「銀平君、ミハルはどこかの役所か官庁を受けたのかな」

「それはないでしょう」

 伯父さんはミハルを公務員関係の専門に行かせなかったことを後悔している。銀平はそのことをマチ子から聞いていた。そしてミハルが公務員になるつもりがないことも知っていた。

 親父が良く出演していたライブバー。といっても、ライブがないときは普通の飲み屋だ。

「ミハルは何がしたいのかな」

 銀平は何と答えていいかわからず黙ったままライムサワーの入ったグラスを見つめている。

「彼氏がいるのかい」

「それは問題ないです」

 春樹は銀平が即答したことに少し安心する。

「あいつをつなぎとめられるような男じゃないですから」

「それはわからないよ」

 銀平は春樹が即答したことに少し不安になった。

「おじさん大丈夫ですよ」

「あいつは大阪に戻ります」

「こっちにいる理由が見当らない」

「僕もそうですけれど、この歳で何がやりたいかわかっている奴の方が少ないと思います」

「そうだよな」

「でも決めなくちゃならないんだ」

 あいつより悩んでいるのは自分の方かと銀平は思った。

「どうして音大に行かなかったんだい」

「音楽なんて音大に行かなくたって出来ますよ」

 いつの間にか二人の前に店のマスターがいた。

「銀平君、店を継がなくちゃって思ってる」

「それは考えたことはないです」

 春樹は自分の前のグラスをグッと飲み干した。マスターが二人から離れていく。

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