第62話「魔王の器」

『魔王の器』を『魔王』に仕立てる。

 それがどういう意味かエヴァンは混乱してしまう。

 オムサはその事を見越したのか。


《そぅですねぇ〜、『魔王の器』の分かってる事を共有しましょうかぁ〜》


 と提案してきた。


「ぜひ、お願いします」


 ロドルナが先に答えた。

 こういう状況でも、ロドルナの欲深さは揺るがなかった。


《ではぁ〜、『魔王の器』は『魔王』の元になる能力でぇ〜、条件を満たせば『魔王』になるのぉ〜》


 そんな能力があるのか。

『魔王』という単体の能力ではなく、条件を満たせば進化するような能力が。


「そんな…………能力があるんですか?」


 エヴァンは質問する。

 条件を満たせば発動できるのが能力だが、進化する能力は聞いたことがなかった。

 ロドルナも同様なのか、エヴァンをほんの少し睨む。

 ここまで軸がブレないのも才能だろう。


《神託歴の始まりはぁ〜、そんな能力ばっかりだよぉ〜、今は無いだろうけどぉ〜》


 そんな能力があるらしい。

 それも神託歴の始まりから。

 一千年も前から。


《だからぁ〜、適当な魔人族を捕虜にしてぇ〜、調べればいいよねぇ〜、『魔王の器』だったら条件を満たしてしまえば『勇者』が生まれるからぁ〜、後は殺し合えば平和だねぇ〜》


 物騒な言葉が飛び出たが、エヴァンもロドルナも現実的な提案と思えなかった。

 魔人族を捕虜にする労力とそれに見合った成果が得られない。


「それは、とても苦しい選択ではないですか?」


《まぁねぇ〜、だって魔人族相手だと人族不利だもんねぇ〜、だから苦肉の策て言うのかなぁ〜》


 エヴァンの質問に答えたオムサは続ける。


《最終手段はぁ〜、『魔王の器』の確保と発動条件の達成でぇ〜、それまではぁ〜、『魔王』を殺す手段を探した方が賢明かなぁ〜》


 それまで、エヴァンの活動できるギリギリまで、『魔王』を討伐する手段を必死に探さなければ、魔人族との全面戦争へと発展する。


 魔人族と言えど、同族を捕虜にされ実験体とされるのを嫌うはずだ。

 血みどろの争いを生んでしまう。

 エヴァンは、それだけはどうしても避けたい。


「では、エヴァン・レイには今後も同じように働いてもらえばいいのでしょうか?」


 ロドルナは口の端を緩やかに上げる。

 エヴァンをこき使うつもりなのだろう。


《そうだねぇ〜、『魔王』の動きもないしこの隙に幻生林とかぁ〜、調べられたらいいよねぇ〜、魔獣被害で肉盾が無くなるのも苦しいしぃ〜》


 肉盾とは、傭兵や冒険者の事だろうか。

 穏やかな表現とは言えない。

 エヴァンの胸の内にもやがかかる。


《エヴァンちゃんにはぁ〜、魔獣討伐とぉ〜、『魔王』討伐とぉ〜、幻生林の調査とぉ〜、『魔王の器』探しをしてもらおうかなぁ〜》


 そう言うと、オムサは両手を振りながら。


《あとぉ〜、わたし達がぁ〜、手伝えるものは手伝うからねぇ〜、教えられるものも教えるからねぇ〜》


 と補足した。


 エヴァンにとっては、スッキリしない気持ちを抱えたが、『魔王』の事や『魔王の器』の事、対の魔女との接触が出来たので充分な収穫はあった。

 ただ、オムサは慌てたように再び話し始める。


《あ、『魔王の器』のヒントも教えておくよぉ〜》


 首を傾げながら。


《『魔王』も『魔王の器』も発現しないからぁ〜、だからぁ〜、魔人族の女の子の中から探してねぇ〜》


 と、エヴァンへヒントを与えた。

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