A011『サキュバスvsおけら』(15分で639字)

A011『サキュバスvsおけら』(15分で639字)

【ホラー】悪魔・歌い手・見えないかけら


 ソプラノは話題の歌い手として各地の動画投稿サイトで活躍している。


 国籍を問わない人気からやがて各国語の歌も手がけはじめて、ついに全世界ライブツアーが企画されている。


 ところが出発の前夜に、最大のピンチに見舞われていた。


「マネージャー、見えた?」

「見えないです。本当に音が?」


 これまでパパラッチ騒動とは無縁だったソプラノに、初めてご家庭の近くに現れた音がある。人間ではない。ソプラノが抱える秘密のお陰でこれだけはわかっている。


 騒動がなかっただけで、パパラッチはいくらでもいた。その全てを無力化して飼い慣らす技がある。ソプラノはサキュバスだったのだ。同じ理由で、動画投稿サイトを通じて国籍を問わない人気を得られた。


 その力が今は通じない。最大の問題だ。


「やっぱり虫とかじゃないですか?」

「機械みたいな音を鳴らし続ける虫が? 信じられないよ」

「僕にはその音が聞こえてないですけどね。遠いようなら、見てきます」

「一人にするな。一緒に行く」


 マネージャーは呆れ顔で、並んで歩いた。この様子をスキャンダル扱いで騒がれるリスクのほうが大きいと踏んで、女性スタッフを呼びつける。夜とはいえ八時だ。まだ無理が効く。


 ソプラノが示す音の方へしばらく歩いた。まずはスタッフの二人が合流してきた。件の音がソプラノ以外にも聞こえた。


「ほら! 聞こえただろ! みんな聞こえただろ! こんな虫がいるか!」

「ケラだと思いますけどね」

「私も」

「私も」


A011『サキュバスvsおけら』(15分で639字)

【ホラー】悪魔・歌い手・見えないかけら

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