第60話 聖獣が残したモノ
目を開くと、
……何もない。食事、人肉ももう少ない。ここを出て、新しい村を襲った方がいいな。
私は胸に掛かる一つのペンダントを触る。
朱い。世界を慈しむような朱。絶望を導き、希望を照らすような神聖な一つの残りもの。
*****
一柱の聖獣が居た。一羽の優しい鳥が居た。弱者を護らんとする高潔な鳥が居た。雨の後に架かる虹の如き存在に、種族を超えた絆を結ばんと健闘した美しい鳥が居た。友の死を嘆いた一羽の聖獣が居た。怒り狂いながらも、悪性を憎みながらも、その白い魂だけは捨てなかった存在が居た。
世界に一つだけの朱き慈愛が存在していた。星に輝く愛が其処にはあった。
しかし、そんな気高い鳥はもう居ない。世界を慈しんだ鳥はもう居ない。美徳を冠する聖獣は居ない。世界の理は歪んだ。
種類:装飾品
属性:慈愛
等級:B
補正値 HP+455 MP+435 SP+445 MIN+425
耐久度 なし
効果:不滅の慈愛→その心、壊れる事勿れ。また、所有者に記憶を見せる
朱の炎→MPを消費する事でHPを消費分×2回復、状態異常のステージを一段階下げる
結界:聖焔→邪なるモノを焼き尽くす焔の領域を創造する
*****
NEWSを倒した時の貢献度が高かったが故に得たアイテム。
回復に優れ、私ごと焼き尽くす結界を張れ、攻撃も出来る強力なアイテム。
素晴らしいが、一つだけ問題がある。
不滅の慈愛の効果だ。この不滅の慈愛、不壊の力と記憶投影の力を持つ。その中の記憶投影がまあ、厄介なのだ。
一時間おきに恐らくNEWSを構成する聖獣が一柱、朱雀の記憶がインプットされる。
その記憶は余り精密とは言えないが、薄っすらとは見る事が出来る。
記憶の光景は何処までも続く広大な砂漠。天から見下ろす白熱の星。そして、砂漠を命懸けで走る痩せ細った不味そうな人間の集団。そして、巨大な遺跡から駆け出して行く血走った悪鬼の軍勢。
何を示しているのかはわからない。が、ちょうど私が居るのは砂漠。もしかしたら、このターメディザル大砂漠にそんな場所が存在するのかもしれない。まあ、どうでもいいが。
だが、悪鬼に関しては少し気になる事がある。
最近、【
そして、その悪鬼の種族名が
アラブ人の伝承にて語られる悪魔や魔人の事を指す。男はグールと呼ばれ、女はグーラと呼ばれている。
まあ、そんな事はどうでもいい。
私の興味は彼らの食である。グール、漢字で表せば屍食鬼。屍、死体と言えども、私と同じ人喰らう化け物。
もし叶うのであれば、私は
大罪神からも悪魔になれと催促されているし、私自身もグールとやらにも興味がある。更に、魔王にもなれる可能性がある。
であるならば、早速行動に移すした方がいいな。
「オペ、全員を私の元に集合させろ」
『(`_´)ゞ』
オペ、オペレーターから文字った名前だ。もう30人もいる【
《交信》のスキルを持つ。
《交信》は自身を中心に様々な存在と頭の中で対話出来るスキルである。このスキルの凄い点は、オペからの一方通行ではなく、他者からの交信も出来る点だ。
一応、オペから一度交信されないと、使用はできないが、私たちは全員が使用されている為、いつでも連絡できる。
しかし、他者と他者が繋がる事は出来ない。まあ、それがなくても素晴らしいスキルである事には変わりない。プレイヤーを除く。
これにより情報網が発達し、行動を移す事が早くなった。
*****
私はずっと居た家から出ると、目の前には30の人型の肉塊が居た。
一人はグダグダと砂の上に寝そべり、一人はピョンピョンと元気に跳ねている。反対側に居る二人はじゃれあい、一人は天に祈りを捧げている。
肉塊が思いのままに行動しているのに、若干のホラーと狂気を感じるが、この光景にも慣れて、微笑ましい気もする。
彼らは私に気付くと、今まで好き勝手にしていた事を辞め、羨望の気配を漂わせている。
「全員が集まるのは三日振りだな。ブレス、ファイス体調はどうだ?」
『( ・∇・)』
『(๑╹ω╹๑ )』
「……相変わらずだな」
イベントの時に私を命を賭けて守った英雄たちだ。
あの時、ブレスは喋った気がするのだが、退化してしまったようだ。
それからもこちらの世界での家族の調子を聞く。彼らは喋らない。が、体で表現しようと頑張る。それがなんとなく私は好きになれた。
家族という括りに入れる事が出来たからなのだろうか?……だが、もう家族以外を好きになれる事はないのだろう。リーシアも、興味はあるが好きとは言えない。というより、
思考の海に沈み掛けそうになると、ブレスが私のズボンを引っ張る。
『(ˊo̴̶̷̤ ᴗ o̴̶̷̤ˋ)』
……うん、かわいい。
肉塊に可愛いを抱く私はどうかしていると思うが、可愛いものはしょうがない。
別にいいか。愛だの、感情だの、どうでもいい。私は私。私が持ち得る全てが私。そこに固有名詞など存在しない。それで今の所はいい。
私はブレスを胸に抱きながら、これからの話をした。
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