特別支援学校の決してとくべつではない青春たち

五日直哉

第1話~出会いはいつも晴れじゃない。

俺の名前は、石川ユタカ…どこにでもいるごく普通な高校一年生だ…なんて到底言えるものではない。

 なぜそう結論付けたのか、それは俺がこれから特別支援学校の入学式が行われる、体育館へと向かうからである。

 恥ずかしい話ながら、俺は生まれつき発達障害を持ってしまった。いや、むしろ恥ずべきことではないのかもしれない…というか、この恥じらいを武器にすれば、この日本という国では何とか障害者は生きていけるから、俺は堂々と障害者であることを武器にして生きていくのだ。


そんなことを考えていると、担任になったおばちゃんにしては美人な先生に合図され、俺たちは体育館へと向かう。向かう道中、典型的ラブコメみたいな会話もなく、ただただ沈黙なだけであった。それから約一時間近く、おそらくハゲといっても

問題ないお偉いさんたちの自己満足のスピーチを聞かせられている。

俺が思わず、あーあっとあくびをしてしまうと隣に座っている黒髪ロングの美少女にとんと叩かれてしまったのだ。


整った髪の毛と清楚な顔立ち、これはもうはっきり言って俺のタイプであることを否定できないと胸の高鳴りが全人類に知らされている。ちなみに俺の中での全人類は俺しかいない。というか、なんで俺をとんと叩いてきたのか…もしかしてドS気質でそういうプレイが好きで俺がドMであることを見抜いて、遊んでいるのか…その考えは約10秒で撤回されることになった。


 「さっきからあくびうるさいんだけど?ちゃんと話聞いてるの?」

うわー顔と髪型と高身長なのはタイプだけど、女性としては俺が一番苦手なタイプの子だよ…いわゆる、暗黙の了解や妥協というものを理解できないストレートしか投げられないタイプ…いや女性じゃなくて人間としても苦手だわ。


「すんません…」

俺はとりあえず謝ったが、またもや無自覚にまるで曲を奏でるかのようにあくびをしてしまった。当然わざとやったわけではないんだが、煽っているかのように勘違いした彼女は、獲物を発見した漁師の如く、睨んできた。


「どうした?何かあった?」

すると俺の後ろに座っていた典型的イケメンSSRの少年が仲介してきた。

いかにもなんでこいつ、特別支援学校にいるんだよ、普通高校でそれなりに人気になれただろうというようなさわやかなイケメンだ。どこかいけ好かないのが本能を呼び覚ました。


「いやなんでもないっすよ、ただこの人がなんか突っかかってきて…」

うわぁ、俺無自覚に敬語使ってるよ…まぁそれはさておき、その言葉に即座に彼女は反応をした。

「はぁ?突っかかってきたって、あなたがずっとあくびをしてたんでしょ!?」

まるで周りが見えていないかのような声と無自覚にあなたと呼んでくれたことに俺はうれしさを覚えていたが、周りはそうではなかった。

副担任になった確か…船瀬とかいう体育会系の若い兄ちゃんっぽい人がやってきて、

俺と彼女を一旦、体育館の外に出した。


 「さっきから何かあったのか?」

体育館の駐車場で入学式を祝うかのような日差しを受けながらその問いかけに対して俺が超えたようとしたところ、まぁ予想通り、彼女が先に答えた。

「この人がずーっと、あくびをして、迷惑だったんです!」

彼女の怒り方、尋常じゃないな…普通なら一度、注意して見過ごせばいいものを…

しかし彼女は俺のふてくされた態度が気に入らないのか、延々と謝罪を求めてきた。


「はいはい…すみませんでした」

そう謝ると彼女の面倒くささをさらにヒートアップさせてしまうことになる。

「はいは1回でいいし…それに謝る態度なの!?」

さすがにADHDを持つ俺はそろそろ感情を抑えることに限界が来てしまい、

黒い衝動を呼び覚ませてしまった。いや…そんなにかっこいいものではない。


「大体迷惑だっていうなら、あんたがそうやって突っかかってくることで俺はお偉いさんがたの貴重なスピーチと自己満足トークを聞けないんだけど?別に聞きたくはないけど、こんな風に問題を起こした風じゃ、内申点が早々に悪いでしょ?」


「石河くん、心配するな。この学校にたぶん内申点はない、というかお前ら、ちょっと落ち着いてくれ言い分は分かったから、な?」

副担任の仲介もあり、その日は親と下校とするというイベントがあることにより、

特に大きな問題もなく、帰宅した。


帰宅した俺は大人気のFPSゲームをやりながら、暴言を吐いている。

「引くこと覚えろ!」

引くこと覚えろと言えば、今日の彼女も全く引いてこなかった…

うー!思い出しただけで蕁麻疹がでてきそうなレベルでイライラする!

でも顔はマジでタイプだ!あーどうしようどうしよう!って何俺、

もしかしてあの子のこと気になっちゃってるの!?いやいやいやいやいやいや

そんなわけない!俺が!俺が!いや、待てよ!気になってるのは事実だ!

それは復讐してやろうという意味での!俺に恥をかかせたことに対する…いや、

別に恥はないけどの八つ当たりをいつかしてやるううう!


 そして翌朝、眠い目をこすりながら、バスに乗って学校へ向かうと、昨日同じ、教室で見かけたちょっと幼げな感じのいい奴そうなやつが声をかけてきた。

「えと、同じクラスの石河くんだったよね?俺は、須田祐人!よろしくね!サッカー部に入る、予定なんだ。石河くんも入る?」


「いや俺は部活動とかはいいかな、別に強制じゃないし、早く帰ってゲームしたいから」

うん即座にサッカー部っていうワードに反応しちゃったわ。中学時代に俺をからかっていたサッカー部のあの野郎、今度あったら、俺の右フックで沈めて…そんなことできない彼にボールにされてしまうだけである。忌々しい記憶を蘇らせながら、

バスに揺られ、須田くんのほぼ一方的な会話に適当な相槌を打ち、学校へとついた。


 なんと今日の一時間目は、クラス委員を二人を決めるらしく、机を小学校の給食の時間のようにくっつけ、話し合うことに、一人目は予想通りというべきか、

昨日のあの憎き、いまわしき女が立候補して、難なく決まった。


「なぁなぁ、石河くんだっけ?こういうのぜってーやりたくないよな?」

そう馴れ馴れしく話しかけてきたのは、軽そうだけどちょっといい奴そうな少年。

なんていうんだろうか…こいつはムードメーカーになりそう。嫌味ないし

「わかるわ、こういうのはやりたい奴がやればいいよな。で、何くんだっけ?マイキーくん?ドラケンくん?サウスくん?」


「いやいや全部違うし、なんでそこにサウスくん入ってるわけ!受けるんだけど!」

社交辞令的に受けてはくれたんだろうけど、名前教えてくれない…なにこれ、君の名は的にラストシーンで名前わかっちゃうの?ごめん、その映画あまり知らない。

「あ、俺は春山トオル!トオルでいいよ!」


なんでコミュ力高い人種は、ファーストネームを呼ばせたがるんだろう、

まぁいいや…それはさておき、これいつまでも決まらなくて、そのうちくじ引きとかになっちゃうんじゃないのかーん?


「船瀬先生、ラチがあかないし、例年通り、一人はくじでいいかしら?」

なにこのふたり例年通りってめちゃくちゃ仲良さそうなんだけど、俺たちの知らないところで昼ドラ的な展開を繰り広げてしまっているわけなのかな?


 そしてそれから5分後…俺は世界のすべてを憎み、壊すことを決意した

お手製の割りばしのくじ引き…俺は俺は俺は俺は…あたりのはずれを引いてしまった!うわあああああああやだやだやだやだ帰りたい、帰りたい、もう家でゲームしたいーん。


「ということで1年1組のクラス委員は柚本さんと石河くんに決定です!」

担任の先生が一番ノリノリなんだよなぁ…俺はどうすれば…

すると副担任の船瀬先生がそれに同調するかのように嫌な事実を告げた。

「ちなみに今週の金曜日、クラス委員の全体集会があるから、放課後に」

なんだよその体裁のためだけに作られたようなクソイベント!


その後、柚本さん?はやる気満々であいさつをした。そして俺が意気込みを聞かれる。

「まぁー適当に丸く収まるように頑張るんで、よろしくっす」

すると彼女はその適当な挨拶に納得できないのか、凄まじくかみついてきた。


「そんなんじゃ困るんだけど!やるからにはまじめにやってよね!」


こうして俺はもしかすると、青春の扉を少し開けてしまったのかもしれない…

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特別支援学校の決してとくべつではない青春たち 五日直哉 @naoyaman067

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