第27話「夢ノ一」

 目を覚ますと、湖畔のような泉の中心に出来た、一本の木の下に横たわっていた。

 どれくらい、寝ていたのだろう。

 動くのさえ億劫で、目を開くのさえ難しく思える程、長い眠りについていたようだ。


 どれくらい、寝ていたのだろう。

 父親は、どこに。母親はどこに。

 ようやく目を開く。


 状況は掴めないが、森の中にいた。

 ただ、泉に見覚えはあった。

 中心の木も記憶から引っ張り出してくる。

 長い眠りに埋もれた記憶を掘り起こす。


 ああ、そうだ。

 ここは幻生林だ。

 でも、何故ここに?

 わたしは、父親と母親と一緒にいたはずなのに。

 手を繋いでいたはずなのに。


 今は、誰もいない。

 どうして、一人なのだろう。

 身体をなんとか起こす。


 地面を触った感触が、とても鈍く感じる。

 まるで自分の手が、他人のような感覚になる。

 歩けるのだろうか。

 気だるく、重苦しい身体は少し動かしただけで、悲鳴をあげる。


 これは動かせない。

 自分の身体がまるで他人事のように、重い。

 起きたばかりだからか。

 ずっと寝ていたからだろう。


 寝る前の幻生林とは、形が違うように思えた。

 雰囲気も、獣も。

 泉の周りは澄んだ空気なのに、それ以外は淀んだ空気の感じがした。


「苦戦していますね。それでも起きることは、いい事です」


 誰の声だろう。

 いつの間にか、人がいた。

 先ほどまで、誰もいなかったはず。


 光が眩しく、なかなか声の主を視界に入れる事ができなかったが、聞いた事のある声だった。

 ああ、そうだ。

 魔女様だ。

 あの時の魔女様だ。


「早速ですが、時間もあまりありませんね。私の言葉を信じて、従ってくれますか?」


 両親が信仰し、従ってきた魔女様がそこにいるのだ。

 きっと導いてくれるだろう。

 安堵する。

 一人きりで不安だった世界に、光が差したようだった。

 声の出し方を忘れてしまったか、と焦ったが、声は何とか絞り出せた。


「は…………い」


「いい事です。それでは私の言うことをよく聞いて下さいね」


 そこで、わたしの記憶は断ち切れた。

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