第29話 人の業VS怪物の業

 私は今、《始まりを告げプリミティブる武闘会・カムファタイ》の中央部にいる。

 目の前には白髪の老人がいる。執事服を上品に着こなし、気品溢れる姿をしている。

 しかし、両手には黒が映える短剣を10本、紳士的に持っている。

 にこやかに微笑みながらも、瞳の奥にはどす黒い殺意が蠢いていた。


 私は食したいから殺す。

 彼は殺したいから殺すのだろう。ただ、己の快楽の為に手を汚す、否。彼の場合は、手を清めているのだろう。

 実に邪悪だ。私よりも、邪悪。本質が人であるから為せる業。


 嗚呼、良い。

 赤毛は一回戦負けで、その他の試合も見所はなかった(私視点だが)。



「貴様は私の事を愉しませることができるか?」

「ええ、わたくしはそれなりに強いですから」

「そうか。では、期待させてもらおう」



 私は幸福に煌めく王の肉叉フェリスと長剣を持ち、腕を垂れ下げる。



『3』



 目を瞑る。体、全てで理解する。

 風の動きを、音の広がりを、心臓の音を。只管に集中する。



『2』



 感情の高ぶりを抑えることなく、放出する。

 自然と口元が吊り上がっていく。

 嗚呼、早く。早く、早く食べた......ここでは駄目だな。

 ならば、愉しみたい。



『1』



 両腕を真横に伸ばす。

 顎は上に向かせて、口元を口が裂けるぐらい吊り上げる。



『スタート』



 瞼を開ける。

 死宴が華麗に歩み寄ってくる。全くの隙が無い。

 ならば、隙を作ってしまえばいい。



「《魅了の瞳》、《炎氷纏》」



 死宴の動きが一瞬鈍る。上には《状態異常:魅了I》のマークが描かれている。

 もうこうなれば、私のターンだ。


 幸福に煌めく王の肉叉フェリスを胸に突き刺す。

 が、死宴の10の短剣で受け止められてしまった。

 敵対行動はできないんじゃなかったか?


 まあ、力で押し切ればいいか。

 相手の体制は悪いからな。簡単に崩せるだろう。



「はぁあっっ!」

「ぐうっ!!!」



 差し出す手に力を入れる。

 数本の短剣が嫌な音を立てる。

 数が多い分、耐久値の減りが早いのだろう。


 死宴は堪らずは後ろに下がる。

 チャンスだな。


 私は死宴を追いかけて、前に進む。

 右手を世話しなく動かして、敵に休む暇を与えないようにする。

 さらに、炎と氷の力によって武器の劣化が激しくなっていく。


 そして、長剣を死宴の太ももに突き刺す。

 血が巻き散らかる。

 怯んだ隙に幸福に煌めく王の肉叉フェリスをまた、胸に向かって突き出す。

 が、また短剣に阻まれる。

 しかし、耐久値が尽きたのか、全ての短剣が砕け散った。



「仕方ないですね。《血翼解放プライドウィング》」



 死宴は鮮紅色に鈍く煌めく翼を開帳する。

 少し飛び、10m先に着地する。


 私は《炎氷纏》を解除して、死宴の様子を見る。

 先ほど刺した太ももが徐々に治っている。

 ブレスたちと同じ《再生》のスキル持ちか。厄介だな。


 血の翼に再生能力、偶に見える長く鋭い犬歯。

 そうか、死宴は



「吸血鬼か」

「惜しいですね。わたくし陽血鬼デイウォーカー

 日光を克服した吸血鬼バンパイアです」



 ちっ、面倒だな。

 デイウォーカーと言えば、ラノベとかで確定強キャラな奴じゃないか。

 ......しかも、暗殺者老執事で吸血鬼なんて、属性盛りすぎだろ。



「これからが、本番です。

 《眷属召喚:劣血鬼ブラッドサッカー》!

 行きなさい。敵を殺しな......さい?」

「......えっ?」

『『『ギャァアアァァァアアッ!!!』』』



 死宴は地面から青白い目がイっている人、劣血鬼ブラッドサッカーを10体出す。

 私は新たな敵を迎え撃つ為に構えた。


 しかし、私や死宴、観客の待ち望んだ結果は訪れなかった。


 正しく地獄があった。

 そう、劣血鬼ブラッドサッカーが日光に焼かれて、悶え苦しんでいるのだ。

 まあ、考えてみればその通りだ。

 こんなにも日光が容赦なく降り注いでいる所に、日光を最も嫌う存在を出したら、そうなるのは決まっている。


 そして、私はここに居る仕事のできそうな老執事に言いたい事がある。



「貴様は馬鹿なのか?......貴様は馬鹿なのか?」

「二回も言わなくてもいいでしょう!?はぁ、わたくしが馬鹿でしたよ」



 目を地面に向けながら言う。

 襲おうとしたのだが、隙が無い為に襲えない。

 そこら辺は素晴らしいな。武術などを心得ているのだろうか。

 若しくは......いや、それはないな。死宴は人よりは狂気が強いがそこまででもない。


 そういえば、何時の間にか劣血鬼ブラッドサッカーが消えていた。

 正確に言えば、灰にされた、だが。



「仕切り直して、ここからが本番です。

 《血操術ブラッドマニッジ血装ブラッドウェポン》」



 私の空けた穴(もうほとんど見えない)から、血の線が現れる。

 死宴の手に集まると、渦を巻いていく。

 少し経つと、渦は無くなっており、死宴の両手には2丁の拳銃が収まっていた。

 片方は鮮紅色で、もう片方は暗褐色に輝いていた。



「ほう。なかなかイカしてるではないか。

 まあ、先程のが無ければさらに良かったのだがな」

「ぐっ。ふう、まだまだ行きますよ。

 《血眼解放クリムゾンアイ》、《血霧蔓延マッドミスト》」



 死宴の瞳が紅に染まると共に、赤い霧がフィールドを包み込んだ。

 これからが、本番か。

 ははっ、愉しめそうだな。

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