第51話「エティカの場合」
エヴァンと慈善の魔女との会話も終了し、エヴァンがストラ領への帰路を急いでいる時、エティカは自室にて読書をしていた。
絵本と辞書を並べ、それぞれを見比べながら、熱心に読む。
絵本に書かれている言葉を辞書で調べ、言葉を学んでいく。
それは昔からしている事のように、手馴れた様子で調べていく。
エヴァンが早朝に出掛けてから、既に昼を過ぎている。
眠い目を擦りながらアヴァンの支度を眺め、ローナの手際の良さに感心していたが、宿屋や掲示板を利用する冒険者が増えた頃合に、邪魔にならないように自室へ向かったのだ。
小さいとは言え、十歳ともなればそういった空気の読めるエティカではあったが、自室でやる事はもっぱら読書。
暇潰しにも、時間も寂しさも埋めるには、充分だった。
コンコンコン。
部屋の扉をノックされた、エティカはビクン、と驚く。
どうしよう、と迷う暇もなく扉は開けられる。
「失礼します。エティカちゃん、大丈夫かしら」
部屋に入ってきたのはローナであった。
「うん、だいじょう、ぶ」
ローナはある程度の業務を片付けると、エティカの様子を見に来たのだ。
そのままエティカの元まで静かに歩く。
「あら、本を読んでいたのね」
「うん、おもし、ろい」
エティカの絵本と辞書を交互に読んでいる様子に、ローナは目を見開いた。
併読していたのだ。
ローナからの辞書とエヴァンからの絵本を有効活用していた。
エティカは意外と読書家なのかもしれない、とローナは感じる。
「それなら嬉しいわ。エティカちゃんは読書家なのね」
「うん、ほん、よむの、すき」
満面の笑顔で答えるエティカ。
その頭を優しくローナは撫でる。
「プレゼントした甲斐があるわ、ありがとうね」
「えへへ」
撫でる度に触れる角の感触。
可愛い痩せ細った彼女であろうと、魔人族である事をそれが象徴していた。
それでも、エヴァンが保護している。
助けた、という事実があるので不安要素はない。
寧ろ、小さな角さえも可愛らしいと、ローナはそう思えた。
プレゼントした物を大事に使ってくれているのも含め、愛おしさも増していく。
「やはり、エヴァンにはもったいないわね」
「ん〜?」
首を傾げるエティカ。
ポツリと零した独り言、エヴァンにはもったいない程、可愛く賢く気遣い上手の子を撫でる。
「何でもないわ。それより、何か欲しいものはあるかしら?」
さながらその様子は、姪に小遣いを上げる叔父叔母のようであった。
「ほしい、もの?」
「ええ、買い物に行くからその時に買おうかと思ってね。何か欲しい物はあるかしら?」
その言葉にエティカは考える。
唇に小さな指を添えて。
「わかん、ない」
「まあ、そうよね。まだここに来て、数日ですものね」
来て数日で欲しい物を頼める程、エティカは自己を主張していない。
奥ゆかしい子で、「欲しい物は?」と聞いても、遠慮して言わないだろうと思っていたローナ。
そこで、もう一つ提案する。
「エティカちゃんも、良かったら一緒に行く?」
「え……」
「買い物。一緒に行きましょう」
このまま読書をしてもいいのだが、外の景色も見せてあげたいローナ。
そして、色々な必需品も揃えてあげたい。
特にエヴァンはそこら辺の気遣いが難しいからこそ、ローナは気遣ってあげたい。
だからこそ、提案した。
「いい、の?」
「ええ、一緒に行ってくれるなら嬉しいわ」
そこで、エティカは読みかけの本とローナを見比べる。
視線が右往左往と。
どちらの誘惑も魅力的だ。
「……いっしょ、に、いく」
選んだのはローナとの買い物だ。
「ありがとう、じゃあ一緒に行きましょう」
「うん!」
エティカとローナは仲良く笑いあった。
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