第15話 反撃だぁああああああああああああああああああ‼
魔物の大群を泣きながら避け続け、私は急いで自宅に帰ってきた。
ドアを開け飛び込み急いでカギを閉める。
辺りを見回すと出かけに行った時と変化ない。
「あ~怖かった~。死ぬかと思った。よし、家の中には魔物はいない。大丈夫そうだ。よかった~」
まだ恐怖で心臓がバクバクしている。魔物に見つからないよう避けながら移動するのは至難の技だった。
私が汗をぬぐうと顔にぷにるが飛び込んできた。
「ぷにょっ!ちょ、ちょっとぷにる!」
私がぷにるを引きはがそうと両手で抑えると、ぷにるがブルブル震えている事に気づいた。
「そっか、ごめんな。怖かったよな。一人にして本当ごめん」
私は顔から引きはがしたぷにるを撫でながら優しく語り掛ける。
「でも、今、どうしてもやらなきゃいけない事があるんだ。まだもう少しだけここにいてくれ」
ぷにるに伝わっているかどうかは分からない。でも伝えておきたかった。ぷにるの震えは収まっていた。私は机に置いてある物を全部どかすと、ぷにるを机に置いた。
「見守っていてくれ」
私がそうお願いすると、ぷにるは一度大きく身体を震わせた。
何だか励まされた気分だ。空を見ると、様々な種類の魔物たちがあちこちに隊列を為し飛行している。
時間がない。急がなければ。
「デモンズは強い。でも今回みたいに私を逃してしまう辺りやはり爪は甘い」
長年友人をやっていれば彼の欠点はよく分かる。優秀な分、抜けている。今回の騒動ももっと時間をかけて準備すれば上手くいったのに、そうしなかった。衝動的に動く癖があるのだ。
「隙はある。対抗策だって。私にも考え付くさ」
勝機は微妙だ。でもやれるだけやってみよう。私はそう思い部屋を見回した。
所狭しと並ぶ魔物関連の収集物。もしくは本物魔物数体。
「博士号をとった私でしかここまでの物は集めれなかったろう。思えば、ここまで集めるのに苦労した。…でも今日で全部使い切る」
私は棚に並に並べた箱を取り出し、床に次々に置いていく。
「君たちにも働いてもらう」
更に、友人である食人植物。そして、ケースに入ってある鬼蜂も床に置いていく。
心苦しいが仕方ない。
私は全ての収集物を並べた。慣れない作業だがやってみよう。
私は一番と書かれた箱から、トカゲのような皮素材を取り出した。
机に置くとぷにるが黄金に輝くハサミを渡してきた。
私は笑って、ハサミを受け取り素材をハサミで切っていく。
「このハサミは特殊な素材で作られているからな。魔力さえも弾くこの硬い素材も楽々に切れる」
私は切ったその素材に他の様々な収集物も合わせていく。
切って、はがして、塗りつけて、しみ込ませて、繋いで。頭の中に思い描く設計図通りにそれを作っていく。
一つだけじゃない。色んな物を同時に作って用意していく。
慣れない工作だが、不思議と詰まる事無く次々と必要な物は完成していった。
一時間後、全ての工程は完了した。
出来上がったそれらを見回し、私は一息ついた。
「出来た…。これなら多分いける」
安心したような気分になるが、同時に恐怖がせりあがってくる。
(準備は整った。でも正直怖い。戦う事もそうだけれど、兄弟同然に育った彼を殺してしまう事が怖い。)
私にルナを殺せるだろうか。
覚悟は決めている。でも、もしかしたら、という不安はぬぐい切れない。
自分の手がいつの間にか震えているのに気付いた。
私は不安を潰すように震える手を握り締める。
「プロミネンスさんを助け、ルナを止めれるのは私しかいない」
私は棚に置いてある両親の写真を見た。
笑顔の二人がそこにいた。
「父さん、母さん、私に強い気持ちを下さい」
私は亡き親にそう願い、荷物をまとめた。
作った物を装着し、必要な物をリュックに詰め込んだ。準備は万端。
私は床の貯蔵庫の扉を開けると、そこにぷにるを入れた。
「じゃあな、ぷにる。行ってくるよ、必ず帰ってくるからね」
ぷにるは身体をぷるぷる震わせているが、それ以上何もしてこない。ぷにるには全て分かっているかもしれない。
そうだとすると、ぷにるに辛い気持ちを負わせてしまっているな。
私は心の中で詫び、扉を閉めた。
玄関の扉を開け外に出ると、急に甲冑がちょっとだけ重くなった気がする。
「あれ…?ちょっと重い?気の所為かな?」
私は悪癖の独り言をつぶやきながら、箒に跨り空に昇った。
ルナに会いに行くために。
◇
「ごっは!」
デモンズはそう呻きながら、身体をくの字に曲げ柱にぶつかった。その衝撃で鉄骨は揺れ、ぶつかった場所が歪む。
私は奴を殴り飛ばしたのだ。振り上げた拳を下ろし、また構える。
(戦いに関しては素人だな。動きがなっていない。けど妙な道具を使いやがるから、片付けるのに手間がかかったな)
ドレスは更にボロボロになり、体力は消耗していた。それなりに怪我もしているが動けない程ではない。
道具も何ももってきていないから、魔術は使えなかったけど単純な魔法のみで勝ててよかった。
デモンズが動かないのを見て、私は奴に駆け足で近づく。
(動かない今がチャンス!)
後三歩でデモンズに届く。
だが、私の身体は突如目の前に発生した爆風によって、宙を舞った。
咄嗟に魔力をドームのように展開しダメージは免れたが、風ばかりは逃れられず、私は回転しながら、下の鉄骨に降り立った。
「何だ⁉」
顔を上げると、そこにもう一人デモンズがいた。
正し着ている鎧が血のように赤い。血管のようなラインが全身に張り巡らせられているのでおどろおどろしい雰囲気を感じる。
赤いデモンズは嗤うように顔を上げた。
「やれやれとんだじゃじゃ馬だな。僕が丹精こめて作ったデモンズスーツをあんなにボロボロにしてくれちゃって」
デモンズはそう言いながら鎧を親指で刺す。
「そりゃ、悪かったな。私はボロボロな男が好みでね。何だったら、そっちもボロボロにしてやろうか?」
私は挑発の笑みを返すとデモンズの翼が大きくはためいた。
「調子に乗るなよ?…さっきのは遠隔操作だったもんでね。上手く出来なかったんだよ。今度は違うぞ」
デモンズがそう言うやいなや、右手の平を私に向けた。
すると奴の腕が突然輝き、その光がいくつもの腕となって私に向かって襲ってきた。
魔力で作り出した腕だ。
私は舌打ちすると足裏から魔力を急速噴射し、ロケットのように飛び出す。
百に至るであろうかという腕を除けていくが、すぐに目の前を腕で防がれる。
それを魔力で強化した手刀で薙ぎ払っていく。
腕を切っていくとすぐに奴の目の前に躍り出た。
だが、デモンズは余裕の態度を崩さない。
「甘いよ!」
デモンズが右腕を高く掲げるとバラバラに伸びていた腕が一つの巨大な大きな腕となり、その手のひらで私を掴んだ。
「っぐ!うっ!あぁ!」
まるで巨人に捕まえられた気分だ。
身体を締め上げられ、軋む音がする。呼吸をするのも難しい。
「言っただろう!遠隔操作していたと!君の動きは既に検証済みなんだよ!」
奴は笑いながら、私を掴む力を徐々に強くしていく。
(こ、これほどの魔力。一体どこから?)
とても一人が用意出来る魔力量ではない。
ここまでの魔力を使っても奴は、苦しむ素振りすら見せない。
「聞こえるだろう?身体が軋む音が。君の死が近づく音だ」
デモンズは顔を近づけ囁いてくる。
こいつは私の苦しむ顔を見たいのだ。それを悟った私はあえて笑顔を作ってやる。
「これほどの魔力量使ってやることが私を捕まえてもてあそぶだけ?魔王みたいな姿している癖にやる事が随分と陳腐だな」
デモンズはそれを聞くと、更に掴む力を強める。圧迫感に更に呼吸が困難になり、身体が軋む音が大きくなる。
「君を苦しめ、痛めつけ、その果てに殺し、その姿を奴に見せつけてやろう。国も愛する者も奪われたあいつはどんな顔をするかなぁ?」
デモンズが嗤いながら何か言っている。
痛みのあまり、考えがまとまらない。やつの言っている事が意味が分からない。
デモンズは私を掴む腕を高く掲げた。
「まずは落としてやる」
デモンズがその言葉と共に、私を地面に向かって放り投げた。
私は仰向けに落下していく。
地面がどんどん近づく。けれど魔力が上手く煉れず、身体も痛みのあまり動かせそうにない。
うっすらと遠のいていく意識。
その最中、私は確かに見た。緑色の魔力の尾を引き急速にやってくる何か。
それは、あの時、私を助けてくれた龍人だった。彼は真剣な目を私に向け、腕を広げ空を飛び、まっすぐこちらにやってくる。
(幻覚、かな?)
ふわりと私の身体を包み込む感触を感じとりながら、私は自分の意識が落ちていくのを知覚した。
◇
何とか助かった。
プロミネンスさんを所謂お姫様抱っこの形で抱きとめる事に成功した。
箒に跨り、デモンズのいる場所を探し回っていたが、案外早く見つかった。
けれど、そこで彼女がデモンズに落とされたのを見つけ、何とか近づき助ける事に成功した。
「ま、間にあったぁああ~」
私は一安心し大きなため息をついた。
本当にギリギリだった。
地面からそこまで高くないとはいえ、当たりどころが悪ければと考えたら、ゾッとする。
彼女は気絶しているだけのようだ。
「よぉ、案外早く来れたな!」
奴が上から陽気な声をかけてきた。彼女を傷つけた犯人だ。
私は上空にたたずむそいつを睨みつけた。
「デモンズ!」
私が奴の名を呼ぶと奴は翼を大きくはためかせた。
「よぉ!ライト!それとも龍戦士と呼んだ方が良いかなぁ!」
デモンズは変にオーバーな動きとご機嫌な声で語り掛けてくる。
「いや、もう龍戦士じゃないか!そのみすぼらしい恰好、やはり龍の力はまだ使えないみたいだなぁ!」
デモンズが私の姿を指さす。
私が考えたのはデモンズスーツに対抗する為、私もスーツを作るといったものだ。
と言っても私には科学知識も高度な魔術知識もない。
このスーツは私の趣味と学園の課題の為に集めた、魔物の素材、収集物を組み合わせて作った物だ。
深緑色の鱗の甲冑。
右腕には蟹のような大きなハサミを装着し。左上腕部腕には紫色のテープでぐるぐる巻きにしている。
腰には大きなベルトポーチがついている。
肝心の兜も龍をイメージして作ってあるが、口部分が丸見えだ。
おまけに背中にはデカいリュックを背負っているのだから、みすぼらしいと言われても仕方ない。
時間も技術力もなかった為このような出来になってしまった。
デモンズスーツに比べればかなりお粗末な物だ。
それでもこれでやるしかない。
私は息を大きく吸い込むと声を張り上げた。
「随分と姿が変わったな!新しいスーツか?より悪魔らしくなったじゃないか。よく似合っているよ」
「そりゃどうも、お前もお似合いだよ、死に装束にぴったりだ!」
私の挑発にデモンズは、意気揚々と煽ってくる。
私は最後の会話になるかもと思い、先ほどから疑問に思っていた事を聞くことにした。
「…一つ聞きたい。どうして私を逃がした?君なら、私を逃がす間抜けなことはしない筈だ。一体何故?」
「最初にお前に騎士の助けが入っただろう?そこで考えを変えたんだ。奮起したお前の目の前でそいつを殺し、そして最後にお前を殺す。そういうシナリオをしようって決めたのさ」
デモンズはそう言いつつ、ふるふると頭を横にふる。
「そうか、よくわかったよ。本当に」
彼は私への怒りのあまり、無関係な彼女を手にかけようとした。しかも助けてくれた恩人をだ。怒りを感じる資格はない。
そうさせてしまったのは私だから。その責任をとらなければならない。
私は地面にゆっくり下降すると彼女を横にさせた。
彼女は安定した寝息を立てている。
私はリュックから筒を一つ取り出すと、筒の蓋を開け地面に置いた。筒から青色の煙が噴き出す。
「これで他の騎士団が見つけてくれる」
私は呟くと、箒を操り傍を離れた。
彼女の為にも、こんな事早く終わらせなきゃ。
見上げれば、デモンズと目が合う。
「便利な龍の力が使えない。何の力もない癖に。わざわざ死にに来るなんてなぁ。相変わらずお前はバカだよ」
デモンズが見下した感じで話してくる。
私は腹のそこから声を出す。
「力がないのは当たり前だ!元々私にはない力なんだから!それでもやってやる。来い、デモンズ!今度こそ逃げないぞ!」
「嬉しいよ!龍戦士よ」
デモンズが低い声でそう言うと、一気に上昇した。目算50メートルまで上がった所で奴が私に向かって急降下してきた。
真っ赤に輝く魔力を纏っているので、その姿は赤い隕石だ。
私はギリギリまで奴を引き付けると、リュックを開き手を突っ込んだ。
私はリュックから、植木鉢に入ったままの食人植物魔物を取り出し、奴に投げつけた。向日葵っぽい食人植物はするすると茎を伸ばし奴に絡みついた。当然デモンズはすぐ振りほどこうとするが、食人植物は奴の肩に噛みつくと魔力を急激に吸い上げた。
するとデモンズが纏っていた赤い魔力が吸い尽くされた。
魔力を失った事によりデモンズがコントーロールを失いふらふらと落下してくる。
「な、何だぁ⁉」
デモンズが翼をはためかせ、場に留まろうとしてくるので私は高速で接近し、腕のハサミで翼を切ろうとする。
しかし、デモンズが私のハサミを掴んで、それを止められてしまう。
私とデモンズはもみ合いながら、近くの鉄骨にぶつかる。その衝撃で私も箒から放り出されてしまう。
「お、お前何をしたぁ⁉」
デモンズが魔力を噴出させ、私に掴みかかるが瞬時に魔力が吸われてしまう。
魔力を吸えば吸い込む程、食人植物は大きく成長していく。
私は奴を逃さないようハサミでデモンズの腹をギリギリと挟み込む。
「紹介しよう。上級魔物、食人植物のヒマワル。名前は『クルスト』だ。食人植物は知っているだろう?」
私が奴に顔を近づけ聞くと、彼は舌打ちする。
「そうか、思い出した。魔力を吸い、最後には人間を食らう魔物か。お前こんな物まで飼育していたのか知らなかったよ」
デモンズが急激に魔力を上げていく。
「でも、こいつには一度に吸い込める魔力に限度があったよなぁ!」
デモンズの喜々とした声に私は頷く。
「そうさ、吸い過ぎると枯れる。だから、枯れる前にケリをつけよう!」
「出来るものならな!」
デモンズは装甲を切ろうとするハサミを握ると力任せにどかした。
絡みつく茎の隙間から翼を広げると、そのまま上昇する。
目まぐるしく飛び回りながら、鉄骨にぶつかっていく。
痛みと勢いで、かなり苦しいが何とかこらえる。
(ふ、振り落とされるものか…!)
私は必死の思いで奴にしがみついた。
私はデモンズを捕まえた状態のまま、空を飛んだ。デモンズは高度を上げ工事中の建物から出ると、そのまま街の方に飛んでいく。
街には沢山の魔物がドローンに連れられ群体を為し、飛行している。
空中に浮かぶ建物全土に火の手が上がり、あちこちから悲鳴が聞こえる。
デモンズは横に長い建物の屋根に滑走するように低空飛行し、そのスピードを維持したまま私を屋根にぶつけた。
身が引き裂く思いというのを初めて体感した。
衝撃の所為でリュックから何かしら壊れる音がする。
このままではマズイと思い、私は、ポーチから瓶を一つ取り出すと蓋を外して、中にあった粉をやつにぶちまけた。
「今度はどんな手品だ⁉」
デモンズが苛立ちを隠さず粉を振り払うがもう遅い。
デモンズスーツの肘、脇、首など隙間からキノコが生えだした。
「す、すくすくキノコだと⁉」
「ご名答!」
デモンズが驚いた声を上げるとキノコは徐々に大きくなる。
「そいつも魔力を吸うぞ!」
私がそう言いながらデモンズのスーツを指さすと、キノコが全身をくまなく覆っていく。
キノコが成長する事で各機械を潰しているので、すぐにデモンズスーツから煙が噴き出す。
デモンズが再びコントロールを失い、そのまま屋根を転がると今度は私が奴に飛び掛かる。
ハサミで奴の頭を切り裂こうと右手を出すが、デモンズがそれをひっつかみ、私を外へと放り出す。
はずみでハサミは外れ、私は地面落下しそうになる。
しかし、何とか建物の地面を掴んだ。
「し、死んでしまう…!チクショウ。龍の力が使えないから自動反撃機能も使えない!」
今の私は戦いに関しては素人だ。先ほどの攻撃も、もっと注意深く伺って気を待つべきだった。いや、それが正しいのかどうかも分からない。
こんなんだから、戦闘班を落ちたのだろうな。
私が何とか地面に這い上がろうとすると、真上からデモンズが降ってきた。
デモンズは私をひっつかむと、そのまま共に真っ逆さまに落ちていく。
植物に巻き付かれ、キノコも生やし、原形をとどめていないデモンズ。しかし奴の獰猛な真っ赤なアイレンズは私を捉えて離さない。
回りながら、今度は公園の大きな噴水に着水した。
今度はデモンズが下になって落ちたので私にはダメージがないが、デモンズが私を蹴とばすと同時に、リュックを奪い取る。
「さっきから鬱陶しいんだよ!このリュックから出るものはよぉ!」
水に濡れた所為で動きづらいが私は何とか起き上がり、叫ぶ。
「おい、それを離せ!」
「今更、何を言っても遅いんだよ!」
「そうじゃない、中にいるお客人が怒るぞ?」
「何?」
デモンズが中身を覗き込むと、リュックを突き破って手のひらサイズの蜂が何匹も出てきてデモンズに襲い掛かった。
「ぐっぉお!こ、これは…!」
「私の大事なお客様でね。鬼蜂だ。攻撃した相手に執拗に報復するぞ?」
私が集めた収集物の中でも特に危険度の高い魔物だ。本来なら、飼育は出来ないが学園の実力主義のおかげで私は特別に飼育が可能だ。
学園で極めて優秀な成績を残した私は個人的な研究の為、飼育が可能になっている。もちろん、家の外に許可なく持ち出すのは禁じられているが。
「これでどうだ!デモンズ!」
さて、その禁じられた何十匹もの鬼蜂は、デモンズに向かって針を突き刺している。刺されたデモンズは呆然と立っているだけで、その表情を伺い知る事が出来ない。
(正直、これが今使える最後の武器。切り札だ。これがダメとなったらもう打つ手が…)
もう何回も鬼蜂に刺されているが、以前デモンズに動きは見れない。ただ黙って攻撃を受けている。
(もしや、死んだか)
私がそう思い、一歩近づくとデモンズの身体が真っ赤に輝いた。
食人植物の茎、キノコによって覆われた全身から鮮血のような輝きが迸る。
「ブラッド・ライトニング・ファウスト!」
デモンズのその叫びと同時に、赤い輝きは電流となり空間を走った。
絡みついていた茎とキノコははじけ飛び、周りを飛んでいたキノコも消し炭になる。
電流は私の方まで飛んでこなかったが、それでも震撼するほどの衝撃を肌で感じた。
「ぜ、全部壊した…」
呟いたその声は震えていた。
それが恐怖か、驚きか、あるいは両方かは分からない。
デモンズスーツはかなりボロボロになっていた、装甲は剥げ、内部の機械は見えているし、装飾品である突起物も破損している。
それでも血のような輝きだけは変わらずにそこにあった。
強い、弱いの話しじゃない。対策を打ち、向かっていっても更にその上を行く上位の存在。それがデモンズなのだ。
デモンズスーツの血液のような赤いラインの輝きが警告するかのように、危険な色合いで輝いていた。
デモンズは両手をギシギシと音をならして祈るような仕草で組む。ハンマーパンチの構えだ。
「ライトぉ…」
デモンズの呪詛のような響きが聞こえた。
「ライトぉおおおおおお!」
奴は組んだ両手を地面に叩きつけた。その瞬間、叩きつけた所を中心に赤い電撃が波紋の如く広がった。
一瞬地面が揺れたかと思うと、そのまま放射線状に割れた。
「うっわぁぁあ⁉」
驚きの声を上げ、私は落下していく。
割れた地面を掴める筈もなく、そのまま落ちていく。
「まだ!まだ!終わらないぞぉ!ライト!」
上を見れば割れた地面からデモンズが飛んできた。
「嘘だろ…」
その呟きをすると同時に、デモンズが叫んだ。
「ライトニング・パニッシャー!」
文字通りの雷雨が私に降り注いだ。
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