第26話 選ばれし英傑達 前編

 予選が終わり、目を開けると、祭りの情景を確認することができた。


 少しその騒がしさが辛い。

 まあ、ブレスたち【狂気の落とし子ヒトモドキ】はイベント終われば復活するから、あまり気に病むことはないのだが。

 御褒美でもあげようか。


 ......嗚呼、うるさいな。

 いやさ、祭りだからなのは分かる。ゲームだからはしゃぐのも分かる。

 でも、うるさい。

 はぁ、人がいない所に移るか。


*****


 ここなら、誰もいないな。


 インベントリから赤い液体を取り出す。

 あの村の住人から奪った血液だ。それを緩慢に飲む。


 鉄臭いが甘酸っぱくて飲む勢いが緩まることはない。

 ごくっごくっと喉が鳴く。

 嗚呼、美味だ。


――バキッ――



「!?!?

 誰だ!」

「はわわわわ!?」

「え?」



 木の枝を踏んだ音がした為、振り向くと白い髪をした少女が慌てていた。

 何故に?



「落ち着け。ほら、深呼吸だ。ヒッ・ヒッ・フー」

「ヒッ・ヒ......ラマーズ法じゃないですか!?陣痛じゃないですよ!?」



 いいツッコミだ。75点をあげよう。



「くくっ。元気じゃないか」

「あっ。......あの、あなたがリズ=カムニバですか?」

「上を見れば一目瞭然だが......。如何にも、私がリズ=カムニバだ」



 そういうと、彼女は恐る恐る聞いてきた。



「あなたがあの事件を......」

「その通りだ。私の欲望を満たす為だけにな。

 なんだ?貴様も私を恨みを持っているのか?」

「いや、そんなことはないです。本当かどうか確認したかっただけなので」



 おう、そうか。

 この娘、見た目に反して淡白だな。可愛いらしい外見なのにな。見た目に騙されてはいけないとはよく言ったものだ。



「まさか、これを聞きたいが為に私に会いに来たのか?」

「いえいえ。偶々見つけたので見ていただけですよ」

「そうか。......」

「......」



 ......話す事ないんだが。

 気まずいな。普段、私から話をする事、少ないからな。



「なあ、気まずいだろ?貴様の友人の所に行けばいいと思うのだが?」

「え~、あなたと喋りたい。だめ?」



 うっ。我が愚兄と同じようなことを。

 威力が高い。かわいいかよ。



「貴様の好きなようにすればいい」

「やった♪」



 そこ!チョロインとかツンデレ乙とか言うんじゃないぞ。



「じゃあ、フレンド登録しよう!」

「フ、フレンド登録?なんだったか?」

「えっ、知らないの?

 登録すれば、何時でも連絡を取れたり、プレゼントを贈ったり、いろいろできるようになるんだよ!」

「お、おう。そうか。どうすればいい?」



 白髪の少女、リーシアは私に丁寧に登録の仕方を教えてくれた。

 私は教える事の方が多いが、これもこれでいいなと思った。



「これでオッケーだね。今日から友達だね!よろしくね、リズ」

「ああ、よろしくな。ところで、きさ」

「ぶっうぅぅ~!貴様じゃなくてリーシア!リビートアフターミー、リーシア」

「......リ、リーシア」

「やっぱり、リズは女の子だね!かわいいよ」

「なっ......ぁっ///」



 うっ、恥ずかしい。

 何故だ。何故、こんなにも恥ずかしいのだろう。


 かわいいって。初めて赤の他人から言われたぞ。

 現実でも中性的とはいえ、かっこいい部類だったからな。

 リーシアは目が腐ってるんじゃないか。



「ふふっ、かわいいな」

「も、もう言うな!」

「照れてるぅ~」

「うるっさい」



 ふ~、落ち着け。クールだ。クールに行こう。

 私らしくないだろう。もっと冷徹に。



「むぅ~。......あっ!その液体何?」

「何故不満そうなんだ?」

「いいの!答えて」

「人の血だよ」

「へぇ、本当に人を食べてるんだね。肉じゃなくて血だけど」



 なんでこの娘はこんなにも平然としているのだろう。

 同族を食べているのだぞ。不快じゃないのか?



「......嫌悪感は湧かないのか?」

「まあ、少しあるけど。人の好きな事は無限だから。

 いちいち否定していたら、疲れちゃうでしょ?」



 ......普通、そんな考え方はできないぞ。

 人間は拒絶しなきゃ生きていけない生き物だ。それに抗うというのか。

 くくっ、面白い。狂気なく、その域に辿り着くというのか。

 リーシア、面白い奴だな。



「くくっ、あははは、くははははは!」

「うわっ!?どうしたの?」

「くはっ......いやな、リーシア。私は貴様を気に入ったぞ」

「また、貴様って。きらっ......むぎゅう」



 私はリーシアの頬を右手で軽く掴み、こちらに向かせる。

 青緑色の瞳が私の視線と絡む。

 時が止まっているようだった。


 私は微笑みながら、宣言しようとすると、



「リーシア!ここに居た......【食人鬼】!何をしているの!?離れなさいよ!」

「おっと」

「えっ......ふぎゃぁ!!!」



 赤毛の少女が私を押し返そうとした為、その場で一回転して避ける。

 凸ってきた少女は地面にダイブして行った。

 痛そうだ。まあ、私が悪いのだがな。



「ほのか!?どうしたの!?」

「どうしたもこうしたも、リーシアがいなくなったのが悪い。

 それに、【食人鬼】なんかといるのよ!」

「えっ、リズは友達だよ。ね?」



 あら、可愛い。

 こういうのを『可愛いは正義』というんだな。



「その通りだ。リーシアと私はお友達だ」

「むきぃ!あたしはあんたが嫌いだ!」

「それで?」

「決勝トーナメントであんたを倒す。そしたら、人食いを辞めて」

「くくっ、いいだろう。乗ってやる」



 決勝に行けるくらい強いということだ。

 それなりに楽しめるだろう。



「わたしも出るよ~」

「へぇ、リーシアもか」

「えへへ。楽しみにしててね!」



 私に向かって人差し指を突き出す。

 なんか小さい子供を見ているみたいで微笑ましかった。



「リーシア、行くよ!」

「え~、リズ、またね」

「ああ、またな」



 二人で手を繋いで、人のいる方へと歩いて行った。


 私は血を飲みながら、今起きた出来事を振り返ってみた。

 少し口元が緩くなっていたが、今は誰もいない。

 嗚呼、楽しいな。

 こんな経験、もうできないと思っていたのに。私に友達はもうできないし、作ろうとは思わなかったのにな。



「リーシア、私を楽しませてくれよ」



 グラスに入っている血を全て飲み干した。

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