第65話 闇は極まり、星を貪る

「で、私を呼んだ理由は何だ?」

「いや、ガン飛ばすなよ。……なんかさー、オレについて知っている事あるかなぁ、って思って聞いてみたんだけど、知らねェか?」



 は?いきなり何を言うのかこの不良娘は。

 会って三日ほど、その期間だけでコレの事を知る事が私に出来ると?未だ私は神ではない身故、そのような人智を超えた事は出来ない。

 【偽装】に関してはニャルラトホテプであるから持ち得ているが、神の権能には遠く及ばない。



「私が知っているとでも?己を真に知り得るのは己自身だろう。何故私にそんな事を聞く?」

「いやさー、オレが名前言った時に肩がひくついていやがったから、もしかしたらーってな」



 ほぅ、案外よく周りを見ている。いや、孤児が故に、か。

 それにしても孤児か。もし、私に私を無償で愛してくれる人たちが居なかったら……ふっ、つまらない空想を描いてしまったな。

 私は私で在り、IFなどには興味はない、であろう?


 ザッハークの質問に答えなければな。



「そうだな、ザッハークという名称は知っている」

「お!やっぱし、オレの勘はピカイチだな!」



 コイツはすぐに調子に乗るな。

 三日も関わっているから、無意識下の感情の起伏は識れる。そして、ザッハークは褒められれば驕り、自身の能力に感心すれば、慢心する。最早ここまで来ると呆れを通り越して、微笑ましく感じる。


 いつか直さねばならないだろうが、今は忙しく構っていられない。



「……まあいい。

 ザッハーク、私がこことは違う時空に生きる存在、プレイヤーである事は説明しただろう?」

「ああ、最上位神に呼ばれて来てるんだろ?次元が違うから、その身が朽ち果てようと死ぬ事はない化け物だろ、それがプレイヤーだったよな?」

「重ね間違いはない。

 私の世界にも叙事詩があってな、その叙事詩の中に貴様の名、ザッハークが記されている」

「へぇー、オレって英雄なんだな」

「決して貴様の事ではないし、英雄とは限らない」

「え?」


「ザッハーク、ペルシアと呼ばれる国伝わる万魔の主。星に暗雲を齎した蛇王。一人の哀れな王子の亡き骸。最古の龍と繋がった、いや、繋がらせられた男。それが貴様の名と同じ人物。


 昔は暴君のような性質はなかったという。少しばかり野蛮だったが、臣民を想い、悪王に苦しめれる領土外の民を救う為に馬を走らせるような人物だったという。

 そんな彼が変貌したのは、最も古い悪の所為だ。彼の姦計により、悪性の塊にして竜の原点に位置する巨悪アジ・ダハーカに接続され、肩に二体の蛇を宿す事になった。

 ザッハークは強靭な精神で己を蝕むに反旗を翻したが、徐々に殺しにかかる狂気に身を焼かれ、弱っていった。

 父を殺し、自身の狂気を抑える為に一日に二人の人間の脳を食らった。

 そして、彼は狂気に負け、蛇王と成り下がった」


「え、あ。そ、それで最期はどうなったんだ!?」

「未だ生きている。

 彼は悪の龍神アジ・ダハーカに繋がったが故に、不老不死の力を持ってしまった。その危険性と永久的の存在出来るが為に霊峰ダマーヴァント山に槍を心臓に突き立てられたまま幽閉されている。いつか来る星之終わりまで、な」

「ダマーヴァント」

「ああそうだ。貴様の姓だ」



 余りにも蛇王ザッハーク不良娘ザッハークが似ているのだ。

 ステータスも見せてもらったが、《蛇王降臨(リバース・ザッハーク)》然り。《邪性身体構造》も然り。魔性呪脚(蛇王の呪い)もまた然り。


 恐らくこの世界には蛇王ザッハークなる存在が実在していたのだろう。そして、それの子孫が目の前にいる少女なのだろう。


 自身と同じ名前を持つ者に訪れる悲劇。辛いだろうな。

 表面上は取り繕っている少女。誰にも悟られないように嗚咽を、哀しみを、不安を覆い隠す少女。……ああ、似ている。蛇王とかじゃなく、私の知っている人物に。私の殺人処女を捧げ、初めて人を喰らった我が親友に。性格は違う。顔も違う。

 ーーだが、その精神性は、心の在り方は美しかった。私たちが堕ちてもその輝きは衰える事がなかった彼女に瓜二つだった。


 誰かに誰かを重ねる行為はその人への冒涜だと思う。だが、だがな。

 ーー嗚呼、私は弱いな。


 目の前で泣いている少女を抱きしめる。


 言葉は要らない。こういう時は誰かが自身の傍に付いているという事を理解させればいいのだから。

 私もそういう人間だったから、わかっている。


 少女の静かな嗚咽が廃墟に響き渡る。

 その嗚咽は静かだったが、重かった。早くに親を亡くし、その親を喰らい生を繋げていた少女の漸く見せた弱音は私の記憶に深く刻まれた。


*****



「落ち着いたか?」



 頬を赤く染めた少し可愛らしいと思えてしまった。偽りの感情を持つ私にとって純粋な家族愛以外の感情が表面上に出てきた事に感慨深く感じた。



「うるせェ!」

「ハハッ、元気じゃないか。そうだな、貴様は私のモノである限り、貴様の事は守ってやる。悲劇も、災いも、神からも守ってやる。代わりに私を愉しませろよ、ザッハーク」

「ーー……なんか今のカッコ良かったぜ、ッて!!」



 デコピンを咬ます。



「そういうのは心の中で言うものだ、馬鹿め」

「えー、いいだろ?オレはオr」


[[[『ワールドアナウンス』世界終焉シナリオ【始源の惡】が第一段階ファーストフェーズ惡の徒ダエーワ】に到達しました]]]

[[[『ワールドアナウンス』世界終焉シナリオ【始源の惡】第一段階ファーストフェーズ惡の徒ダエーワ】により、種族名:惡の徒ダエーワが大量顕現されました]]]

































[[[『ワールドアナウンス』中位神【法神 レクス】中位神【死神 モルストート】下位神【鬼神 シュクナ】下位神【荒神 タイラント】下位神【貴神 ノクス=デューク】が【名称秘匿】により、殺神。並びに神性の統合がされ、【名称秘匿】に吸収されました]]]


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