第14話 【嘲笑う不変】

 私とフェリス、魔王が衝突する。



『面白そうなことしているね。俺っちも混ぜてよ』

「『「!?!?」』」



 が、謎の声に阻まれる。

 自分が絶対的上位者だと信じてやまない傲慢不遜な声。周りを侮り嘲笑うような声。抑揚のない機械的な声。悪意に塗れた不浄なる声。淀みに生き、淀みを生み出すような声。

 吐き気がする声が砂漠に響き渡った。


 声の発生した方向、上空を見れば、唯々黒い靄があった。



「【嘲笑う不変】ッ!今頃、何しに来たのですか」

『堕ちた聖女、うるさいよ。俺っちはただ遊びに来ただけだよ』

「貴様ら侵略者がその感情で何をしたのかわかっているのですか」

『侵略者に良心を求めるなよ、俺っちたちは俺っちたちだ』



 待て待て待て。情報が多すぎる。

 あの靄が【UIM】を生み出す存在【嘲笑う不変】。

 さらに、存在はたくさんいる感じだな。纏めて侵略者と呼ばれているのか。

 そして、魔王が聖女。いや、正確に言えば堕ちた聖女か。

 何があったのか。



『でも、俺っちはまだこの世界の生物を殺せないからな。《絶靄の軍勢アクリュース》』



 【嘲笑う不変】がスキルを発動させると、砂漠中に靄が発生し、100を超える敵が靄の中から行進してきた。

 敵の姿は悍ましいものだった。

 150~200cmぐらいの背丈で、顔が男と女の二つ存在している。目や鼻、頬から血を流し、凄惨で獰猛な三日月に裂けた笑みを浮かべている。

 骨らしき物体で作られた鎧を身に付けており、爪が鋭く伸びている。

 病人のようにゆらゆらと歩いている。

 気配から伝わる、陰惨さに汗の玉を浮かべる。


*****

種族名:霧の死兵

LV.10~50

*****


 

『俺っちは堕ちた聖女を相手にするから皆はプレイヤーと使えない【UIM】を相手にしてね』



 【嘲笑う不変】がそう宣言すると、ユラユラと霧の死兵が襲っていて来た。



「貴女たちは戦え......それでは無理ですね。《聖女の慈愛チャリティ・セイント》」



 見る見る状態異常とHPやMP、SPが治っていった。

 気分も良くなっていく。これが聖女の力か。


 フェリスを見ると、だけが治っていた。

 おい、聖女じゃねえだろ。知ってたけど。



「ありがとな。まあ、戦えるだろう。フェリスいけるか?」

GYALLU大丈夫だ!』

「わかりました。念のために状態異常がⅡまで掛からない結界、HPが常時回復する結界、バフを掛けておきますね」



 いや、チートかよ。

 こんなの勝てるわけないだろ。

 魔王なのか!......魔王じゃねえか。



「『......』」

「なんですか。その何か言いたげな顔は」

「いや、何でもない」

GURURUIリズに同じく

「納得できませんが、敵が来ました。我は【嘲笑う不変】に、貴女たちは靄の軍に。では、行きますよ」

「了」

GIYA



 魔王が【嘲笑う不変】に向かい、フェリスと私は靄の軍と衝突した。


 《狂喜乱舞》を発動させる。

 体が過度な程の万能感を味わう。《状態異常:狂気Ⅱ》の効果はないが、嗜虐心が無限に湧いてくる。

 嗚呼、これから行うことを夢想すると心が高まってくる。



「さあ、私を楽しませろ」



*****


 剣と斧を持ち、空を駆ける。

 霧の死兵に向かって、X字に切断する。黒ずんだ青い血が体に掛かる。

 本来ならば一撃で殺すことはできないが、バフと《狂喜乱舞》の効果によって圧倒的なSTRを得ることができた。代わりに、武器が数回で壊れてしまうのだが。


 フェリスも体を動かすだけでたくさんの兵を殺している。

 他には、熱を駆使して地獄を造っている。


 LV.も上がり、たまにSTPを振りながら戦っている。

 スキルも三つほど覚えた。

 さっき行った技もスキルだ。《飛翔双刃撃》だ。効果は威力が異常な程上昇するものだ。


 考え事をしていると、後ろから三体ほどの死兵が襲って来ようとしていた。

 何故わかったかというと、奴らは呻き声を出しまくるからだ。うるさい、非常にうるさい。



「《異変ノ凶波》」



 私がスキルを発動させるためのキーワードを言いながら、剣と斧を横に振るう。

 すると、黒と赤に染まった空間が開く。そこから、たくさんの凶器が出て来る。凶器は敵の方へと狙いを定めて、深紅のオーラを纏いながら波の如く襲い掛かった。

 このスキルは私のMPとSPをそれぞれ5割ほどを持っていくのだが、強力な効果を持っている。まずは広範囲攻撃でありながら、高いダメージ量を与えることができる。更には、私が持つ状態異常の耐性の状態異常を30%の確率でランダムに一つ与えるものだ。生き残っても、狂気と病魔、麻痺に痛み、疲労。果てには即死さえも与える。恐怖のスキルだ。


 最初の三体は体にたくさんの穴を空けて死んでいる。

 その後ろも、数多の兵が地に伏している。もしくは悶え苦しむか、周りに襲い掛かるなど。凄惨なる惨状が広がっていた。


 何故こんなスキルを覚えたのかがわからないが、スキルの自然取得は感情や行動、人格に影響しているらしいため、私の心がこれらしい。

 うん、酷いな。


 かれこれ30分戦っているが終わりが見えない。

 さらに言うと、数が増えているような気がする。もしかしたら、【嘲笑う不変】が発生させた靄がまだ兵を出現させているのか?


 靄に目を向ければ、兵が出てきているのが確認できた。

 原因がわかったが、厄介な。


 靄を払いたいが、私にはそのようなことができるスキルは持っていない。

 フェリスにでも聞くか。


 周りの兵を斬り殺しながらフェリスの方へと私は向かっていった。


*****



「フェリス、敵が減らない理由がわかった」

GYTALLL何だったんだ?』

「【嘲笑う不変】が出した靄から兵が出ているようだ」

GYRRRRR気付かなかった

「フェリス、なんとかできるか?」

GYAQUUULできるぞGTREALLL援護を頼む!』

「わかった。お安い御用さ」

GYREAAAA行くぞ!!!』

「ああ!」


 フェリスは靄の方へと向う。その後ろを飛びながら私が追い、邪魔をする奴を殺す。


 LV.50の霧の死兵が行く手を阻んだが、《肉断ち》の上位スキル《残虐なる刃》を発動させ、上半身と下半身を別れさせる。


 スキルにはマスクデータの熟練度というものがあるという。

 熟練度とはLV.を上げるための経験値のスキルバージョンだ。

 そして、熟練度が一定に達すると【スキルの上位化】という現象が始まり、上位スキルへと格上げできるのだ。

 私の場合は、《肉断ち》が《残虐なる刃》に格上げされたようだ。


 靄に近づけば近づく程、兵の数が増えるがステータスの暴力で切り抜けていく。


 靄の前に到着するとフェリスは尾に無色のオーラを纏わせていく。

 兵は不穏さを感じたのか攻める勢いが増していく。

 私も攻める勢いを過激にしていく。


 少し経つと、準備が整ったのかフェリスが尾を振り、靄に接触し、空間ごと消滅させた。

 靄を消滅させると、兵も一緒に消え去っていった。


 こうして、私たちの絶霧の軍勢との戦いは終わった。

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