焼き鳥革命

沢田和早

焼き鳥革命

 ある国にとんでもなく焼き鳥が好きな王様がいました。

 朝食、10時のお茶、昼食、3時のお茶、夕食、夜食、全て焼き鳥です。焼き鳥しか食べないのです。


「王に進言いたします。たまには他の料理を召し上がられてはいかがでしょうか。体を壊します」

 と家臣の者が勧めても、

「鷹狩りに使う鷹は鳥しか食べさせていないが元気だ。ならばわしも鳥しか食べなくても体が壊れることはない」

 と言って、まったく取り合ってくれません。あんたは鷹狩りの鷹じゃないだろう、と言いたくなる家臣でしたが、相手は王様なので黙っていました。


 王様は鳥に限定すればまったく好き嫌いがありませんでした。

 食べるのは鶏や鴨や七面鳥だけではなく、カラス、インコ、ハゲタカ、ハチドリ、ペンギンなどなど、とにかく焼かれた鳥ならばどんなものでも食べるのです。

 もちろん食べる部位も皮やモモや手羽先や軟骨だけではなく、クチバシ、骨、羽毛、羽根まで焼いて食べてしまいます。とにかく焼かれた鳥なら何でも食べるのです。


 さらに厄介なことには、週に一度国民を城に呼びつけて今週食べた焼き鳥の感想を長々と語って聞かせるのです。もちろん焼き鳥を食べながらです。この演説は毎回3時間くらいかかるので、国民はうんざりしていたのですが、相手が王様なので我慢するしかありませんでした。


「わしばっかり感想を述べてもつまらんなあ。う~む」


 王様は不満でした。自分がどれだけ焼き鳥の魅力を語っても何の反応もないからです。それは国民だけでなく城の家臣や王妃、王子たちも同様でした。


「もしや他の者たちは焼き鳥の素晴らしさに気づいておらぬのではないか」


 王様は、国民がどんな気持ちで焼き鳥を食べているのか知りたくなりました。そこでおれを出すことにしました。


 ――15才以上の国民は1週間に渡って毎日3食焼き鳥を食し、その感想を元にして『焼き鳥が登場する物語』を書き上げ、王様に献上すべし。期限は本日より1カ月。背いた者は串刺しの刑に処す。なお、刑に用いる串は焼き鳥の串なので命に別条はない。


「ちっ、面倒だなあ」


 と国民の誰もが思いました。しかし王様の命令とあっては逆らうこともできません。

 国民はせっせと鳥を捕まえ、ジュウジュウと鳥肉を焼いて食し、コツコツと『焼き鳥が登場する物語』を執筆し、なんとか期限までに書き上げて城に届けました。


「どれどれ、読んでみるか」


 王様は焼き鳥を食べながら山積みになった『焼き鳥が登場する物語』を片っ端から読み始めました。

 しかしどうにも面白くありません。焼き鳥愛が感じられないのです。

 それは当然でした。誰もが嫌々書いていたからです。


 そもそもこの国は養豚が盛んで、観光客の一番人気も名物料理『八角と五香粉が香るトロトロ豚角煮』なのです。もちろん国民のほとんどは焼き鳥よりも焼き豚のほうが好きでした。

 それなのに一週間もの間、食べたくもない焼き鳥を食べさせられたのです。溜まりに溜まった不満とうっ憤と怒りを全て叩き込んで『焼き鳥が登場する物語』を執筆したのですから、登場する焼き鳥が完全に悪役として描かれてしまうのは当然の結果と言えましょう。


「どうも国民の気持ちがよくわからんなあ。こんなに愛しい焼き鳥ちゃんをこんなに悪しざまに罵るなんて。う~む」


 悩んだ王様はまた新しいお触れをだしました。


 ――『焼き鳥が登場する物語』を執筆した国民は、どんな気持ちで執筆したかを思い出し、その記憶を元に【『焼き鳥が登場する物語』が登場する物語】を書き上げ、王様に献上すべし。期限は本日より一週間。背いた者は串刺しの刑に処す。なお今回用いる串は焼き鳥の串ではないので覚悟しておくように。


「いい加減にしろ、バカ王!」

「この国の名物は焼き豚なんだぞ」

「焼き鳥偏執狂なんかこの国には不要だ」


 ついに国民の怒りが爆発しました。武器代わりの焼き鳥の串を手にして城に押し寄せる群衆。


「諸君、よくぞ立ち上がった。さあ通るがよい」


 なんと、驚くべきことに城門は簡単に開かれてしまいました。

 実は城の家臣も衛兵も家来も使用人もみんな同じように焼き鳥を無理やり食わされ、書きたくもない『焼き鳥が登場する物語』を無理やり書かされていたのです。国民と同じく堪忍袋の緒が切れかかっていたところへ群衆が押し寄せてきたものですから、大喜びで無血開城してしまったのでした。


「王よ、速やかにご退位ください」

「毎日焼き鳥を食わしてくれるならOKよ」


 王様は無抵抗で城から連れ出され、辺境にある養鶏場に送られました。代わりに養豚場を経営していた王様の親戚が新しい王様となりました。

 新しい王様は焼き豚を最高の料理と制定したため国民から熱狂的に支持され、焼き豚王として寿命が尽きるまで君臨しました。

 焼き鳥を打ち倒し焼き豚を復興させたこの出来事は、民衆が焼き鳥の串を手に取って蜂起したことから「焼き鳥革命」と呼ばれ、後の世まで長く語り継がれることになりました。

 なお養鶏場に送られた旧王様は鶏の世話で忙しい日々を送りながらも、毎日三食焼き鳥が食べられたので、それなりに幸せな老後を送れたということです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

焼き鳥革命 沢田和早 @123456789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ