第29話「リュール様に恐れをなしたとか」

 リュールとブレイダは、三日間その村に滞在した。夜には松明を手に見回り、明るくなってから休息をとる。夜にだけ現れると確定したわけではないため、昼間も深くは寝られない。

 それなりに神経をすり減らす三日間だった。


「魔獣、来ませんでしたね」

「そうだな」


 昼夜逆転生活は四日目の朝を迎えた。その間に魔獣が現れることはなく、精神的にも体力的にも辛くなってきたところだ。


「あの三匹が全部だったんでしょうか」

「そうかもしれんな」


 リュールの気分としては、もうしばらく残ってもいいと思っていた。今夜にでも襲撃があったら寝覚めが悪い。それと同時に、いつまでも留まっていられない理由も感じていた。


「今夜現れなければ、一旦戻ろう」

「はい」

「とりあえず、寝よう」

「そうですね、寝ましょう!」


 リュールはそのまま、体を寝床にあずけた。四日目となるとブレイダも慣れたもので、体を大の字に寝転がる。初日の初々しさはどこかに消えていた。リュールとしては、これくらいが気楽でいい。


 その夜も、魔獣が姿を見せることはなかった。

 リュールは再度、何枚かの硬貨を渡して村を後にした。


「差し出がましいことを言うようですが、あんなに渡してもよかったのでしょうか?」

「結果的に何の役にも立たなかったからな。詫びの意味もある。それに、金ならあの野郎に請求すればいい」

「なるほど! あのスカしに! それは大変失礼しました!」


 リュールは金銭の扱いが雑だった。


 まずはマリムの待つ宿場町に向かう。残りの報酬を受け取ると共に、問い詰めなければならないことが山ほどある。

 数年前から出没していたらしい魔獣とは何か。どこから現れ、どれだけの数が存在しているのか。増えることはあるのか。なぜ人だけを狙うのか。全滅させることはできるのか。

 リュールの内心では既に、自分とブレイダで戦う意志ができあがりつつあった。そのためには情報が必要だ。


「ん」

「リュール様」

「ああ」


 周囲が木々に囲まれた道に差し掛かった時、リュールは人の気配を感じた。ブレイダも同様のようだった。

 いつかの野盗が持っていたような粗野で攻撃的なものではない。無駄に動かず、付かず離れず、冷静にこちらを観察している。

 そんなことをする心当たりはひとつしかない。


「おい、騎士団の使いか?」


 リュールは大きめの声を上げる。一瞬気配が動く感覚があったが、さらに身を潜めたようだ。


「ち、やってくれたな」

「ですね。戻ったら殺りますか」

「殺らねぇけどな」


 恐らくリュールの行動を監視していたのだろう。大金を渡す相手として、そこまで信用していないということだ。何人かで交代しつつ見張ってたとしたら、リュールの行動はマリムに筒抜けになっている。


 もしかしたらブレイダの事も知られているかもしれない。剣が人になるなど、にわかには信じられないとは思う。しかし、魔獣というものを見た者なら、現実離れした情報も受け入れるだろう。

 魔獣を狩るつもりはあれども、その手段を晒してしまうのにリュールは危機感を持っていた。ブレイダを奪われる可能性だってある。


「やっちまったなぁ」

「へ?」

「お前のことも、見られてただろうな」

「それは、良くないですね。や」

「殺らないからな」

「はい」


 とはいえ、騎士団と敵対するのは避けたい。ブレイダの発言を遮りながら、リュールはどう交渉するか思案していた。

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