第48話「魔女」
これから質問を投げかけようとしたタイミングで、オーマは口を挟んだ。
「あ、ああ、あの、一つ、条件、が、あります」
エヴァンの質問にただ答えてくれる、そんな甘い話ではないようだ。
「な、なんでしょう」
「あ、あ、あ、あたし、からも、質問を、します、それに、答えて、くれる、なら、お話、します」
提示されたのは妥当な交換条件であった。
しかし、質問を投げ過ぎると、かえってエヴァンが不利な状況に陥る可能性が増した、という事でもある。
魔女に何を質問されるか想像も追い付かないが、恐らく長引かせ、多くの質問をするとエヴァンにとって聞かれたくない質問を、返されるだろう。
そして、核心をついた質問も気軽に出来ないという抑止力にも繋がっている。
無難な質問であっても、攻めた質問であっても嫌な予感がエヴァンを包む。
それはまるで首を掴まれているような、絞め殺されてしまうのでは無いか、そんな雰囲気にエヴァンは身震いをする。
「そ、それで、質問は、なんで、しょう」
無言の空間に耐えられなくなったオーマは催促する。
その言葉にハッ、とすると質問を何も考えてないエヴァンは、若干の焦りが見られるが、隠す。
ただ、無難な質問は決まっていた。
「失礼しました。……質問ですが、魔女とはどういった者でしょう?」
あまりにも無難な質問だが、実際魔女の事を知らないのも事実の為、口火を切るには充分だった。
「あ、あ、あの、大きい、質問、なので、一から、説明します」
オーマは一言。
「ま、魔女とは、魔力の、総量が、大きい、者を、指して、います。そ、その中、でも、魔術、を、術式を、使わずに、発動できる、者です」
そこまで話すと一呼吸置くオーマ。
「じ、実際、には、ウレベ様の、認可、で、魔女を、名乗る、事が、できるので、認可、次第、とも、言えます」
ウレベによる認可で、魔女と名乗ることができる。
それはエヴァンにとって、初耳だった。
それ以外にも、魔術を術式も使わずに発動できるという事。
エヴァンの使用した認識阻害の術式を施す手間暇も、必要なくノータイムで認識を鈍らせる事もでき、更には咄嗟の応用も可能という事。
これは、並大抵の理解力や努力では叶わない。それこそ、数世紀に渡って研究せねば至ることが出来ない領域。
その領域に魔女はいるのだ。
全ての魔女が術式を使わずに、魔法と同様手軽に使用出来る。
魔女というのは名前だけではなく、それ相応の実力が伴った者。
それだけで、警戒するには充分だった。
「認可というのは、実際にウレベ様の前で魔術を使用するのですか?」
「あ、あ、あの、あたし、の、し、質問が、先です」
続けざまの質問は、例え話の流れであってもオーマは拒否した。
一問一答。
それが徹底していた。
そして、話の流れを断ち切っても大して気にもとめず、自身を優先するのは慈善の魔女とは思えないエヴァンであった。
「すみません……。質問をどうぞ」
「あ、あ、あの、『救世主』、とは、なんですか?」
エヴァンの謝罪を聞き流し、それでも質問したのはエヴァンの能力について。
当たり障りない話のように思えるが、能力とは魂と同一存在のように言われている代物。
つまりは、大きな個人情報。魂の身分証明書とも言える。
そんな個人情報をおいそれと、内容は、発動条件は、いつ頃に発現、と語る人は少ない。知っていても家族や数名の知人、後は『鑑定士』といった能力の鑑定をする者くらいで、ほとんどの人は能力を隠しつつ生活している。
エヴァンのように『救世主』や『魔王』、『勇者』は特別な位置づけの為に口外しているが、本来は口外するべきものでは無い。
能力を悪用する者がいるかもしれないからだ。
慈善の魔女も、悪用する可能性がある。
そう考えると、当たり障りない情報で誤魔化すべきだとエヴァンは判断する。
「救うべき者を救う為の能力ですが――」
「そ、そんな、のでは、なく、詳しく」
魔女の事を知らないエヴァンと、『救世主』の事を一般的に流れている情報を知っているオーマとでは、不平等な程差があった。
しかし、詳しくと言われても、内容はエヴァンの言っている事が全てで、それ以上は発現や発動条件という事だろう。
すんなりと口にしてもいいのだが、魔女の事を深く聞かなければ不公平とも感じるエヴァン。
「それは、発動条件とかでしょうか?それとも発現した時期の事でしょうか?」
「す、全て、詳しく」
全て、と。
『救世主』の全容を教えて欲しいと。
エヴァンの魔女についての質問への、返しが全容となるとあまりにもオーマが貪欲なのか、強欲なのか、ただ単に会話自体を億劫に思っているのかもしれないが。
挙動不審であることに変化はない。
「すみません、発動条件や発現した時期をお教えしたいのは山々なんですが、生憎覚えていないもので。いつの間にか発現していたと、お答えします」
エヴァンのその一言に、オーマは鋭い視線を向ける。
隠しているのかを見極めるように。
だが、エヴァン自身、『救世主』の発動条件や発現を覚えていないのは紛れもない事実である為、オーマの視線を受け止める。
「……そ、そう、ですか。そう、しとき、ます」
オーマは明らかに不服そうな様子で、エヴァンの返答を聞き入れた。
「では、私からの質問で。魔女とは何か詳しく教えて頂きたい」
オーマが深く聞いてきた以上、エヴァンも深く聞かなければバランスが合わない。
相手が得られる情報は少なく、こちらが得られる情報は多い方がいい。
魔女自身、得体の知れない存在なのだから。
「く、詳しく、とは、具体的、に、どう、言いましょ、うか」
「そうですね。オーマ様もウレベ様も、慈善や勤勉の魔女と言われていますが、慈善や勤勉とはどういう意味合いで付けられているのでしょうか」
その質問に、オーマは挙動不審な態度を止め、静かに考える。
考えるも数秒程で、オドオドした態度に変わる。
「で、では、慈善の、魔女、の、説明、を、します」
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