第50話 冀望
「チッ!なかなか減らないなぁ!リズたちはこんな相手とよく30分ぐらい戦っていられたね!」
「無駄口を叩くな、ゲーマー。鱗が剥がれたぞ、狙え」
「あいよ」
私たちは白鎧からの命令を受けて、30分ほど戦っている。しかし、7割ほど削った辺りからHPが全く減らなくなってしまったのだ。
更に、ヘイトがリセットされてしまったのか、魔術師や弓士を狙うようになってしまったのだ。
その為、ヘイトを上空に移す事を目標として、空を飛べるプレイヤーを揃え、攻撃を与えているというのが今の状況だ。
と言っても、制空権を取れるスキルを持つプレイヤーは少ない。
大体30名ぐらいだろうか?
先ずは、私やリーシア。プレイヤーではないが、極彩狂象。上位層プレイヤーとして、私と死力を尽くして激戦を繰り広げたゲムや忍者のハットリとかという奴。厨二感満載の生きる黒歴史こと、ロスト。鳥系のモンスターを召喚して戦っている烈華や吸血鬼執事の死宴、ガトリング片手に機械で空を飛ぶSFから来たプレイヤーなどがいる。
それに、我が愚兄もいる。今はリーシアの所にいるな。彼方は私が人形 真理である事をわかるはずがないから、初対面ヅラをして別れた。まぁ、それに関してはどうでもいいだろう。
それにしても、弱点といったものが全くないな。
それに、攻撃しても一向に減らないHPゲージ。はぁ、ダメージがないとはいえ、ヘイト管理を怠ると、痛い目に遭うからなぁ。……共同作業は苦手だ。
「リズ、どうする?」
「リーシア、か。何に対してどうするんだ?」
「いや、コレに対してだけど。攻撃してもダメージを受けないし、回復薬の生産が追いつかない。更に、薬草の貯蔵も残り僅か。早く決手を見つけないと、負けちゃうよ!」
「尤もだが、私たちは戦闘面でしかNEWSを理解していない。外的要因には一切の手を付けていない。
その方面は司令部や探索部隊の仕事だ。私たちはコイツによる被害を抑える事が仕事。まぁ、『待て、しかして希望せよ』だ。運営が用意したんだ、何処かに弱点はあるだろう。その時まで、私たちは待ち続ければいい。
それに私がいるんだ。私がいる限り負けなんて事はない」
「おー、私に負けたリズさんが一丁前な事言っているよ!」
「五月蝿い」
「でも、そうだね。ボクたちは神性。ここで負けたら、誇りもなくなるね。……頑張るか、希望があるんだからね。じゃあ、行ってくるよ、リズ。シャイーナも、ほら!」
極彩狂象を引っ張り、リーシアは笑顔で戦線に復帰しに行った。
それが私には眩しかった。彼女は自身の性に気付いても、変わらず在れるという事がよくわかる。私とは違って。私は変わってしまったんだ。あの日、あの時、あの教室で。
自身が狂った存在であったのは、知っていた。それでも、あそこまで人類を、星を冒涜する存在だとは思わなかった。
そこで私は、他者との距離を置いた。より、私に人を近づけない為に。より、私の異質さを私が理解しない為に。家族にも嘘で固めた私を見せた。
私は私がわからない。人形 真理としての私。リズ=カムニバとしての私。家族思いの娘としての私。飢餓に狂った獣の権化たる狂気としての私。過去の、もう取り戻せるはずがない私。
私が視線を向ける先には愚兄がいる。可愛くて、優しくて、どこまでも純粋な兄さん。私とは相違ない存在。……愚かなのは、私だな。
狂気には寄り添う友も、無償で愛してくれる家族もいない。
それでも……滑稽にも祈ってしまう。聖なる神などいない、正しい運命などない。そんな事は知っている。それでも、希望を、夢を狂気が持ってもいいのではないだろうか?
私は弱い。精神も、身体も、在り方も。でも、私は家族を守れる神になりたい。不肖の娘である私の罪滅ぼしをしなければならない。
「だから、いつか。心から笑える日を」
そう呟いてしまうぐらい、私は愚か。それでも、愚者の如く狂い咲いてやる。悪役らしく希望を齎してやる。神のように理不尽に笑えるように。
生きてやる。ただ、生きてやる。生きて、神になって、私に意味を持たせてやる。
待っていろ、ニャルラトホテプ。私は混沌に狂う母から、親権を破棄してやる。
お前にとってはコレは、娯楽だろう。それでも、私にとっては人生だ。生き足掻いてみせる。
希望はこの胸の内にある。
*****
『全軍に告げる!対処法がわかったかもしれない!このフィールド、森などを含めた地帯で最北端、最南端、最東端、最西端に四聖獣を祀った祭壇がある。そして、祭壇には色の付いた宝珠があったそうだ!しかし、周りにはモンスター、【朱雀の眷属】などが沢山いるという!更に、奴らを倒すと、[本体にダメージが送られました]というアナウンスが入るという!今から、幹部に詳しい情報を通達する!
……まだ、希望はある!最後まで抗え!お前たちの勇姿は俺が見ている!ここでは、俺たちは勇者だ!勇者様らしく行こうじゃないか!!』
「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
いよいよ佳境に入るか。さあ、決着を付けようか、NEWS。
それにしても、圧倒的カリスマだな。こういう奴が主人公と呼ばれる人種か。私は主人公ではない事がわかるな。
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