第32話 遠足⑧
森の中から現れたのはゴブリンの大群。一番後ろにはニタニタと醜悪な笑みを浮かべるゴブリンキングの姿が見える。そして、各隊をゴブリンロードが指揮している。
対するこちらは50強。
人数差はあれど、個々の強さはこちらの方が上だ。勝利確率は50%にまで上昇した。五分五分だ。勝機があるとすれば、やはり指揮系統をどれだけ早く壊せるかだな。
「じゃあ行こうか。皆」
「「「「「「おう!」」」」」」
士気は100にまで上昇した。今度は僕自身が強化される番だ。
「【自身強化】」
そう唱えた瞬間、全能感に襲われた。五感がすべて研ぎ澄まされ、体が羽のように軽い。心なしか剣の腕もあがっているような気がする。
「ユーリ。お前カンジ変わってないか?」
「分かります?」
「おう! なんかオーラがででるっつうか、強者の風格が出ているぞ」
「ほんとですか? 僕自身を強化したんです」
「まじか? そんなことも出来るのか?」
「はい!」
「そうなのか。期待してるぞ!」
「はい!」
僕たち近接組、とりわけ僕のグループとレオ兄、ガイトス先生、その他先輩たちが先陣だ。
「とにかく目の前の敵を蹴散らしてくれ。ゴブリン一体一体は弱い。できるだけ速やかにキングの所まで行くぞ!」
「「「「はい!(おう!)」」」」
レオ兄が、一番先頭で、ゴブリンと接敵した。見えない程の剣速でゴブリンを屠っていく。これが【剣聖】の力か。
「俺に続け!」
「「「「おおお!!!!!!!」」」」
「どっせいっ!」
今度はガイトス先生が身長程の大きさのある大剣を薙ぎ払う。目算で10体ほどが胴体とおさらばしていた。これが、冒険者か。
「俺を舐めてもらっちゃ困るぞ!」
かっこいい。素直にそう感じた。
「僕たちもやるぞ!」
「「「おう!」」」
僕の声に応えるは、エレン、エルド、トールだ。
「エレンとトールは右翼を。僕とエルドはレオ兄の支援をする!」
「了解! トール、背中は任せるぞ!」
「ちょい! 待て! ユーリ。任せたぞ」
「ああ! 行ってこい!」
エレンはトールを待たず、敵に突進していった。炎を身に纏うその姿はまるで舞っているかの様だった。追いかけていったトールも的確にエレンの援護をしながら着実に敵を屠っていく。背中を合わせ笑いあうその様は、一枚の絵画の様だった。
「エルド、僕たちも行くぞ!」
「はい! ユーリ様」
レオ兄は既に先を行っていた。レオ兄が通った道は、屍で埋め尽くされていて、道ができていた。襲い掛かってくるものを一呼吸のうちに屠り切り、レオ兄のもとへ向かう。
「レオ兄!」
「ユーリ! 早かったな。お前だいぶ強くなってるじゃないか。エルドもありがとうな」
「僕自身を強化したんだよ。レオ兄の援護をするために来たんだ」
「ユーリ様の居るところが俺の居る場所ですから」
「おう、そうか! なら手伝ってくれ! 目指すは本陣だ!」
「僕たちがその道を切り開きます! レオ兄は体力を温存していてください!」
「助かる。俺を連れて行ってくれ! ユーリ!」
「喜んで!」
今の僕なら何でもできるような気がした。それこそ、レオ兄と張り合えるとまで。僕とエルドで敵を屠っていく。まるでバターを切っているかのようにゴブリンを殺せる。
遠目にミルトの姿が見えた。的確にロードを狙って殲滅していっているようだ。ミルトの手にかかれば、たとえロードであったとしても矢を防ぐのは難しい。速射による同時攻撃は危険だ。
セシリアは他の生徒のことを一生懸命に治療している。まるで聖女のようだ。
このように状況を把握できるまでにゾーンに入っていた。気がつけば、もうゴブリンキングの前まで来ていた。しかし、味方の軍勢も疲弊してきている。
「レオ兄! 着いたよ。ゴブリンキングの前だ」
「ありがとう。ユーリ、エルド。後は他の生徒の援護に出向いてくれ。ここは僕一人で十分だ」
「でも……」
「俺は国王になる男だぞ? こんなところで躓いてどうする? 俺を信じてくれ!」
「死なないでよ。レオ兄」
「ああ、ユーリもな」
きっとレオ兄ならやり遂げてくれるだろう。レオ兄にかかればゴブリンキングなど塵に等しい。レオ兄はこんなところで終わる人間じゃない。
ここまでわずか20分ほどの出来事だ。
ゴブリン軍およそ3500が残り、味方軍は軽傷のみ。
驚異的なスピードで数が減っていた。それはひとえにユーリの強化のおかげであった。ユーリがいなければこの戦は負けていただろう。
――現在の勝利確率は60%
決着はすぐそこまで近づいている。
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