A006『代価は小さく見せる』(24分で1151字)

A006『代価は小さく見せる』(24分で1151字)

【ミステリー】悪魔・テント・冷酷な子ども時代


 キガが通う小学校の七不思議のうち、悪魔憑きの話は事実である。


 キガは一月生まれゆえ、同級生の中でも成長が遅い。何をされても反撃が下手で、目を惹く能力も持たない。雑多な集団でもそんな共通認識が得られればもちろん、団結するための生贄に使う。今日もキガが教室へ向かう途中で、後ろから近づき、肩を叩きながら大声の挨拶をしていく。


「よお! 元気ないな!」

「おっす! 無理すんなよ!」


 キガは曖昧な返事ばかりで、彼らは待たずに先に教室へ飛び込む。賑わいが廊下まで聞こえる。


 今週の掃除当番はごみ出しをキガが担う。教室の大きなごみ袋の口を縛り、一階の物置横にまとめる。大きくて重い荷物を運び込んだ後、壁にもたれかかって休憩とした。


 その隣から悪魔が現れた。


「初めまして。キガくんだね。どうだろう、僕と契約をしてみないか?」

「ケーヤクって?」

「もちろん説明するとも。いつものやかましい連中、あれに対抗できる強さをあげよう。もちろん、君が望む分だけあげる。その代わりに君は、顔が地べたに触れるごとに寿命をもらう」

「眠ると死ぬってこと?」

「いいや。地べただけだ。僕は地べたの精霊なんだ。布団はもちろん、床にもなれない。地べただけだ」


 キガは少しだけ考えた。強くしてくれるならきっと、地べたに顔が触れはしない。転ぶ機会なんて滅多にない。もっと小さい頃ならいざ知らず、もう小学生だ。


「本当に僕を強くしてくれる? タケシより?」

「もちろんだとも。握手をしたら契約成立だ」


 悪魔が差し出した手を、キガは取った。影に包まれて外見に似つかわず、触感はビニールシートに近い。もっとモジャモジャに思っていたが、テントの設営に似た感触だった。


 この一瞬でキガは強くなった。教室に戻ったとき、いつものようにタケシが絡んできたが、手に取るように次の動きがわかって、右手でタケシの拳を受け止めた。


「うお!? なんだよキガ、急に」

「うるさい。もうタケシには負けないぞ」


 キガは拳での反撃を試みる。タケシの顔に迫る一撃を、隣からツヨシが受け止めた。


「お前そりゃねえだろ! 急に殴るなんてよ!」


 印象操作でキガを悪者に仕立て上げる。本能的に使いこなしている。対立において、口が多い方が強く、声が大きい方が強い。


 キガは強くなった。しかし、タケシよりも止まりだ。この中では最強のタケシを上回る程度を願った。ゆえに、複数に囲まれれば成す術なくキガは負ける。


 乱闘の末にキガは窓から落ち、地べたに顔を打ちつけた。何事もなければ生き延びられる程度の傷でも、キガには契約がある。寿命を吸う勢いは契約に入れていなかった。一秒につき一年の寿命を吸われて、二分後に救急隊が駆けつけた。



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