第23話 大人の役割

 現在、私は中央部に到着した後、空中から戦闘の様子を見ている。


 女魔術師が周りにいるプレイヤーを風や雷に光、氷に虹魔術で殲滅していた。

 緑色に染まった風の玉がプレイヤーと地面を削り、広範囲に雷撃が下り、氷の礫が大地に突き刺さり、虹色の閃撃が数多の人々を襲う。

 魔術の猛威に他のプレイヤーたちは為す術がなく殺されていく。


 たくさんの魔術を使用しているが、MPが尽きない所を見ていると、MP常時回復系スキルでも持っているのだろう。


 う~ん。どうやって殺すか。

 紫煙呪縛はここからは届かないからな。

 いっその事踏み潰す傲アース・オブ・慢なる一歩ナッシングネスで踏み潰そうか。


 ......む?あれは赤と黄のヒーロー(笑)か。

 ここで俯瞰していくのも面白いかもしれないな。

 ......SPもつかな。


*****

【虹の魔術】レイン=サンプレッチャ視点


 あたしは虹が子供の頃から好きだ。

 キラキラと輝く七色の架け橋を見るのが好きだ。

 雨が止むと見える希望の光に心奪われる。


 何時からかあたしは虹を見るのではなく、作りたいと思うようになった。

 ちっちゃな虹ではなく、巨大な虹を、皆に勇気を与えてくれる虹を作りたいと大人になった今でも思う。


 あたしの親父は日本の裏社会を牛耳る紅露組の組長だが、あたしの願いは叶わなかった。

 いくら親父が凄くても、限度がある。

 それでも、あたしは虹をかけたい。

 あたしは組員たちに頼んで、虹をかける事の出来る方法を考えさせた。勿論、あたしもだ。


 そして、見つかった。

 それはVRMMOと呼ばれるゲームだった。

 組員が水の魔術と光の魔術などを組み合わせれば、虹を作れるのではないかと、提案してきたのだ。

 あたしはその賭けに乗った。


 そして、現在いま



「《プリズムレイ》、《雷鳴喝采》、《氷塊満散》、《サイクロンボール》、《虹霓千手》」



 あたしの右手から虹色の光が発射される。

 地面を踏みつけると、雷が発生し、周りにいるプレイヤーを襲う。

 空からは30cm大の氷の礫の数々が地面に突き刺さる。

 緑色の風が渦巻いた球を敵にぶつける。

 あたしの背後に日暈が出来、そこから虹色の腕が生まれる。虹腕は周りに居るプレイヤーを叩き潰し、投げ飛ばし、引き裂く。


 なんと、虹を作ることができたのだ。

 だが、もっと巨大な虹をあたしは作りたいな。



「レイン!君を倒しに来たぜ!」

「同じくだよ」

「おー、赤色君に黄色君。あたしを倒すの?できる?」

「できる、できないじゃない!するか、しないかだ!」

「みんながよく言いそうな言葉だね。ヒーローを目指すなら、オリジナリティ溢れる言葉を使わなきゃね」

「同意する~」

「ぐぬぬ」



 あたしに声を掛けてきたのは、前々から付き合いのあるヒーローに憧れている赤色君と黄色君だった。

 赤色君は正義感と英雄願望が強いけど、基本的にいい子だ。多分、高校生ぐらいだろう。

 黄色君は明るいけど自己顕示欲が少ない、そこだけ直せば、もっといい子になると思う。こちらも。高校生ぐらいだと思う。


 あたし自身はヒーローとかには憧れていないけど、そういう考えもアリだと思う。

 あたしが虹に憧れていたように、彼らは正義の味方に憧れているという対象の違いだ。

 恥ずかしがらずに自分の欲望に誇りを持つのは素直に尊敬する。約1名、例外はいるけど。善き欲望はいいのだが、悪しき欲望は破滅だ。

 あたしが見てきた悪い大人はそうやって失脚か死亡していった。

 故に心配だ。彼女、リズ=カムニバの欲望は多分、世界で一番単純で深く、恐ろしいものだと思う。



「んじゃあ、行くぜ!レイン!」

「うん。全力で来るといいさ」



 その一言を合図に戦いの火蓋が切られた。



「《火炎纏》」

「《電雷纏》」



 赤色君と黄色君がスキルを発動させると、彼らの体に炎と雷が迸った。


 黄色君のスピードが上がり、赤色君の前に出て来る。



「《サンダーストライク》!」



 黄色君から高速の雷の弾丸が発射される。


 ストライク系の魔術は威力は低いが速さはピカ一だ。

 あたしのAGIでは避けられないだろう。

 だったら、この魔術を受けてから、攻撃をした方がいいだろう。



「ぐふッ!......《白雲彩領クラウドエリア》」



 あたしの体から雲が出現し、周りを包み込む。

 この魔術は視界を悪くするのは勿論、火系属性スキルの威力と効果を削減でき、火系属性持ちには30秒ごとに15のダメージを与える。さらに、雷系属性スキルは全て範囲攻撃になる。

 なので、迂闊に黄色君は攻撃できないし、《電雷纏》を解除せざる負えない。



「流石だぜ。だけどな、俺たちはここで倒れるわけにはいかねぇんだ。俺たちはあいつを倒して、改心させるんだ」

「食人鬼ね。あの人は改心できなさそうだけどね」

「できないじゃない「するか、しないかだ」ね」

「被らされてるの、ウケる~。でも、その通りだよ。行くよ、レッド」

「ああ、イエロー」

「熱いね。青春している子はいいよね。じゃあ、あたしを乗り越えていくといいよ。あの人はあたしと次元が違うだろうからね。あたしを倒せなきゃ、夢のまた夢だよ」



 どこにいるか分からないのはあたしもだ。

 全神経を使って、気配を探る。


 ......二人一緒にいる?

 なら、纏めて潰すのみ。



「《プリズムレイ》」



 虹色の閃光が目標地点に向かって、突き進む。

 これで、二人が死亡すると思うが......何だろう、これは。この謂れようのない不安は。

 赤色君と黄色君から発せられる熱気ではない。

 本能が恐れ戦く絶対的な恐怖。

 悍ましい、ひたすらに悍ましいもの。空の上からあたしたちを見下しているもの。王のようであり、神のようで、悪魔みたいな気持ちの悪いもの。

 こんな不快な気配を放つ存在は今まで見たことない。裏社会にもこんな化け物はいない。

 さっさと、ここから離れたい。



「《爆炎烈火》」

「《シャインレイ》」



 赤い光と白い光が虹色の光とぶつかり、両者の光が消える。


 それと共に《白雲彩領クラウドエリア》が解除される。

 すぐさま、上を見る。


 上にいたのは、肉塊を両腕にぶら下げた人の形をした化け物だった。

 前に見た時よりも、悍ましさと高貴さ、神々しさを兼ね備えたプレイヤー。

 リズ=カムニバ、そのあくまだった。


 口角を異常な程に吊り上げ、目は冷酷に情欲的に見下している。

 人のする表情ではない。


 そして、それは手を肉塊ごと上にあげると、傲岸不遜な声色で呟いた。



「《飢えた獣の饗宴アブソリュート・デス》」



 背筋が凍った。

 体全てが言った。あれに敵対してはならない。すぐに逃げろ。

 だが、動けなかった。

 凶暴な恐怖があたしを襲い、動けなくさせる。


 空には亀裂が入り、宇宙らしきものが見えた。

 そこには、狼みたいな黒い淀みが5体、蠢いていた。


 リズが向いている方向は赤色君と黄色君の所。

 彼らはあたしと同じく狂気的な恐怖に動くことができない。


 彼らを助けたい。心から思った。

 偽善でもいい、あたしはただ彼らを助けたいと思った。

 ......駄目だ。違う。思うだけじゃ駄目だ。

 赤色君が言ったじゃないか、するんだ。


 あたしは紅露組組長の娘、紅露 天音こうろ あまねだ。

 あたしが決めた事は最後までやる。

 あたしが子供たちを守る。それが、大人の役割だ!

 そう、これがあたしの人生道。



「《身体強化》」



 走れ、走れ、走れ!

 速く、速く、速く!

 彼らの所に!まだ、あの魔法は完成していない。



「レインさん!」

「どうして来たんですか!?」

「どうしてって?あたしがそう思ったからだよ。

 見ておいてよ、これがあたしの力、道だ!

 《虹廻護宝盾こうかいごほうじゅん》!!!」



 あたしの目の前に虹の盾が現れる。

 盾が完成した瞬間に、漆黒の狼たちが宇宙から解放された。


 一直線に駆けて来る死神たち。

 盾に齧り付き、飢えを満たさんとする。

 強大な力にあたしの体からは血が流れ出してくる。


 それでも、あたしは彼らを守りたい!



「《魔力過剰投与オーバーリミット》ォォォォオオ!!」



 あたしのMPを全部使用して、《虹廻護宝盾》を強化する。

 移動できないけど、大丈夫だ。

 耐えろ、耐えろ。後ろには子供たちがいるんだ。守れ!只管に守れ!


 盾に罅が入る。それでも、まだだ。まだいける。

 あたしが立っている限り、この盾は破られない。


 ......どのくらい経った?まだ、終わらないのか?

 狼たちが血走った目であたしを見る。

 鋭い牙が罅に突き刺さる。そこから、バリバリと嫌な音がした。

 虹色の宝盾が食い破られる。

 一体があたしの体を食い千切ると共に狼が消えていった。


 守り切った。けど、あたしは死ぬみたいだ。

 でも、満足だ。

 だから、泣くな。少年たち。

 君たちならヒーローになれると、信じているよ。



「がん、ばれ。......こっ、からが、ほ、ばんだ、よ」



 目の前が真っ暗に染まった。 

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