第24話 正義の卵は

 まさか、あれを受けて死んだのが1人だけとは。


*****

飢えた獣の饗宴アブソリュート・デス

 三種の役職を修めることで手に入れられるスキルである。

 盗賊という命を奪う力、解剖学者という血肉を刻む力、狩人という獲物を狩る力が合わさることで使用できる魔法。

種類:召喚系

属性:獣

効果:MP消費 使用時の全MPの7割 CT 1h

   MPを消費して【異界の狼】を召喚する(30秒)。

   MPの消費量に応じて召喚する【異界の狼】が増える(現在5体)。

*****


*****

【異界の狼】

 異界に住みし狼。故に、ステータスという概念を持っていない。

 彼らに理性は存在しない。ただ、喰らう事のみに執着している。

*****


 さらに、属性:獣によって全ての属性が弱点になる代わりに、全ての属性の弱点になる。

 それなのに、虹の盾にほぼ防がれた。


 なんと、なんと素晴らしいのだろうか!

 嗚呼、失敗したな。

 ちゃんと話し、殺し合いをしたかったな。

 もし、また機会があれば接触しよう。


 だが、もう一つの方には正直、ガッカリした。

 ヒーローになると意気込んでいると思ったら、箱を開けてみればただの子供。

 自身に危機が訪れているのに呆け。挙句の果て、虹の魔術師の援護もしない。

 なんという醜態。

 今も泣いている。泣いている暇などないというのに。


 私は地上に降りる為に《空間浮遊》を解きながら、道化たちに声を掛けた。



「何時まで泣いている。貴様らが殺すべき相手は此処にいるぞ」

「「......」」

「だんまりか。......つまらん。貴様らの英雄願望とやらはその程度だったのか」

『『(●´艸`●)』』

「な、な......んな、とを」



 着陸したが、まったく聞こえないぞ。

 前会ったときは溌溂とした声だったのにな。



「なんでこんな事をしたッ!」



 結局、それか。

 いや、ヒーローらしいと言えばらしいな。

 だが、このイベントを理解しているのか?



「あのな、このイベントはなんだ?PVPだぞ。殺し殺され合う、それが此処でのルールだ」

「......その通りだ。分かってる、分かってるけどさ。俺たちを守ってくれた人が目の前で死ぬとさ、めっちゃ悲しいんだよ。頭の中がごちゃごちゃするんだよ」

「僕もだ。正義のヒーローに憧れていた。それなのに、体一つ動かせなかった。ただただ悔しい」

「それで......貴様らは何をしたい?」

『『 (?´・ω・`)』』

「「俺(僕)は......お前を倒す!」

「ヒーローになって見せる!」

「僕の正義を全うする!」

「くくっ。ならば、来いッ!道化!」

『『щ(゜ー゜щ)』』



 二人は長剣に炎と雷を纏わせながら愚直に直進して来た。


 レッドが右から左へと炎剣を薙ぐと、イエローは左にズレながら、私の右側に突きを放つ。

 なかなかに良い攻撃だ。

 だが、



『(((((;`Д´)≡⊃)』

「はッ!」

「「何ッ!?」



 ファイスが炎の斬撃を受けながら、斬られた二つの肉を膨張させてレッドを殴る。

 私は幸福に煌めく王の肉叉フェリスを盾にして、雷剣を押し戻す。

 両者は3m程、後方へと吹き飛ばされた。

 


「ブレス、《祈り》を」

『(☆`・ω・)ゞ』



 ブレスに回復をして貰い、ブレスたちを地面に置く。

 少し重かったからである。



「ふぅ。その程度か、貴様らは?」

「まだまだァ!」

「《サンダーストライク》ゥウ!」



 電気を纏った弾丸が発射される。

 なかなかのスピードだが、私を捉えるには役者不足だな。


 リンボーダンスをするようにして避ける。



「隙ありィ!《灼熱一閃ブレイズブレイド》!!」



 私が避けた隙に横に一閃か。

 いい戦術だが、無意味だ。


 私の体を灼熱になりし剣が引き裂く。

 しかし、私のHPは一向に減らない。

 それどころか、切り裂かれたはずの体、燃やされたはずの体が無事である。

 レッドとイエローの顔が驚愕の色に染まる。



「貴様の方が隙だらけだな。《残虐なる刃》」

「なっ......ガァあっぁッ!」

「序にこれも受け取れ」

「グぅふッァっッ!!」



 呆けたレッドに深紅の三つの刃を突き付ける。

 さらに、鳩尾に回し蹴りを食らわせる。


 地面を転がり続けて、イエローの所まで吹き飛ばされる。

 私は解析や鑑定系のスキルを持っていないが、赤黄のHPはもうほとんどないだろう。

 赤黄には回復系スキルはなく、さらに、二戦目だ。


 よくやった方だとは思うが、まだ足りないな。強大な意志が、感情が、狂気が。



「ど、どうして攻撃を受けていない!?」



 イエローが青ざめながら、私に問いかける。


 私はそれを無視して燃えているファイスの元に歩みを進める。


 そう、ファイスのスキル《サクリファイス》の効果で私が助かり、ファイスに瀕死級の傷を受けた。

 彼?はここで脱落だろう。



「大儀であったぞ、ファイス」

『(*´︶`*)』

『(╥_╥)』

「今は静かに眠れ」



 ファイスの体がドロドロになって消えていった。

 肉だった為、少しグロテスクだったが、ファイスはよくやってくれたと思う。

 改めてありがとう。



「そういう仕組みか。レッド立てる?」

「......あ、あ。だい、じょぅぶ」

「本当に大丈夫か?もう諦めた方がいいんじゃないか?」

「い、嫌だ!ここで諦めたら、俺は俺を嫌いになるッ!

 ヒーローとは!自分の信念を強く持ち!挫けぬ心を持つ者!

 俺はそんな姿に憧れた」

英桜ひいろの言う通りだ!僕たちは本物のヒーローになるために」

「「お前を倒す!!!」」



 へぇ、意外だな。

 すぐに諦めると思ったのだが、まだ心を強く持つか。

 案外、英雄願望様も頑張るものだな。


 彼らはまだヒーローではない。

 だが、卵ではあるのか。

 楽しみがまた一つ増えたな。



「ならば、私は貴様らを殺す。

 私の欲望の為に、死ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る