第28話 ヒトモドキ

「二人ともぉ、決勝トーナメント出場おめでとぉ」

「ありがとね。真理はどうだったかしら?」



 姉さんが首を傾げながら、聞いてくる。

 何時見ても姉さんはかわいいな。



「う~ん、楽しめたよぉ」

「......そう、それならよかったわ」

「じゃあ、お兄ちゃんの活躍をしっかり見ておいてね」

「えっ、嫌だぁ。それよりも、オタク受けしそうな外見だったね(笑)」

「なっ!?」



 今日は両親が仕事で遅くなる為、三人で食べている。

 因みに、今日の料理は唐揚げとかだ。私と兄で作った。......姉さんに料理をさせてはいけないんだ。

 誰だって、暗黒物質を好き好んで食べるはずがない。へこんでいる姉を見るのは好きだが、それとこれは別である。


 丁度、テレビに『DEL』のCMが流れた。

 なんと、今日の予選のシーンが使われていた。しかも、30秒も流れていた。

 運営、仕事が早いな。


 私が赤黄と虹の魔術師を見下ろしているシーンがあった。

 勿論、運営から使用許可を申請され、承諾したので使われることは知っていたが、今日中に完成するとは思わなかった。

 ブレスたちは加工されて、消されている。流石に、刺激が強いかららしい。

 だったら、こんな造形を設定するな。という話なのだが。


 他にも、姉さんと兄が出てるシーンもあった。

 私はやらなかったのだが、父方の家系に代々伝わる武術を二人は習っており、姉さんの剣筋は美しく、輝いていた。兄は様々な武器を使用していた。まあ、5種類だが。

 私が習わなかった理由?礼儀作法が多すぎてめんどくさかったのと、あの流派とは私の体がまったく合わなかったからだ。

 ......他にも理由はあるのだがな。



「......かな?ねえ、真理?聞いてた?」

「何ぃ?」

「聞いてなかったのか。リズって人、どんな感じなのかな?って聞いたんだよ!」



 ここで、この話が出ると思わなかった。

 いや、分かってた。同じ世界ゲームにいるのだから、話に出るのは分かってた。



「逆にぃ、兄さんはどう思う~?」

「僕!?......不思議な人だと思う。たくさんの顔、いや感情を持っている人だと思う。じゃなきゃ、敵に対してあんな感情はできないし、味方に対してあんな感情をできない。

 不思議で、怖いかな。人とは違う雰囲気だったしね」



 ......そうか。

 我が兄は本当の私リズ=カムニバに対してそう思っているのか。



「姉さんはどう思う~?」



 何を聞いているのだろう、私は。

 人形 真理本当の私リズ=カムニバを肯定されたいのか?否定されたいのか?

 人形 真理は何をしたい。何を欲している。

 私は家族を巻き込みたくないんだろう?だったら、何故そんな質問をする。



「私は......悲しい気持ちになる」

「と、いうとぉ?」

「彼女を見ていると、心が無性に哀しくなる。

 彼女の在り方が、人になりきれていない姿が、見ていると切なくなるの」

「......」



 人になりきれない、か。

 その通りだ。私は最初から人じゃなかったんだ。

 狂った獣が頑張って人の皮を繋ぎ合わせたものが私。ヒトモドキが私。


 私から人の皮を剥ぎ取ったら、どうなるだろう?

 ははっ、決まっているか。永遠に続く飢餓狂気だけか。

 嗚呼、空しい。だからこそ、私は家族を大切にしなければならない。

 私が私で居られる為に。



「真理は彼女の事、どう思うかしら?」



 人形 真理リズ=カムニバに対してが思うこと。

 嫉妬、軽蔑、憤怒、心配、敬愛、畏怖、親愛、不快、憐憫、関心、否定、肯定、希望、絶望。

 私自身に対して抱いている感情。

 だが、本当に抱いているものは、無である。

 私は私が何をしようとも本当はどうでもいい。


 私には空腹という狂気しかないのだから。



「何とも思わないかなぁ。そんな事を考えているよりも、自分に関係することを考えていた方が有意義だからねぇ」

「......そう」

「まぁ、人それぞれ感じ方があるからね。

 リズの事はリズ本人にしか分からない。でも、お兄ちゃんは知りたいかな」

「私もよ。リズも真理の事も」



 兄と姉さんは強い意志が灯った瞳で私を見つめてきた。


 もしかしたら、バレているのかもしれない。

 それでも、兄と姉さんはは私から打ち明けるのまで待ってくれているのかもしれない。


 これが私の抱いた幻想だとしても、嬉しいと思う。

 私の家族は優しい。こんな私でも愛してくれている。

 故に、私は彼らに私の本性を打ち明けることはできないだろう。

 私は私の家族が苦痛に歪んだ顔を見たくないから。


 だから、私は他者を傷付ける。私の平穏を守る為に、私が今の私で居る為に。

 あの世界ゲームで人を喰らい尽くす。


 そう、私は悪なのだ。自分の為だけに動く悪なのだ。




 ブルブルとスマホが揺れた。

 電話が来たらしい。画面を覗くとそこには――。



「姉さん~、電話来たから席外すねぇ」

「わかったわ」

「えっ!?僕には確認を取らないの!?」

「うるさい!静かにして!」

「 (。•́ - •̀。)シュン」



 兄がしょんぼりしたが、関係ない。

 ああ!なんで今頃になって電話を掛けて来るのか!!!

 黙って隔離されていればいいのになぁ!!!

 はぁ、今夜は長くなりそうだ。

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