第30話 死の芸術家

 様々な攻撃が私に降りかかる。

 銃撃、赤い銃弾、風の玉、風と血の刃に、影からの鉤爪の攻撃。

 多種多様な攻撃が私を追い詰める。



「くっ!!」



 霧のせいで死宴の姿が見えない。

 一応何処に居るのかは薄っすらとは分かるのだが、攻撃には対応しきれていない。

 急所は守れているが、被弾が多い。

 特に【ブラッドシェル】というスキルが危険だ。赤い霧の中進む無音の同色の銃弾。避けることはまだ出来ていない。威力が低いのが救いだが、このまま続けていたら負け確定だな。


 さて、どうするか。

 赤い霧はスキルのはずだから、何時かは晴れるはず。だが、1分ぐらいは経っている。

 もし、3分間だと私が持たない。


 あっ......空飛べばいいか。

 というより、何故は私は初歩的なことを忘れていたのだろうか。

 死宴の事をバカと言ったが、私も大概ではないか。

 まあ、気付かないよりはマシだろう。



「《空間浮遊》」



 やっぱり、空を飛ぶのは気持ちいいな。


 こう見てみると、《血霧蔓延マッドミスト》。のスキルの格が高い事が分かるな。

 フィールドの1/3が血の霧に包まれている。それを1分以上保てられるというのか。MPが高いのだろう。


 赤い弾丸が霧の中から飛び出してきた。


 先程の状態だと当たっていただろうが、もう私を邪魔するものなどない。

 弾丸を半身になって躱す。

 私を苦しめていた銃弾は、もういない。


 赤き霧の中から人、もとい陽血鬼デイウォーカーが飛び出してきた。

 死宴だ。


 悍ましくも誇り高き翼をはためかせながら、10m先にホバリングする。



「まさか、受けきるとは思いませんでしたよ」

「はっ!私があの程度で死ぬと思うか?私は華々しく死ぬのだ。

 あの攻撃如きでは私は納得できないからな」

「流石の傲慢さですね。ここまで驕り高ぶっている人は見たことがありませんね」



 当たり前だ。私は人とは違うのだ。私は、獣だ。

 獣とは誇り高き覇者。故に、私が弱音を見せてはいけない。

 何時でも、何処でも獣たらんと生き続けなければならないのだ。

 何よりも、家族を心配させない為に。


 ......心が高ぶってしまったか。

 それよりも、



「貴様、何故霧の中から出てきた?あそこにいた方が勝率が高かったのではないか?」



 さっきの銃弾は確認できたが、赤い霧から出て来る赤い球を目視するのはなかなか大変なのだ。

 例えるなら、野球で高々と打たれたフライが雲に重なり、見えなくなる奴だ。なんだ?わからないだと。それは残念だ。



「ああ、それですか。2つ理由がありまして」



 死宴が右手の指を2つ突き上げる。

 指を1つ折りながら、声を発す。



「1つ目はもうすぐ......今消えましたね」



 赤い霧が掻消えた。

 もう、意味がないのか。


 最後の指が折られる。



「二つ目、わたくしにも矜持がありましてね。

 貴女が華々しく死にたいならば、わたくしは華々しく殺したいのですよ」



 死宴の目に狂気が浮かぶ。

 口を吊り上げながら、涙を流す。


 その姿に、私は人らしさが感じられた。

 心、感情のままに居るが為に出来る表情。私とは、違う。

 私の根本は空腹だ。

 それ以外存在しない。あったとしても、それは皮の方の感情だ。

 故に、私は渇望する。人を示す偉大なる感情を。


 死宴は感情、狂気のままに自身を語った。



わたくしは死ぬ瞬間が素晴らしいと思うのですよ!

 在った者が亡くなった瞬間!ンンッ!!素晴らしいィ!!!」


オレは思った。もっと死を美しく飾ることが出来るのではないかと!

 オレならば、もっともっともっともっともっとも~っとぉ!!!正しく!美しく!優しく!清く!鮮烈に!恐ろしく!激情のままに!狂気的に!死を創作出来るのではないかと!」



 何処で狂ってしまったのだろうな。家族か恋人を殺されたのだろうか。

 まあ、私には関係ないな。


 それよりも、■■■あれではない理由は分かった。

 質も少し足りない。

 更に、外的要因ならば、目覚めないのも納得だ。

 


「貴女にはオレの作品になってもらいます!!

 さあ、オレに貴女の死を見せてください!!!」



 称号が【死を齎す風】から【死を飾る芸術家】へと変化した。


 本気モードに入るのか。

 ならば、私は迎えるのみ。どちらが本物の狂気か見せてやろう。



「来るといい、芸術家を名乗る狂人よ。

 人の皮を被る悪魔、獣が相手になってやろう」



 そして、第2ラウンドが始まった。

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