A005『地獄の女王の直々の地獄』(23分で747字)

A005『地獄の女王の直々の地獄』(23分で747字)

【ラブコメ】地獄・人形・悪の主従関係


 ソプラノは退屈していた。

 

 現世の理を出て電車で五分の距離にソプラノの居城がある。現代の支配者となるサピエンスたちの行動を眺めて、ときどきプレゼントを贈って、人形遊びを楽しんでいた。初めはどんどんと領地を拡大したり新たな発明品を生み出したりしていたが、ここ数世紀はリメイク作の繰り返しが続き、すっかりおへそを曲げている。


「お嬢様、こちらを」

「じいやには分からぬ」


 提示される朝刊の一面記事を遠くから見ただけで突き返す。定命のじいやの感性では興味深くとも、ソプラノには響かない。


 宇宙への移住を進めさせても、怪物と戦わせてみても、サピエンスは過去をなぞるばかりで、挑戦をしない。情けない失敗を減らす方法であり、サピエンスの発展を進める方法であり、ソプラノの欲求とは真逆の方法だ。


 人形遊びはフィギュア鑑賞会に変化している。動かすのではなく、眺める。ソプラノにはいくつかのお気に入りがある。そのひとつがアルトだ。


「じいや、彼女への『手紙』を」

「送りましょう」


 各地の有力者が金を積んで彼女を呼び、その度に害獣の退治をしている。手段が原始的で属人的ゆえ、彼女を眺めていれば近現代の手段が通じない相手が集まってくる。その中から新しい野望を探す方が、新聞よりもよほど可能性があった。外れてもアルトの外見だけは味わえる。


 今日はついに見つけた。新しい出来事が起こり、アルトが立ち向かう。


「じいや、待って。私も久々に現世へ出ます」

「は? 『手紙』は?」

「中断して。もっと楽しそうなものが始まるのだから、特等席へ行きますよ」


 じいやは久しぶりに、ソプラノの浮かれ顔を見た。現世に新しい地獄が生まれる。新しい仲間が増える場合に備えて、指示のマニュアルを整える。


A005『地獄の女王の直々の地獄』(23分で747字)

【ラブコメ】地獄・人形・悪の主従関係

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