第62話 狂喰同盟

「まさか、貴様も人喰らいの化け物だとはな。くはは、こんな事があるとはな、あちらでもこちらでもないだろうと腹を括ってはいたが、ははは!」



 食そうとして存在が私と同じだというのは三流以下の演出だな。ははは、だが、面白い。喰らうかは、今は置いておこう。

 これがどんな思いで、何を感じて人を食べるのか、私とは何が違うのか、聞きたい事が多いな!



「笑い過ぎだ!……でも、俺も少しびっくりした。これを運命的な出会いって言うのか?」

「知らんな。そんな事どうでもいい」

「即答かよ!チッ、味気ねェな」



 運命など母体の意志の儘にだ。運命を肯定する事は母体を崇拝する事と同意義。私はあんな存在を認めたくない。



「なあ、テメェが初めて人を食ったのはいつなんだ?」

「私を差し置いて、先に質問をするのか、貴様は。まあ、いい。私が初めて人を喰らったのは小5の時、だいたい11の頃だ」

「ほえ〜、じゃあ俺の方が先だな!俺は7歳の時だ!母ちゃんを初めて食べたんだ。ああ、美味かったな……でも、悲しかった」

「……そうか」



 母喰らい、私もこの世界に来なかったら、家族を喰らっていたかもしれない。そう考えると、これは私の



「末路、か」


「それじゃあさー、テメェはどうなの?誰を最初に食ったの?」

「私か、私の初めては友だ。最初に喰らったのは、もう存在しない親友。私と共に狂っていった愛しべき馬鹿だ」

「……後悔しているのか?」

「貴様が母を食した時、後悔していたか?」

「……してない。後悔なんて出来るはずがねェ。後悔したら、それこそ母ちゃんに対する裏切りになっちまう!そんな事出来る訳がねェよ!」

「なら、それが答えだ」



 私だって、後悔はない。後悔できる筈がない。

 今までで一番、いや、これからもあの味を超える人肉はないと思っている。それだけ、極まった味だった。

 だが、だからこそ、あれをもう一度食べたいとは思わない。食べるのには今の私の良心全てを投げ捨てなければならない。



「なんか、悪りぃな。嫌な事聞いちまった」

「ふん、私から回答権を取るのが悪いんだ。では、私から問おう。貴様にとって、人食嗜食とは何だ?」

「人を食べる事か?俺の場合は……知らない内にこうなっていたって言うのが実情かな。

 俺は根っからの砂漠生まれでさー、生まれた時から飢えと同居していた。あとさー、俺の足おかしいだろ?だから、本来であれば、同じ村で暮らせていた筈なんだが、忌み子と忌み子を産んだ両親っつう事で村を追い出されちまった。だから、尚更飢えに苦しめられた」



 飢え、か。私の狂気もまた、飢餓の狂気。はっ、似ているじゃないか。

 しかし、忌み子か。生まれつきこのような足であれば、忌避されるのも当然か。


 だが、生きる為に喰らうこれと、ただ喰らう私。訂正しよう、ザッハーク。かの蛇王と呼ばれた暴君を名に冠す少女よ、貴様は私よりも、生命として上だ。



「父は俺が物心が付く前に逝っちまって、母ちゃんは俺が7歳の時に、私を食べて生きてって言って死んじまった。その時に俺は……、なんで美味いと思ったんだろうなァ。

 悲しいのに、悔しかったのに、世界を憎んだのに、俺自身を呪ったのに、美味しかったんだろうなァ。なんであんなに優しい味がしたんだろうなァ」



 ザッハークは静かに涙を落としていた。

 異色の足を持ちながらも、一般から外れた性向を持っているのに、いや、だからこそその光景が私にとっては美しいと思えた。


 だからこそ、私は。



「貴様はその味を求めて、人を喰らい続けたのか。哀れだな。

 ……その願い、欲望は叶わないと思うがな、私は。まあ、それでも人肉を求めるのならば、手を取れ、ザッハーク。私が死ぬまで、貴様の探求の手助けをしてやる」



 はぁ、本当に私も私で愚かなものだ。


 同情、仲間意識そんなものではないな。だが、それに近しい感情を表面意識が出したのならば、思うが儘に行動すればいい。

 たかだか、一人増えるだけだ。支障はないだろう。



「……手助け、テメェが?他人にも、自分にさえも何も思っていねェ、テメェが何をとち狂ったんだ?」

「酷い言い草だな。人の良心を無下にするとは、貴様は折り紙付きの愚物だな」

「良心だァ、テメェにそんな心あるわけねェだろう!」



 なんだ、これ。私の感情を読めるのか?……はぁ、リーシアといい、これといい。人のプライバシーをよくもまあ侵害するものだな。



「ごちゃごちゃと騒ぐな、ザッハーク。それで貴様はどうするんだ?チャンスは一度きりだ。断ったら、貴様の私が美味しく頂く」

「な!?……わかったよ、仲間になるよ。でも、条件とかあんだろ?なんだ?」

「ほう、少しは理解しているようだな」

「うるせェ、さっさと言え」

「何簡単な事だ」



 そう、簡単な事だ。


 私は貴様を見た時から、思っている事があるんだ。その痩せているが、締まってはいるその大腿部、実に唆られる。



「ひっ、リ、リズさん。あの、怖いっす」

「私に太腿を一日一回、食わせろ」

「イヤァァァアアアァ!!!」



 今日、新しい仲間が出来ました。

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