第61話 異足の少女

「では、これからの話をする。

 私たちは今日の夜にこの廃村から発つ。そして、この砂漠に在るモノ全てを壊し尽くす。そして、喰魔グールを見つけ出す。……その際は私が指示するまで何もするな。わかったな?」

『『『(・・?)』』』

「……私の指示に従うだけで何もしなくていいからな。

 今は休むといい、私も宿題があるからな。少し、出る。大人しくしているんだぞ」

『『『ペコリ((。´・ω・)。´_ _))』』』



 リズは家に戻って行くのを、【狂気の落とし子ヒトモドキ】たちは見守る。それは幼児が病気に苦しむ母を心配しているような気配だった。


 完全にリズが見えなくなると、【狂気の落とし子ヒトモドキ】たちのリーダ格であるブレスが仲間たちに何かを伝えようと、小さな肉の腕をブンブンと振り回す。


 すると、他の【狂気の落とし子ヒトモドキ】たちは一斉に動き出す。


 人間という種には理解できないが、彼らなりには理解する事が出来たのだろう。短い足を高速で動かして、四つん這いで進む姿はまさに、怪物。

 しかし、彼らの母は可愛いと言うのだろう。


 彼らが何をしようとしているかは、わからないが、彼らの母たるリズの為に何かしようとしているというのはわかる。

 【狂気の落とし子ヒトモドキ】という種の魂の殆どは母に尽くすという生命本能で出来ている。


 母から大人しくしていろという命令が出ていようが、その本能は止まらない。リズが帰って来た時どうなっているのか、今は知り得ない問いだった。


*****

リズ=カムニバ視点



「……お前たち、私が言った事覚えているか?」

『『(*´꒳`*)』』

「……まさか、私の為に食事を準備してくるとは、な」



 私が現実世界にて宿題を終わらせ、夕食も終わらせてログインすると、目の前には昏睡させられた横たわっている少女が一人居た。

 そして、その横には《恐怖症》というスキルを持つ【狂気の落とし子ヒトモドキ】の内の一人、テラと《美食化》のスキルを持つデリアが自信満々に突っ立っていた。


 私が言った事を無視しての行動だが、私の事を想っての行動である事も理解出来る。

 一応、彼らの母としては怒らねばならないだろう。



「テラ、デリア。私は大人しくしていろと言ったのを覚えているか?お前たちが私の事を想って行動した事については嬉しいが、命令は守るものだぞ。これからは勝手に行動するなよ。

 ……まぁ、お前たちが用意してくれたモノは有り難く頂戴する。ありがとう、テラにデリア。他の奴らにもありがとう、と伝えてくれ。そして、私の命令は絶対、と伝えてくれ」

『(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)テレッ』

『(゜ェ゜(。_。(゜ェ゜(。_。*)コクコク』

「では、去れ」

『『( ̄^ ̄)ゞ』』



 二人が去って行った後、地面に転がされている少女に目を向ける。


 その少女は現実世界で言うアラビアの民族衣装を着ている。そして、厳しい環境である為か痩せ細っていた。

 だが、そんな事さえも無意味にする特徴が彼女にはあった。それは、彼女の左足が異形のモノであるという所だ。


 その左足はメイフェイア・ローズに鈍く引き込む装甲、鳥の鉤爪を思わせる造形と二匹の蛇が畝り絡み付いた意匠が存在し、彼女を魔の存在たらしめていた。


 見ただけでわかる異物感。そして、美味しそうだと、思ってしまった。



「んんっ、ん?」



 異足の少女が起きたようだ。


 目を擦り、緩慢に起き上がると、私を見つけ、見つめる。



「……誰だ、アンタ?いや、それより俺は何故ここn……ああああ!!肉塊はどこだ、あいつら絶対に喰らってやる!」



 少女は綺麗な外見とは裏腹に乱暴な口調で言葉の羅列を叩き出した。


 慌てたり、怒ったり、百面相をする少女を見るのは面白いが、流石に声を掛けた方が良いだろう。



「女」

「あ!?」

「私はリズ=カムニバだ。貴様が食したいと言っていた肉塊の主だ」

「それで、テメェは俺になんの用だ!」



 いちいち煩いな。もう少し声を抑えて欲しい。まあ、クラスメイトよりはマシか。


 私は今気分がいいから、少しぐらいこれとの会話に乗ってやるのも構わないか。



「何も用などない。ただ、私の子供たちが私の為に貴様を献上したまでの事よ」

「献上?……俺を、か?」

「ふん、一回の対話で理解出来ないとはその頭には何も入っていないようだな」

「ああ!!……チッ、なんで俺を献上するんだ?まさか、女が好きだからという理由じゃねえだろうな」

「違うな、私にとって愛するべき存在は……話が逸れたな。貴様は私の餌として献上されたのだ」



 目の前の少女、上空に浮いているウィンドウを見るに【邪人の器】ザッハーク=ダマーヴァントは小さな脳を究極的に回転させ、最適解に辿り着こうとしていた。

 そして、正解に至った彼女は驚きの顔をし、私さえも驚く言葉を発した。



「カニバリズム……テメェもか!?テメェも俺と同じく人を喰らうのか!?」

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