第5話 戦うしかないという不運
無限爪のライガ。
それはライガ・ルガ・バンテンガインに対して付けられた二つ名である。
彼の扱う武器は『
「俺様に続けぇっ!!」
『ウオオオオオ!!』
ライガさんの『タスク』が次々と進行上の魔獣を撃ち貫いていき、僕たちもライガさんの後に続いていく。そんな中、お父さんはライガさんの実力を分析していた。
「……風の噂によると彼は全ての属性を扱えると聞いていたが……間違いでは無かったか」
「全属性……!?」
お父さんの言葉に僕は驚いた。
ライガさんの事は英雄であると女神ネシアとの会話でなんとなく知っていたが、その名に恥じないとんでもない才能を持っているようだ。
「あの『タスク』と呼ばれる武器を浮かばせているのは無属性の念力で、そこから出ている光線は光属性の魔法。加速に用いてるのは火属性魔法か。とんでもないな彼は……あの武器一つ一つに全ての属性を用いて、それを同時並行で無数の『タスク』を制御しているぞ……!?」
お父さんはライガさんの力量に戦慄をしていた。
僕も同じ感想だ。ライガさんのマルチタスクぶりは最早人間業じゃない。いったいどんな頭の構造をしたらこんな戦い方が出来るのだろうか。
「オラオラオラァ!! どきやがれクソッタレ共がぁ!!」
絶え間なく発射される一斉射撃によって前方の魔獣は消えた。
……だが。
「っ! 団長ォ!! 空から反応が!!」
「マジかよ、よりにもよって!!」
傭兵の一人がライガさんに警告をする。
それに気付いたライガさんは顔を顰めて空を見上げた。
『――!!!』
何かがやってくる。
そう思った瞬間、僕の上が爆発した。
「うあっ!?」
「ジョン!?」
爆風による衝撃が子供の僕を襲う。
幸い怪我はないが頭が混乱して真っ白になる。
「い、いったい何が?」
「ちゃんと気張れや坊主!!」
ライガさんの怒号がやってくる。
そこで僕はライガさんが『タスク』の一機を操作して僕を助けたという事に気付く。何故なら上空には――。
『――ッ!!』
「なんだ、あれ……?」
燕にしてはなんて凶悪な姿と巨大さ。恐らくあれが上空から僕を襲い掛かろうとして、ライガさんがビームで守ってくれたのだ。
「クソ、アイツまで来るとはな!」
『――!』
ライガさんが舌打ちをする。そして『タスク』をソイツに向けてビームを放った瞬間、ソイツは動いた。
「は、速い!?」
紺色の尾を引いてソイツは超高速で空を飛び回る。まるでSFアニメに出てくるとんでも戦闘機のような奴だ。ライガさんの全方位ビームでもソイツは変態機動を取って回避してやがる。
「ドラゴニクス・スワローテイル……龍因子持ちの魔獣まで出て来たのか!」
「え、何その龍因子って……」
「邪神を除けば最強と謳われる生命体ドラゴン……その自らの因子を使って生み出したのがドラゴニクスシリーズと呼ばれる特殊な魔獣群だ」
「傍迷惑過ぎるだろドラゴン!?」
お父さんの解説に僕は絶叫する。
しかしこれで事態は悪化した。
あのようなとんでも生物と渡り合えるのは現状ライガさんだけで、ライガさんがドラゴニクス・スワローテイルと戦うとなると自然と前方の退路が取れなくなっていく。
だから叫ぶ。
「仕方がねぇ! お前ら頼むぞ!」
「了解、団長!!」
バンテンガイン家の傭兵が抜剣する。
逃走速度は遅くなるが、一人一人戦うしかないのだ。
「『
「――水攻めで溺死させる! 『
傭兵が魔法を詠唱し、各々前方の敵を倒す。
「はっ、よっ!」
その中には次々に転移して瞬時に敵を切り裂くレオナの姿もあった。
「……っ」
そんな中僕は躊躇っていた。
僕の前世は戦いとは無縁な国の人間で今世ではただの子供であるが故に戦いたくないという心がある。だがそれとは反対に、邪神を倒した念力に自信があるからこそ傭兵の人たちと一緒に戦いたいという心もある。
そんな僕に。
「ジョン! お前は戦うな!」
「っ、お父さん……?」
「子供は大人に守られるものだ! そして大人は! 父は! 家族を守るものだ!! だからお前が戦う必要はない!」
親としてそれは真っ当な言葉だ。
だがそれでも僕は迷う。
傭兵と一緒に戦っているレオナは僕と同じ子供じゃないか。
だけど大人と混じって彼女は戦っている。
それは彼女に力があるから? 自分たちの命を守るために戦っているから?
僕には何がある?
僕には何が出来る?
そう考えたら、僕は居ても立ってもいられなくなった。
◇
レオナ・ルガ・バンテンガインは天才だった。
偉大な父の才能を引き継ぎ、英才教育も受けた。
僅か五歳にして、父と同じく全ての属性を扱える才女。
特に白狼族としての力は父をも超えると言われる英雄の卵。
新人やベテランを差し置いて、彼女はいつものように父の依頼に同行する。
それが彼女の日常で、今回もそのいつもの日常の一つだと思っていた。
「まだまだ……!」
無属性魔法の一つである短距離転移を連続で発動してヒットアンドアウェイを繰り返す。通常ならたった一回の転移で大半の魔力を消費するが彼女は平気だった。
この膨大な魔力もまた彼女の才能の一つ。そして白狼族の能力である部分変化を用いれば、彼女の手はどの武器よりも勝る獣の爪になる。
「はぁっ!!」
敵はない。そう思うのは無理からぬ事で、事実そのものだった。
「食らえ!!」
その目に映るのは偉大な父の背中。英雄の娘として生まれ、次代の英雄を担う彼女は父の姿だけが全てだった。
油断はしていない。
しかし慢心していた。
今回もまた、いつものように依頼を終わらせるだけの日常であると。
「っ、お嬢!?」
傭兵の一人がレオナの状況に気付く。
遅れてレオナも気付いた。
(背後に魔獣がいる……!?)
いつものように転移で近付き、攻撃し、転移で離れる。
その転移直後に起きる僅かな硬直を、魔獣は狙っていたのだ。
「こいつっ!」
見て、反応する。
才能ある彼女ならこの状況でも相打ちを狙いに行ける。
そう、相打ちだ。
この状況に陥った今、自分は最早ただでは済まないだろう。
だがそれでも攻撃を止めない。僅かながらの可能性に賭けて回避もしない。
あるのは自分に襲い掛かる畜生の息の根を止めるという意志のみ。
そこに。
「うわああああ!!」
何かが、かなりの速度を伴ってこちらに駆けてくる。
『なっ!?』
かなりの速度で馬を走らせている傭兵たちを置き去りにしてすっ飛んで来る。誰も彼もがその存在に気を取られ、呆然とする。
「食らえやぁっ!!」
その声を、レオナは知っている。
初めて会ったときは自分の事を棚に上げてこんな子供がと思っていた。
本当に邪神を倒したのかと疑問を抱いていた。
潰された家の前で泣いている情けない子供だと思っていた。
自分に告白をするという気持ち悪い事をして、若干苦手意識を持った。
それでも轟樹という馬の人形を操作する時の楽しそうな顔が思わず笑いを誘った。
そんな不思議で奇妙な少年。ジョン・マクレイン。
彼は轟樹を操り、レオナに襲い掛かろうとするよく分からない魔獣を吹き飛ばしたのだ。
「まだまだぁ!!」
「え!?」
レオナは目を見開く。
なんとジョンは吹き飛ばした魔獣の尾を念力で掴み、それを振り回したのだ。
「オラオラオラオラァ!!」
『ギャ、ギュペ、ギュ、ギュオア!?』
武器と化した魔獣は悲惨な事になっている。
味方の魔獣と激突して原型がやばくなっている他、死んでも尚振り回されている。
「オラァ!!」
そして用済みと言わんばかりに柔らかい棍棒と化した魔獣を投げ捨てる始末だ。
「レオナさん!! 早く乗って!」
「あ、あぁ……」
ジョンの言葉にレオナは我に返り、轟樹に乗り移る。
ジョンは彼女が自分の後ろに乗ってくれた事に喜びを抱くも、すぐさま今の状況を思い出し、顔を引き締める。
「さぁこの半径二メートル範囲内……死にたい奴だけ入って来い」
――もっとも。
「こっちから殺しに行くけどなぁ!!」
念力の範囲内に入った周囲の魔獣の死体を掴み、縦横無尽に振り回し、駆けていく。
「め、滅茶苦茶だ……」
これが初めて見る同年代の戦い方。そして初めて英雄である父以外に目を向け、初めてジョンという少年に目を向けた瞬間だった。
◇
「やるじゃねぇか坊主!!」
娘のピンチに焦ったが、護衛の息子がなんとかしてくれて喝采を上げるライガ。いや事実だけ見れば傭兵としてとんでもない失態を見せているがそれはそれ。
依頼人であるクラウスが険しい表情を浮かべているがそれもそれである。
「ならこっちもとっとと片付けなきゃあなぁ!」
ドラゴニクス・スワローテイルを相手にしている『タスク』を操作し、相手を誘導させる。
『――!!』
「鬱陶しいだろうがそれも終わりだぜ燕野郎!」
「なっ、ライガ!! 龍燕がこっちの正面に!」
事態に気付いたクラウスがこちらを睨む。だがこれでいいのだ。何故ならビーム照射で相手をこちらの真正面に誘導させていたのだから。
「集まれ『タスク』」
念力を使い、空中に浮かばせていた全ての『タスク』を自分の元へと引き寄せる。ライガは自分の右腕を水平に伸ばし、叫んだ。
「『モード、タスクガントレット』!」
一つ一つの『タスク』がライガの右腕に集まり、合体していく。やがて巨大なガントレットになった『タスク』を構えて、正面から向かってくる龍燕を迎え撃つ。
「さぁて」
ライガ・ルガ・バンテンガインはニヤリと笑い、そして――。
「カッコイイ俺様の姿、見せてやるぜ」
『――!!!』
両者激突する寸前。
――ライガの右腕が動いた。
「『
その瞬間、ガントレットの五本の指先から光の刃が飛び出し、すれ違い様に龍燕の体を縦に両断したのだ。
『――……?』
「厄介な奴はこれにておさらばだ」
両断された魔獣がどうなったかは、もう既に興味はない。
ライガはこのまま、スタンピードから逃れるために馬を走らせた。
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