第52話 過去へと遡る怒り

『GERAYAャァVERWェaREczTeAWxru!!!』



 唐突にNEWSが鼓膜を破壊させるような絶叫を響かせる。更に、今までとは声の質が異なり、何か痛みに耐えようとしているかのように聞こえる。


 叫び声が止むと、朱雀たる紅蓮の大翼の輪郭がボヤけ薄れていき、崩壊した。

 HPも六割へと減っている。という事は、あと三つのお題をクリアする事でNEWSの部位が消え、HPも減るのか。そうなると、全部の部位が消滅しても、HPは三割残る。ならば、第二形態とかがあるのか?


 まあ、私たちは変わらず、NEWSの気を引けばいいだけか。



『おい、リズ。どういう事だ?世界終焉シナリオとはなんだ?というより、何をやった?!』

「後で話す。今は体制を整えろ」

『……その言葉、忘れるなよ』



 おぉ、怖い怖い。


 やはり、白鎧は有能だな。もう、近隣の混乱を治めている。時代が時代なら、稀代の将軍や英雄と言われてもおかしくないな。……というよりかは、この世界ゲーム生きているプレイしている者たちがそういった人種が多いのか。あそこに居る童顔も私に近しい?ん、なんだアレ?……まあ、関わらないようにしよう。



『AAAAAAAAAAxルcゔぁ6っっgcWsfUAイjIジャ!!!』



 NEWSのHPがまた減り、五割に至る。白虎を表す手足が薄れ、消えていく。それに伴い、NEWSの巨軀が大地に墜ちる。


 白虎の祠は笑わせるというお題だった筈だ。……私の所業で笑ったのだろう。ニャルラトホテプ共の事だ、それしかないだろう。性悪しかいないな。


 NEWSは攻撃することができない。今は休憩タイムか。恐らく、これからが本番になるのだろう。

 今のうちにHPなどの数値を回復させるか。



「リズ、さっき何してたの?」

「あ〜、至高への道と星を代償とした決意の宣告だ」

「は?……頭大丈夫?戦い過ぎて思考が狂っちゃったとか?」

「お嬢様、それは失礼ですよ。リズ様もそういうお年頃なのでしょう。少しばかり遅いですけど」



 お前ら……!まあ、いい。



「後々わかると思うぞ。リーシアたちはその可能性があるからな」

「可能性?簡潔に直結に言って欲しいな」

「まだ言えない。……リーシア自身も自分で見つけた方が愉しいだろう?」

「よくわかっているね。じゃあ、この話はなし!」



 細部まで聞かれなくてよかったな。幾らリーシアが狂気そのものとは言え、原型は未だ人間。精神が何処まで耐えられるかわからない。折角出来た友だ、もう二度と奪われて、奪わさせられて堪るか。



『TvtyGwahgァwkbッIhbVJHxチュwhjhaゼc!!!』



 先程を上回る爆音に耳を塞ぐ。徐々に叫びが悲惨になっていくな。何かを悔やみ、怒り、諦め、愛し、狂気に縋るような聲。

 ……非常に不快だ。狂気は逃避する為のモノではない。狂気とは決意だ。何かを成す為に、理性に常識を破壊し、犠牲の末に生を謳歌する為の感情。逃げる手段に使っていいモノではない。そんな下等な感情ではない。崇高で等しく美しく、孤高の感情。誰にも理解されずにも、感情の持ち主の為に寄り添い共に歩む慈愛の象徴。

 黙れ、黙れ、黙れッ!貴様如きが手にしていいモノではない!


 青龍たらしめる巨大な龍の頭が消えていく。それと共に嫌悪しか湧き上がらない狂声が消えていく。


 もうあの悍ましい聲を聞かなくていいのは嬉しいが、一度貴様は私たちを冒涜した。

 償え、贖え、赦しを乞え。《死を以って《モース・》



「「償うがいいクルデリス》!!」」



 複合スキル《死を以って償うがいいモース・クルデリス》の力によって本物の狂気が到来し、偽りの狂気に縋る愚物に粛清の波が訪れる。


 効かなくてもいい。ただ、私たち狂気を冒涜した事が、昔の友たち狂気を貶した事が、偉人たち狂気を否定した事が、我らの母狂気を悪用した事が気に食わない。


 周りの空中部隊が驚いた顔をしていたが、私はこの侮辱を晴らす為に行動する。愚物NEWSを確実に殺す。


 狂気の源流が流れ去っても、愚物NEWSのHPは全く減っていなかった。


 魔王種に至るとかはこの際どうでもいい。絶対に殺す。貴様を絶対に殺す。

 


「行くぞ、リーシア」

「うん。シャイーナも行くよ」

「仰せのままに」



 私は純粋な狂気から来る狂憤を以って、天を駆ける。偽りから来る怒りではなく、純然なる狂気を伴った怒りを宿して。

 もう二度と湧き上がる事がないと思っていた怒り。あの日の私の不甲斐なさに慟哭した怒りとは別種だが、同種でもある。狂気を母とした子供感情

 全てが燃えてしまえと思える程に強大な、私を守る感情を讃えながら、怨敵に突き進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る