第49話 『あか』に染まる黒

「君がリズだね」

「そうだが?」

「君たちには協力するという二文字はあるのかな?」



 協力?ないな。

 まぁ、こんなドストレートに言ったら、噴火ものだから言わない。

 今回は私たちが悪いからな。なるべく白鎧の言う事には従っておいた方がいいな。



「それに関しては悪かった。鬱憤が溜まってな、仕方がなかったんだ。だから、な。これからは貴様の指示に従おう。それでいいな、リーシア」

「えー、まだ発散d……ハイ、シタガイマス」



 リーシアの事を睨みつけると、了承してくれた。話が早くて助かる。

 それでこれからの動きだが、ヘイトは私たち二人に多く当たっているはずだから、思考誘導や遊撃が基本になるか?まぁ、聞いてみるか。



「私たちはNEWSのヘイト管理や、遊撃、攻撃誘導をすればいいんだな?」

「その通りだ。しかし、奴のHPは膨大だ。より効率的に減らせる方法を考えなければならない」



 私たちの攻撃でも一割を削る事はできていない。更に、使用していないスキルもあるだろう。《刻刻流転ジクウモンソウゾウ》レベルに危険なスキルもあるかも知れない。

 何処かに弱点があったり、NEWSに対抗できるスキルを持つプレイヤーもいるかもしれない。ならば、私たちがそれを確定させるまでの間、全力でNEWSを相手すればいい話。

 私はNEWSを殺せればいい。より早く殺せるようになるならば、協力を惜しむ必要はない。

 まあ、どれくらいかかるかわからないが。



「なるべく早く方法を見つけてくれよ。私たちが全力で抑えている間にな」

「その通りだよ。私たちががんばる

「……ああ。頑張れよ、リズ、リーシア」

「「了」」



 私たちは白鎧の命を告げられると共に、巨大な龍頭へと向かっていった。


 リーシアは灰色に煌めく拳を。私は真紅に揺らめく刃を。龍頭の鼻の部分に叩き付ける。

 バキッと、何かが砕け散る音が響く。その後、私の幸福に煌めく王の肉叉フェリスに罅が入った。絶対不壊の力を持つ為、壊れずに済んだが、それでも罅が入ってしまう程の強度を誇る龍の鱗に畏れを覚えた。また、リーシアの腕の骨も折れてしまったようで、攻撃後は下に垂れていた。

 しかし、驚異の鱗も私たちの攻撃には無傷で耐える事は出来ず、粉砕してしまう。


 私は物理では大したダメージを与えられない事を再確認したので、魔術での攻撃に切り替える。と言っても、三種類の魔術、魔法しか持っていないので、リーシアが主体となっての攻撃になる事だろう。


 リーシアが右目、元右目の部分を指差すと、赤い光が集まっていく。《空爆》を使用するつもりだろう。


 しかし、NEWSも簡単にやられる訳にはいかないのだろう。

 朱雀の翼が煌々と朱に、紅に、緋に、赫に耀き始める。


 何かしらのスキルなのは確定している。そして、攻撃方向にはリーシアがいる。そして、リーシアは今、魔術の使用の為に動いていない。通常であれば動けるが、私を信用しているのだろう。絶対に止めてくれるだろう?という挑発に近い信頼が。

 ならば、その信頼に応えるのみ!


 私が腕を広げると、同時に空間が裂ける。裂け目からは、幾千にも昇る凶器の数々が現れる。


 三つの魔術が同時に放たれた。


 《空爆》が網膜を巻き込み、空を捻じ曲げ、爆発する。

 『あか』に発色する翼から、『あか』の暴風が、風の刃が、竜巻が放たれる。

 《異変ノ狂波》が『あか』の集団へと殺到する。


 『あか』と黒が空を染め、火花を撒き散らす。幻想的で、猟奇的で、絶望的な光景が広がる。



「アアアァァァァァッッッツァア!!!」



 私は『あか』の力に負けない為に、声を上げるが、物量差に徐々に押され始める。


 だが、それでいい。NEWSは私に気を取られている。私だけに気を取られている。リーシアが今どこにいるなんて事は考えられないだろう。


 やれ、リーシア。私を気にせずに、お前の怒りをぶつけてやれ!


 私が心の中で檄を飛ばすと同時に、NEWSの下腹部で、極彩色の光が眩く光った。その後、人の精神を脅かすような音を響かせながら、巨大な光の束が貫く。


 『あか』の軍勢は衝撃の反動で、少しだけ上に上がる。私は隙を見逃さず、翼に攻撃を集中させる。が、後ろで炎が迸り、爆発した。



「グウッ!!」



 地面に叩きつけられるが、受け身を取り、衝撃を軽減させる。しかし、威力は高かったようで、私が衝突した大地には陥没痕が残されていた。


 リーシアが気兼ねしたのか、私を見つめるが、攻撃を続けるようにアイコンタクトを送る。あと、いつの間にか極彩狂象がいた。まあ、アレは強いから大丈夫だろう。


 というより、HPが尽きそうだな。たった一発だけでここまで削られると思わなかった。いや、今まで一発でしかやられていないな。


 超強化タイム終了か。もう少しこの悦に浸っていたかったな。



「何、死のうとしてるのよ」



 顔面に青緑の液体を掛けられる。うん、体に良さそうだ。

 掛けられると同時に、HPやMP、SPが回復していく。……あ?三つの数値が回復だと。ポーションなのは分かっていたが、ここまで進歩しているとは。まあ、今まで初級ポーションと、盗んだレア初級ポーションとかって言う意味がわからないヤツぐらいしか飲んだ事がないんだがな。



「礼を言うぞ、赤髪」

「赤髪って……まあ、いいわ。あんた、リーシアだけに戦わせるんじゃないわよ。頑張りなさいよ、あんたたちが抑えなきゃ負けるんだから。……あたしも戦いたいけど、今は無理だから。……リズ、私が駆け付けるまで、倒すんじゃないわよ!」

「殺して欲しいのか殺して欲しくないのかわからないな。まあ、頑張るさ。

 お前もリーシアの隣に居られるように頑張れよ」



 翼を広げて、戦線へと向かう。

 途中で『バカ』なんて聞こえたが、無視だ。


 さあ、NEWS。まだ、私を愉しませてくれるよな?

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