第3話 裏切りぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
ルナの声に気づいて彼女がかけてくる。ルナ、君何してくれてんだ!
プロミネンスさんが眼前で立ち止まる。あぁっ!キリっとした切れ目が美しい!
突然、彼女を目の前にして私は、顔から湯気が出そうな程熱くなるのを感じる。今私ゆでだこみたいになっているんじゃないか!
プロミネンスさんは不思議そうにこちらを見てくる。やめて、その麗しい瞳で見ないで!恥ずかしくなる!
「どうした?」
彼女が聞いてきた。やや低い声で若干ドスが聞いているがそれでも聞いていて心地よい。なるほどここが天国か。って違う違う。私のバカ!この状況どうすればよいんだよ!
ルナが肘で小突いてくるが私は情けなくモジモジするばかり。
(ルナの奴、気をきかせたんだろうが私には逆効果だ!)
ルナはじとっとした何か言いたげな目をすると、私の一歩前に出た。
「やぁ、どうもプロミネンスさんって君?こいつの事覚えている?」
ルナは親指で私を指してくる。人を指さすんじゃない。
プロミネンスさんは、私の顔を見た後思い出したように目を見開いた。
「あぁ!あの時の!どうだった?元気にしていたか?」
「えぇっ!はい、おかげさまと言いますか!なんてっいうか!あの時はどうも!」
聞かれた私はものすごくつっかえながら、喋ってしまった。結構緊張する!
彼女の方は何だか申し訳なさそうに眉をひそめている。
「あの時は、その、悪かった。いきなり怒鳴ってしまって」
いきなり頭を下げてくるので、慌ててそれを止める。
「いやいや違う!違うっていうのも変だけど。あ、いやそのえっと!」
私は助け船が欲しくて、ルナをちらりと見やるが彼は厳しい瞳で一瞥するのみだ。
(頑張れってことか!ちくしょう!…でもあいつの言う通りだ。こうなりゃやるっきゃない!)
私は両こぶしをぎゅっと握りしめ、彼女以上に深く、そして勢いよく頭を下げた。
「あの時はありがとう!君に叱られたおかげで、目が覚めた!あれから何とか頑張って、今博士号を取得できるぐらいにまでなった!君のおかげだ!本当にありがとう!」
頭を下げているから彼女の顔は分からないが、何やら驚いたような雰囲気が漂っている。失敗したか?
少ししてから、くすぐったそうに笑う彼女の声が聞こえてきた。
私が頭を上げると、プロミネンスは口元を抑えていた。
「いや、ごめん。あれから謝らなきゃ思っていたから。まさか逆にお礼を言われるとは思わなくて。びっくりしちゃって。つい、な」
彼女は目を細めて、どこか安心した顔つきになっている。
「そうか。そこまで成長していたのか。すごいな」
彼女の笑顔に、自然とこちらもリラックスする。
「いや、そんな大した事ないよ。今までの研究が偶然当たってさ。それで上手くいって」
「それでもすごいよ。そうか、じゃああんたは今、博士か。立派なもんだ」
「そんな事言うなよ照れるじゃないか」
なんだ、話してみると案外簡単じゃないか。私は何を怖がっていたんだろう。
ルナ、君に感謝するよ。
あれ、さっきまで何してくれてんだって逆恨みしていたような。ま、良いや。
「そういえば、今君は何をしているの?」
私が聞くと、プロミネンスさんは地面を指さした。
「ここの警護任務jだよ。私は外だけどな」
「へぇ~。大変そうだね」
「そうでもないさ。おっと悪いもう行かなきゃ」
「うん、仕事頑張ってねぇ」
プロミネンスさんは手を振って外に駆けていった。いや、相変わらずそうで安心した。
私がにこやかにしていると、ルナはしてやったりという顔をしている。
「僕に感謝するんだな」
「分かっているよ。今度何かおごるから。あぁ、でも本当にすごかったな。最初はさ。めっちゃ緊張したけどさ。いざ話してみると。すごい水が流れるようにすらすら話せてさ。めちゃくちゃ自然に出来たんだよ。もう本当興奮しすぎとか、全然なかったしさ。楽しくおしゃべり出来たよ」
私がいつもの悪癖であるおしゃべりをやってしまっていても、ルナは気にせずという感じだった。
「いや、本当ありがとう。この恩は忘れないよ」
「おう、1000円な」
「金とんの⁉」
彼はクックックと喉を鳴らすように笑うと、ポスターをじっと見て指さした。
「当日は豪華に学園広場の時計台から、花火を打ち上げるようだぜ。その瞬間告白でもしたらどうだ?」
ポスターを見ると確かに、花火の時間が書いてある。いやそれよりも!
「い、いきなり告白なんて!まだ大して仲良くなっていないし…」
私がぶつぶつと言っていると、ルナはからかいの笑みをうっすらと浮かべた。
「花火と同時に告白!なんてロマンあるよなぁ。きっと彼女もOKするんじゃねぇの?」
「い、いい加減にしろよ!」
私はからかわれるのが嫌で手を振り回すと、ルナはそれを華麗によける。本当嫌な奴。
「まぁ、でも勇気出してみたらよいんじゃねの?」
ルナが唐突に言ってきた。いつになく真顔だ。
友人の言わんとする事を察した私は、彼から目をそらした。
ルナは真顔を続けていたが、やがて緊張を緩めるようにゆっくり手を差し出した。
「じゃあさ、こうしよう。僕が最優秀賞をとったら、お前も勇気を出す。例え告白じゃなくてもよい。お前も僕に背中を押されることなく、一歩踏み出してみろ」
「ルナ…」
本当に嫌な友人だ。私が縮こまって何も出来ないのを見透かして言ってきている。
でも、そんな彼の不器用な優しさが、どうしようもなくありがたかった。
私は苦笑すると彼の手をとった。約束の握手だ。
「頑張れよ」
ルナが顔を近づけ言うと、
「君もな」
私は笑ってそう返した。
何だか胸の内にあった緊張がゆるんでいくようだった。
しばらくそうした後ルナは腕時計をちらりと確認した。
「時間だ。行こうぜ」
「ん?もう?分かった移動しようか。それにしても彼女との会話でさぁ」
私の感想をBGMに私たちは展示会中央部に移動した。いつの間にか人だかりができている。マーズの奴もいた。サボればよかったのに、あいつ。
さて、人だかりの中央には学園のシンボルである馬に跨り、剣を携えた筋骨隆々の男の石像がある。そこをかこむように、人だかりが出来ていた。
オブジェの前に学長がいる。今年で64になる高齢の男で。普通に剥げたおじいさんだ。
学長は腕時計を確認すると声を張り上げた。
「みなさん、おはようございます」
おはようございますとみんなが返す。
「はい、みなさん元気でよろしい。さて、本日の展示会でですがね。まぁ魔道具展示会なんですが、今年も審査員の方を及びして、優秀なものは騎士団に認められ、生産が決定されます。今年もより良い物が選ばれると期待しております。我々、騎士団は人の命を預かる仕事ですから、みなさんもそのつもりで制作された事だと思っており…」
私は耳をふさぎたくなるのをなんとかこらえた。横に目をやるとルナはあくびをかみころしている。
「長くなりそうだな」
ルナが小声で耳打ちしてくる。
「我慢してくれよ」
教員にバレたくないので、手短に返す。けれどルナは無駄な事が嫌いな性分だ。苛立ちを隠さず更に耳打ちしてくる。
「でもさ、もうこんなこと言わなくてよいよな。こんな一般常識」
確かにと、私は思い前を見る。
どこの世界でもお偉いさんの話しは長いと相場がきまっているが、何もこんな長々と話さなくたって。
私たちの愚痴も届く事なく学長の話は続いていく。
「えーそもそも騎士団が何故生まれたかについてですな。今から三千年前、『破滅』の異名を持つ魔法使いが当時、大魔法を使い異次元の扉を開き、そこに住む魔物をこの世界に招いたのです。その時の世界のほとんどは科学のみしか扱っておらず、魔法や魔物の事は隠匿されていました。しかし、『破滅』はそれを破ったのです。
当時の世界は混乱に満ち荒れ、崩壊寸前まで陥りました。しかし、『破滅』はそれから、救ったのです。何故か人々に魔法を授けて去りました。理由は分かっていません。
そして、人々は科学と魔法をミックスさせて、その技術で魔物たちを少しずつ退治していきました。その派生こそが『騎士団』。騎士団はこの国に住む人々を守るため魔物退治を主な任務としています。そしてみなさんはその騎士団になるべく学ぶ学生。皆さんは五年間に渡って、その技術を吸収していくわけです。
魔物を研究する『魔物研究班』。魔法、及び魔術を研究制作する『魔術政策班』魔法を扱うための道具を作る『魔道具班』。魔物の接触によって起きる怪我を治す『魔物医療班』。そして直接魔物と戦う『魔物戦闘班』。
これらのどれかに皆さんは属し日夜勉学に励むわけですな。今回のこの展示会もその一つ。今日この日が皆さんの学業の成果であります。特に一年の皆さんにとっては初めてのお披露目となる訳です。
ですが、どうかあまり緊張せず自分のやってきた事を信じて、取り組んでほしいと思います。私からは以上です。ありがとうございました」
学長が頭を下げ、ようやく話しが終わった。
ぱらぱらとした拍手が起こる。みんな学長の話に少し疲れたようだ。
教員が指示を出し、学生たちはそれぞれの展示ブースに移っていく。
私たちもルナのブースへと歩いていく。
「最後の三行、四行でよいよな。あの話し」
時間を取られたのが嫌らしく、ルナはまだ愚痴っている。
「もうやめろって」
私はルナの肩を軽く叩き、なんとかなだめる。効率主義も極まると面倒くさい。
ルナのブースにつくと私は辺りをぐるりと見回した。展示会は学園の体育館を使って行われるため、仕切りはなく、それぞれが決まったブースで展示するという形だ。
時間をとられたため、ルナは急いで準備している。
「何か手伝うか?」
「いや、良い。お前じゃ勝手が分からんだろう」
答えながらも手を止めない。
「教えてくれよ」
「教えるの面倒くさい。自分がやった方が早い」
「そういうのが一番面倒くさいって。分担した方が早いよ」
「…じゃあ、荷物だしていくから段ボールかたしてくれ。見栄え悪いから隅においていて」
「わかったよ。面倒くさがりくん」
私は渡された段ボールのガムテープをはがし、たたんでいく。
横に目をやると、灰色に鈍く輝く鎧がそこにある。
ブースに飾ってあるルナのパワードスーツを見るとなんとも感慨深い気持ちになる。
「いよいよだな。上手くいくとよいな」
私はルナの邪魔をしたくないからボソリと言った。
「さぁな。結果は分からない」
ルナが間髪入れず答えた。
「あ、悪い。邪魔したな」
「いや、良い。まぁでも」
ルナはそこまで言うと、手を止めパワードスーツに手を触れた。
「自信はあるよ」
そう言い切ったルナの横顔はすごくかっこうよかった。
突然、鐘が鳴り響いた。
学園の時間を告げる時計台の鐘だ。
「やべっ、もう時間か。あのクソ学長話しが長いんだって!」
ルナが毒づくのも無理はない。
準備の終わっていない私たちはかなり焦る。
「あぁ、もう!高速で終わらせるぞ!」
やがて、教員から始まりの合図が告げられた。
学園の授業は警護任務の戦闘班以外はなし。大勢の学生たちが展示会に入り、展示会内部は人の波で入り乱れている。
最初は大勢の人がつめかけ、応対に大変そうだったルナもしばらくしたら慣れた様子で、パワードスーツについて説明していた。
やがて時間がたつと人もまばらになり、少し人がやってくる時間に間隔が出来た。
私も少し伸びをして、リラックスする。
すると、横から嫌な声が飛んできた。
「さぁさぁ、このハンマーはぶつけるとハンマーの表面が小爆破を起こし、硬い
魔物の表面もぶっ壊すという代物でさぁ!」
マーズだ。彼は自慢するかのように巨大なハンマーを振り回し、説明している。
「あれじゃあ、ハンマーごとぶっこわれるな。優勝は決まったもんだ」
私がため息をつくと、横にルナがいないのに気付いた。
(あれ、どこいった?トイレか?一声かけてくれなきゃなぁ)
とりあえず、人もまばらだし、まぁ良いけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『で、優勝出来るんだろうなぁ?』
「今やっている所だから、邪魔しないでよ父さん。優勝どころかじゃなくなる」
父の声が鬱陶しい。ずっと前からこんな調子だ。
僕はルナ・コスモス。
騎士団学園の魔道具班である僕は今、友人のライトと一緒に展示会で自分で作ったスーツを発表していた。
しかし今展示会の外に出て父と通話している。
「早く戻りたいんだって。人が来たら説明しなきゃ」
『私の質問に答えろ。出来るのか。出来ないのか」
「ベストは尽くすよ。でも、絶対出来るとは…」
『ダメだ。お前なら優勝だって出来るはずだ』
電話越しの父は、硬い声で僕の言葉を遮る。展示会が近づくにつれ機嫌がピリピリしていたけど、今日はそれが一段とひどい。
『私はお前を買っているんだ。それに応えろ。良いか?必ず最優秀賞をとれ』
「ちょっと待って」
私の静止の声も聞かず父は電話を切った。
苛立ちがこみ上げ、携帯を強く握りしめてしまう。
「何だよ。最優秀賞をとれ、とれって…。自分が学会で追い出されたから、僕を使って見返したいんだろう」
毒づいても、父の前では気弱になってしまう自分が情けなかった。強気で傲慢で、他の話を聞こうとしない父に、僕は怯えきっているのだ。
でも、いつまでもここでグズグズしてはいられない。
舌打ちをこらえ、僕はライトの所に戻っていった。
急いで戻ると、ライトがやってきた人の応対でアワアワとしていた。
「すまん、遅くなった」
僕はライトの肩を叩いて、説明を引き継いだ。
「もう、遅いよ。どこ言ってたのさ」
ライトが奥に引っ込みながら、小声で文句を言ってくる。まぁ仕方ない。
とりあえず、僕は客相手に話しを続けた。
「へ~、すごいね」
「これが優勝しそうだな」
客は結構よい反応をしている。これなら大丈夫そうだ。
胸を撫でおろすと、終了の合図のブザーが響いた。
その場にいた全員が再び、石像の前に集合する。学長は石像の前に、そして審査員たちがその横に並んでいる。
気づけばもう夕方だ。丸一日通して行われた展示会は終了した。
緊張する。しかし満足いく客の反応だった。
(ライトに他の所を偵察してもらった話を聞いてみたが、まずまず上位は狙えるだろう)
「さて、それではみなさんお疲れさまでした。今年も素晴らしい数々の発表、学長として誇りに思います。ここまでみなさん、色んな苦労があったと思いますが」
学長の話が長くなりそうな所で審査員がわざとらしく咳払いし、学長で早くしろと目配せしてきた。審査員ナイス。
学長もさすがに諦めたようで、同じように咳払いした。
「そ、それでは早速ですが、賞の発表に移ります。えーまず…」
学長の口から、次々に賞と受賞した学生の名前と発表作の名前が呼ばれる。その度に拍手が起こり、証書が学長から手渡され、審査員から賞に選ばれた理由と改善する所を述べられる。
一つ、一つと終わっていくがいつまでたっても自分の名が呼ばれない。
残すところ、あと一つ。最優秀賞。これをとれば実戦で使われる。
胸が締め付けられるような錯覚を覚え、苦しさから逃れるように横に目をやると、ライトがニッと歯を見せ笑い、サムズアップしてきた。
(ライト…。ありがとうな)
友人は僕を安心させたかったらしい。友人の思惑は成功だ。
僕は覚悟して前を見た。
「さて、それでは最後。最優秀賞」
学長の声が響く。
「マーズ・エンドリッヒ!爆弾ハンマー!」
拍手が起こる。
音が遠く聞こえるようだ。
起きた事への現実感が湧かない。
(は?待て。意味が分からない。なんて言ったあの学長)
頭が揺さぶられるような錯覚さえする。
(マーズの作ったやつは僕もみたが、とてもじゃないが最優秀賞をとれるような代物じゃなかったぞ!いや、というか僕の発明が選ばれなった!何故、どうして!絶対に上位は狙えたはずだ!これの価値が分からないのか!)
動揺しているのは僕だけではないらしく、ライトも唖然として、周囲も「え、何で」「流石になくない?」と僅かにざわめいている。
そのざわめきも気にせずマーズが石像の前に立ち、証書を受け取る。
すると証書を受け取ったマーズが、明らかに僕の方を見て意地の悪い笑みを浮かべ、口パクで「ば・か・や・ろ・う」としてきた。
(あいつ!)
沸騰したかのように頭に血が上る。
(あいつ、政治家の息子だから!その力を使って僕をはめたんだ!自分が最優秀賞をかっさらうだけでは飽き足らず、僕を地に叩き落として!)
怒りのあまり歯を食いしばる。
だが、証拠がない。
すると、おかしな事に気づいた。審査員たちが何やらボソボソ話し合っている。
(いつもならやる、賞に選ばれた理由を述べないのか?…まさか)
私は深呼吸して挙手した。
「質問の許可を」
学長が一瞬面倒くさそうな顔をした。
「…何か?」
「賞に選ばれた理由が述べられていません。理由をお答えください」
審査員たちは目を合わせ、ものぐさそうにして言った。
「議論と熟慮の末の結果です」
(なんだそれは、ふざけているのか⁉)
「質問の答えになっていません。きちんとお答えください」
僕が怒りを我慢出来ず、追及すると今度は学長が苛立った態度を見せてきた。
「ルナ君、良い加減にしたまえ。それとも君、自分の物が選ばれなかったからって嫉妬しているのかね?」
学長が鋭く睨みつけてくる。
(クソ、嫉妬しているのはマーズの方だろう!)
そう言ってやりたいが、出来ない。何とか上手い事マーズをあそこから引きずりおろせないものか。
僕が思案を巡らせているとマーズが下卑た笑みを浮かべて、前に出てきた。
「先生、やめましょう。彼が可哀そうです」
(何を言い出すんだ、こいつ)
僕が困惑しているとマーズはやや演技じみたポーズをとって更に言葉を重ねてきた。
「おいルナ君、僕は君を買っているぞ。自分の作った物が選ばれなくて可哀そうにな。でも、これは仕方のない事だ。それでも君が我慢できないというのなら、誰か一人でも彼の作った物の魅力を言いたまえ。そうしたらきっと審査員も考え直すんじゃないか?」
会場中がざわついた。みんな驚いている。学長や審査員ですら固まっている。僕もマーズのやっている事が理解できなかった。
「さぁ、どうした?名乗り出たまえよ!」
マーズが叫ぶと皆静まりかえり、そして誰も僕の方をみなくなった。それだけではない。こっちを明らかに目線を合わせないようにしている。
「お、おい」
僕が隣にいた奴に声をかけようとするが、逃げていく。そいつだけでない。みんなが少しずつ。でも、確実に僕を避けている。近寄ろうとすると更に避けていく。
いつのまにか僕を中心に、円が出来ていた。
(みんな恐れているんだ。こいつの父親の事を知っているから!)
僕を避けられている理由を察した。マーズの父親が出張ってくれば自分たちは、学園生活を過ごしずらくなる。それを分かって、誰も何もしてくれないのだ。
「ほらほら、どうしたどうした⁉」
マーズの声が響く。今や会場はマーズに支配されているも当然だった。
僕は藁をもすがる思いで隣にいるはずのライトを見た。
ライトも怯えた目で僕とマーズを交互に見ている。
「な、なぁライト」
僕が助けを求めるようにライトに手を伸ばす。ライトもそれを見てこちらに手を伸ばす。
「おい」
マーズの声が剣のように、僕たちを切り裂いた。
「で、説明すんの?しないの?」
マーズは無表情になり、冷たい目でライトを見ていた。
ライトは恐れているのか、顔がこわばり吐き出しそうな表情になる。
ライトはやがて、手を下ろしこちらを見ずに、ゆっくりと群衆の中に混ざっていった。
「ライト…」
最後に残ったのは、自分の虚しい声だけだった。
「決まったようです。先生」
マーズはそう言い残し、降りて行った。
学長がバツの悪そうな顔で終わりの挨拶をしているが、それも異国の言葉のように僕には聞こえた。
それから僕は呼ばれ、学長と審査員からは色々と言い訳がされた。
「君の作品は素晴らしかった。だから、とりあえず実用化は君の物だ」
「そうともすぐに量産化されるだろう」
「と、とりえず彼に最優秀賞を預けようじゃないか。実質君の勝ちなんだから」
お前たちのいう事はよく分かるよ。なんたってこの学園、マーズの父親から支援を受けているもんな。それくらい調べてないとでも思っていたのかよ。
設立当初からマーズの家系には助けられてきたんだろう?
騎士団でも税金ではまかなえきれない所があるからな。
僕の思考なぞ、知る由もなく学長たちは媚びた笑みで僕に頭を下げていた。
それが心底気持ち悪く、怒りよりも気味悪さの方が強かった。
やがて、日は暮れ夜の闇が辺りを覆い隠そうとしている頃、やっと僕は開放され帰路につこうと、スーツをボックスにしまった。
「よう」
陽気な感じで声をかけてきたのはマーズだ。手下二人も引き連れている。
僕は一度振り向くも、無視した。するとマーズが僕の肩を殴ってきた。
睨みつけるが、マーズはにやついた笑みを崩さない。
「残念だったな。まぁ来年も頑張れよ」
もちろんこれはマーズの煽りというのは理解出来る。だけれど僕には一つ理解出来ない物があった。
「お前、恥ずかしくないのかよ。自分の作った物は人を助けるためにあるのに。あんな卑怯な事して、そこまで最優秀賞がほしいか?」
僕が聞くとと、マーズは笑みを崩した。
「別に」
「は?別にって何だよ?」
「別に俺はお前を蹴落としたかっただけだし」
僕は他人をここまで嫌いになれるのかと驚いた。
こいつには物づくりに対するプライドも信念もないのだ。
同じ発明家として、僕はこいつを激しく嫌悪した。
「じゃあな」
マーズはそう言って去っていった。
二度と来るな、そう叫びたかったが僕はその言葉を飲み込んだ。ここで怒っても何もならない。それを理解出来ていたから。
僕は長い溜息をついて、ボックスを運び校門の前まで移動すると、そこにライトがいた。
ライトはこちらを見ず、足元を見ている。何か言おうと頑張ろうとしているのが分かる。でも今の僕にはその頑張りをくんであげられるほどの優しさが残ってなかった。
僕は声をかけてくる彼を置いて、箒で空に舞い上がった。
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