁っていることが多かったり、言葉通り我田引水な人がいたのか、下流まで水が流れてこないことがあった。それを避けるために、人々は多くの農民は森の付近に住んだ。そして、国立霊術東学院はおよそ六割が農民と、農民の割合が一割未満である国立霊術北学院と比べると圧倒的に農民の人数が多いため、当然の如く霊東は魔法の森の近くに作られた。
勿論、生徒の身を守るため、無許可での魔法の森侵入は罰則があるが、有名無実なものになってる側面もあったり、高等部に行くとそれなりの良い成績を収めれば無許可でも侵入出来るという制度があり、それによって、揚げ足取りが上手な貴族生まれの2人もこのことを咎(とが)めなかった。
三日月は五番通りまで走り魔法の森に侵入した。
(久しぶりの森だ。)
彼が夜の不気味な森に目を通す度、半年前のトラウマが甦(よみがえ)る。しかし、彼は帰れなかった。帰りたくなかった。あの妖(オオカミオトコ)に会って、あの時のことを謝る為に。
そして彼はニ匹の妖(あやかし)に出会った。から傘と轆轤(ろくろ)首だ。全盛期の彼ならこの程度の妖なんぞ、物ともしなかった。だが、彼は相棒(ユグドラシル)を失った。
彼は剣を抜き、ニ匹と対峙する。轆轤首が顔を伸ばし、彼を攻撃してきた。
彼はその伸びた顔をその剣で受け止めたまま、前進しから傘に攻撃を仕掛けようとする。しかし、そんな何のひっかけも無い攻撃をから傘が受けるはずもなく、から傘は傘を開き、ガードの体勢になる。彼は後ろに下がった。それから、轆轤(ろくろ)首が毒を吐いた。
(避けれ…)
あの毒は食らうと酷い頭痛や目眩(めまい)、倦怠感(けんたいかん)を催す。簡単に避けれると思ったんだろう。しかし、半年のブランクはやはり大きく、彼はその毒に直撃してしまった。
(早い…! こんなに早かったか? 僕が遅くなっただけなんだろうけど。それにしても、不味い⁉︎ こうなったら…)
「霊剣--
最大霊術の力を用い、彼は二匹に向かって、剣を大きく振るった。そして、二匹の妖が倒れた。
(僕は最大霊術を使わないと、この二匹は倒せないのか……)
しかし、能力の衰えが想像以上であったことで、彼は彼に幻滅した。
轆轤(ろくろ)首の毒によって、彼は早くも満身創痍(まんしんそうい)に近かった。
(それでも、あいつに会えるチャンスだ……! 行かないと)
しかし、少し歩みを進めた先に待っていたのは、妖の大群であった。
彼は血相を変え、急いで踵(きびす)を返した。
(無理だ、無理だ、こんな数!)
彼が背を向けて走った為、妖も彼を追う。
そして、ようやく妖を巻いたと彼は気づいたものの、彼の体力には限界が訪れていた。さらに、外に妖を引き連れてはいけないと、森の中をグルグルしたため、ちょっとした迷子でもあった。
(情けないなぁ……)
彼は木陰に倒れた。彼の耳に、トントンという足音が聞こえる。妖だろうか。
(僕、もう死んじゃうのかな……)
そう思いながら、彼は意識を失った。
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