第34話 遠足⑩
僕たちがレオ兄の元を離れて数分経った頃、レオ兄が高々と宣言した。
「ゴブリンキングの首は、レオルグ・アレクシオールは討ち取った! 勝利は我らにあり!」
他の人なら、レオ兄は嬉しそうな顔をしているように見えるだろう。しかし、僕にはそう見えなかった。どこか寂しそうな表情をしているように見えた。
ゴブリンキングの顔を見てみると思ったよりはスッキリした笑みを浮かべている。充分に戦えたのだろう。
そこからというもの僕たちはゴブリンの掃討戦に移った。人間同士の戦いとは異なり、ゴブリンは降伏などしない。戦うか逃げるかだ。できるだけ統率者を殺し、脅威になりそうな芽を摘んだ。
途中からは騎士団も応援に駆け付け、ゴブリンが逃げ出すまで掃討戦を続けた。一匹残らず殲滅してしまっては、冒険者の仕事がなくなってしまうため、ある程度再起不能な所まで数を減らし、追い打ちはしないこととした。
その後騎士団は森の奥に入り、ゴブリンの集落を破壊。女性たちを救出した。だが、一つだけ不可解なことがあったのだ。全ての女性が奴隷紋が刻まれた奴隷であるということだ。確かに僕たちの国でも奴隷は存在する。しかし、全て亜人の女性というのは少しおかしな話だ。それにゴブリン達の急成長ぶりも気になるところだ。
とりあえず今は、疲れた。
「レオ兄、お疲れ様」
「ユーリか。お疲れ。無事に終わったな」
「レオ兄がゴブリンキングを討ってくれたおかげです」
「そうか。それならよかった」
「それにしてもレオ兄、どうかしましたか? ゴブリンキングを討った時の顔がどこかすぐれない様でしたが」
「あ、あぁ。なんでもない。単純に疲れたんだ」
「そうですよね。そりゃ疲れますよね」
恐らくレオ兄は嘘をついている。でも、僕にも話したくないことなんだから突っ込まない方がいいだろう。そっとしておこう。
それにしてもレオ兄は一皮むけた様な風格を感じる。一戦を終えたからだろうか。他の生徒も同様に顔つきがどこか変わっている。奇跡的に死者は出なかった。これはひとえにセシリアのおかげだ。負傷者をできるだけ速やかに治し、ゴブリンに隙を突かせなかった。そのことが功を奏したのだろう
「皆、お疲れ!」
「おう! ユーリか。お疲れ」
「お疲れ様! ユーリ」
「お疲れ様です。ユーリ君」
「僕頑張ったよ!」
各々声をかけてくれる。ミルトだけは頑張ったアピールが凄い。思わず撫でそうだ。
「エレン、トール。助かったよ、ありがとう。セシリアもよく頑張った。君のおかげで誰も死なずに死んだ。ミルト、よく頑張ったな! お前のおかげでゴブリンの勢いを削げた」
ミルトのキラキラした目にやられて、撫でてしまった。目を細めるその姿は、皆をほっこりさせてくれる。
エレンとトールはいつも喧嘩しているけど、今日はすごく相性がよく見えた。息もぴったりで戦場が一つの舞台であると錯覚するほどだった。
ミルトもロード達を的確に狙撃し、仕留めていった。他にもゴブリンリーダーなどのリーダー格を殺し、勢いを削いだ。
お! ガイトス先生だ。ガイトス先生は騎士団に同行してゴブリンの集落に行っていた。ガイトス先生は戦鬼のような戦い方だった。ゴブリンを殺した数で言うと、ガイトス先生が一番だろう。それでいて全体の戦況を俯瞰して、危ないところを助けに行くその様は見事だった。
「ガイトス先生、お疲れ様でした!」
「おう! お疲れ様。いやー、久しぶりに本気で暴れれたよ。ありがとうな。ユーリ」
「いえいえ、ガイトス先生がいなければどうなっていたことか」
「多分勝ててたんじゃねぇか。ハハハッ。」
「どうでしょうね。そういえば、ゴブリンの集落はどうでしたか?」
「少し不気味だったな。ゴブリンにしては急成長しすぎな気がした。それに女性たちの出どころが不明だ。ここらで誘拐は起きていない。しかも奴隷紋が刻まれていたから、もしかすると人間が関わっているのかもしれない」
「人間が!? そのことが本当だとするとまずいですよ。あまり言いふらさない方がよさそうです。」
「そうだな。限られた人間だけが知っておくのがよさそうだ。この話は大きくなりそうだ。とりあえず、国王様には知らせておいてくれ」
「分かりました。伝えておきます! この後はどうするんですか?」
「もちろん遠足は中止だな。この森も一時的に封鎖される。きな臭いしな。この後は各自家に帰ることになるな」
「分かりました。では皆に伝えてきますね」
「頼んだ。それと、ユーリ、ありがとうな。久しぶりに全盛期の力が出せて嬉しかったよ」
「いえいえ。僕もガイトス先生の力が見れて嬉しかったですよ。それじゃ行ってきます」
今回ばかりは僕も活躍できたと思うし、スキルも使うことができた。新しい能力が使えるようになったのも今となっては良かったかな。1年間使えなくなると思うと嫌だけど、今回の様なことはそう起きないと思うから大丈夫だろう。
さぁ、帰ろうか、日常へ。
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