第33話  遠足⑨【レオルグ視点】

 今俺はゴブリンキングの前まで来ている。これも、ユーリとその仲間のおかげだ。ユーリは凄い弟だ。それこそ俺なんかより国王に相応しいだろう。今回の戦いだって、ユーリの【味方強化】がなければここまで上手く物事は進んでいなかっただろう。現に俺も力が湧き出ているように錯覚をするほどだ。それに加えてユーリ自身も強化できるんだからそれはもう呆れるほど強い。今のユーリの力は同年代で一番ぐらいだろう。ユーリ自身の強化は兵の質に依存する。だから、あいつが軍を率いれば敵なしだ。


 だが、あいつは国王にはならないのだろうな。顔が『やりたくないよ! レオ兄お願い!』って顔をしてるし、実際にやりたくないって言ってるしな。兄として国王の重責を被れるのなら本望だ。そのためにはまず目の前の敵を倒して、国王に相応しいと思われなければな。ユーリがここまでお膳立てしてくれたからには、きっちり倒してやろう。


 学園の生徒ももう限界が近づいている。そりゃそうだ。慣れていない戦場で、圧倒的な劣勢。むしろ戦えていることが不思議なほどだ。これもユーリのおかげなのだろうな。


 『死なないでくれ』か。俺もまだまだ舐められたものだ。


「オマエハナニモノダ?」


「お前を倒す者だ」


「オレサマヲタオスダト? ヤレルモノナラナテミロ!」


「ほう? 自分の力によほど自信があるみたいだな」


「オレサマハサイキョウダカラナ」


「そうか。それもここまでだな。死んでもらおう」


「コロセ!」


 こいつには申し訳ないが死んでもらう。今の俺の力はお前など一瞬で倒せるほど強い。


 配下だと思われるゴブリンロード2体がこちらに大剣を振りかざす。


 常人であれば避けられないような剣速だが、今の俺は余裕をもって避けることが出来た。ここで時間をかけるのも惜しい


 避けたそのままの足運びで、左から接近しているゴブリンロードの首を切断する。そのままその胴体をゴブリンロードへと蹴りつけ、もう一体のゴブリンロードの態勢をさらに崩す。よろけて、回避をとれないような態勢であることを認識したゴブリンロードは何とか踏ん張って立ち直そうとするがもう遅い。


 地を蹴り、瞬足で、飛び上がるかのように空を駆け、もう一体の首も刎ねる。


 この二体は囮だと言わんばかりにニヤニヤした醜悪な笑みを浮かべたゴブリンキングが突進を仕掛けてきた。


 丸々と太ったその体からは考えられないような速度だ。


 しかし、今の俺は一種のゾーンに入っている。思考をぐるぐると回すまでもなく、仕掛けてくることは分かっていた。


 機転を利かして、片方の腕を切り落とし、正眼の構えで待つ。


「お前は俺には勝てない」


「ソウダナ。オレサマデハカテナイカモシレナイ。ダガ、タタカワナケレバナラナイノダ。オサトシテ」


「お前は良い奴だ。生まれが違えば、お前とも友人になれたかもしれなかった。残念だ」


「オマエトノタタカイ。タノシカッタゾ」


「俺もだ。名は?」


「ナハナイ」


「そうか。では名もないゴブリンキングよ。レオルグ・アレクシオールの為に死んでくれ」


「ソウカンタンニハシナナイサ」


 できるだけ苦しまないように殺してやろう。自我を持ってしまったが故だな。生まれが違えばな。


 そう言いながら二人とも笑顔で向かいあう。


 ゴブリンキングが俺に対して残ったもう片方の腕で剣を握り、振りおとそうとしてくる。


 その振りおとされた剣を避け、後ろに回り、首を落とす。


 首のなくなった胴体からは血しぶきが上がり、その血が俺の体にも降り注ぐ。心なしか、ゴブリンキングの顔は笑っているかの様だった。


 本当は首がとれてうれしいはずなのに、なんだ。この気持ちは。


 心が。心臓が締め付けられる。


 あぁ、悲しんでいるのだな。


 戦いとはこういうものなのだと改めて思い知った瞬間だった。


 今はこの戦いを終結させることを第一に考えよう。


 ゴブリンキングの顔を持ち、高々と宣言する。


「ゴブリンキングの首は、レオルグ・アレクシオールは討ち取った! 勝利は我らにあり!」


 レオルグの表情は一見晴れやかなように見えるが、どこか寂しそうな表情も覗かせていた。


 戦争に犠牲はつきものだ。レオルグにとっての初陣はゴブリンキングとの戦いとなった。以後、レオルグは次期国王としての風格を持ち合わせ、偉大な王へとなる。そして、語り草では、レオルグは英雄として、ゴブリンキングは悪として認識されることとなる。


 ――しかし裏側がどうだったのかは本人たちにしか分からない。だが、レオルグがゴブリンキングのことを忘れたことは一度もなかったという噂だけが残るのみである。

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