第55話「夢ノ三」
とある同い年の少女が嵐のようにやって来てしばらくしても、その少女は毎日やって来た。
晴れの日も雨の日も風の強い日もどんな日でも、やって来てはわたしを連れ出して行った。
どんなに抵抗しようとも、無理やり連れて行かれて、何か言っても「外の世界はいいものよ! 本の虫!」と一蹴された。
それでも、わたしにとっては本を読む時間が短くなるので、あまりいい思いはしていなかったが、両親からは顔色が良くなったと言われた。
今までの差は感じられなかったが、本を読む以外に良いことがあるとは思えなかった。
柔らかな雪が降るある日、少女は書斎の扉を開けた。
「本の虫! 行くわよ!」
モコモコの衣服に身を包んだ少女は、鼻を赤くしながらも誘いに来た。
少女には休みがないようだ。
「本を読んでるから」
「あら、雪の綺麗さを確かめないともったいないわよ。今年の新雪よ。とても柔らかく冷たく心地よい感触を味わないと、雪に失礼だわ」
ズカズカと、少女は本溜まりを突き進む。
そして、いつものようにわたしを引っ張る。
「雪の描写て覚えているかしら? とても種類があって面白いのよ」
少女はわたしを外に連れ出しながら、語る。
「雪質……というのがあるそうよ。今日みたいな柔らかい雪は水分が少ない粉雪、転んでもそんなに痛くないしほとんどが空気だそうよ。他にも乾燥したサラッサラッの雪もあるらしいわ。後は雪の表面だけ固くて、中は柔らかいなんていう不思議な雪もあるそうよ。もちろん、乾燥していない水分の多い雪もあるのよ。これは雪玉にすぐ出来るし、当たると痛いけど投げやすいから、雪合戦する時には覚えておきなさい。後は、ザラザラとした感触の雪もあるのよ。いっぱいあるから触ってみなさい」
少女がそうは言うものの、外に出た寒さでわたしは身体を震わせる事しかできない。
寒すぎる。
これなら暖かい部屋で読書の方が数倍いい。
「ほら、今日みたいな日は、空気が澄んでて美味しいでしょ」
少女は
この寒さに美味しいも不味いもないでしょ。
「あら、不満そうね」
「不満のない方がおかしいでしょ」
睨みつけても、少女は涼しげに流した。
このやり取りも何度したのだろうか。
「では、一つお得な事を言いましょうか」
もったいぶらせて、小悪魔のように笑いながら、わたしに少女は言う。
帰宅というのがわたしにとって一番のお得なのだが。
「この時期は温かいものが露店に並ぶのだけど、オススメは牛肉のシチューよ。トロトロになるまで煮込んだ牛肉に、箸で掴むと崩れてしまう程に柔らかな人参やじゃがいも、野菜と牛肉の味が染み出たスープは濃厚で深みがあるのよ。一緒にパンを浸して食べると、あら不思議。いつの間にか空いた皿を名残惜しく見てしまう程よ」
少女はとても満足げに語る。
よほど好きな様子だ。
「と、いうわけで。食べに行くわよ!」
少女はぐぅ、と腹を鳴らしながら、またわたしの手を引っ張る。
寒さで震えるわたしが、ビーフシチューの美味しさに感動したのは言うまでもない。
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