第10話 襲来ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼
「全体、魔物を囲め!中級クラスの奴は前に出すな!ここで仕留めろ!囲めばどうという事はない!」
私たちは今、国に侵入した魔物の退治の真っ最中だ。
鎧を身にまとった大勢の騎士たちが、更に大勢の魔物を相手取っている。
その中で騎士団一番隊隊長であり、教官でもあるベガは私たち全体に指示を飛ばしていた。
炎舞う夜空を箒で飛行しながら、ベガ教官は淀みなく、詰まることなく全体を動かしていく。
すごい人だ。
改めて夜空を見回すと異様な光景だ。下は魔物の被害による炎の海と化し、上は空を覆いつくさんばかりに魔物で溢れかえっている。
その中であったとしても教官は表情を崩さない。眼鏡のブリッジを押し上げ、戦場を冷静に判断していく。
さすがはあの迷い森でルナを救助した人だ。肝っ玉が違う。
「補助組!」
「はいっ!」
補助組、そう教官に呼ばれた私たち、学生数人は同じく箒で飛びながら構えを取る。
槍を両手で握りしめ、いつでも突き刺せる用意をする。
ベガ教官はそれを確認し、頷いた。
「前に出なくて良い!遠距離からの援護!雑魚を片付けろ!」
「はっ!」
「私もそろそろ前に出る!行くぞ!」
教官は奥にいる中級魔物を片付けに、炎吹き荒れる更に奥へと飛んだ。
そのまま剣を引き抜くと、剣に魔力を流す。
魔力を流された事により、銀色に輝く剣で魔物を次々に流れるように切り裂いていく。その姿はまるでコーヒーにミルクを注ぐように、黒々とした群れを銀色の線で上書きしているように見えた。
「教官に遅れをとるな!私につづけ、お前ら!」
「おうっ!」
ベガ教官に負けないように声を張り上げ、後ろにいる同じ班のみんなを鼓舞し、持ち場につく。
この事態は異常だ。国を守る結界は解かれ、魔物が大量侵入。幸い上級魔物は少ないとは言え、この状況はありえない。上下左右、どこを見ても魔物しか見えない。
(訓練されているとはいえ、こんなもの決してないだろうと思っていた。あぁ、クソ!本当やってられないな!)
悪態を心の中でつきながらも私たちは攻撃の手をゆるめない。
前にいる騎士団が一斉攻撃をかました魔物の群れに、反撃させないよう更に攻撃をたたみかける。
「私に合わせろ!炎魔術!クリムゾン・グングニール!」
私の声に合わせて、一斉に補助組全員が槍を突き出すと目の前に巨大な炎で形どられた魔法陣が現れる。魔法陣は形を変えて六本の炎の剣に変わると、吸い込まれるように魔物群れに突っ込み、爆散する。
「まずは一回!」
攻撃が当たったとは言え、油断はしない。改めて遠距離魔術の準備をしようと槍を構えなおすと、爆発し、燃え盛る炎が大きく揺らいだ。
いや、違う。炎の中から、魔物の群れがカーテンを翻すかの如く現れ出てきた。
しかもさっきより数が多い。
無数にも思える魔物の群れが津波のように私たちに襲ってきた。
「ま、まずい、迎撃態勢がまだとれていない!」
前方で攻撃していた騎士団の一人が叫ぶ。いくら騎士団でもこの数をすぐさま裁けない。
(どうする…⁉)
思考が止まり、息をするのも忘れた。
瞬間、私の思考が加速した。恐怖による防御本能か。私の思考は常時の数倍早くなり、周囲の景色が亀の如く、遅く見える。
だからといって何かが出来る訳でもない。私はパニック状態になっていたのだ。情けない事に。
魔物はすぐそこまで迫ってきている。
状況は絶望的。
そう思った瞬間、閃光が上空からスポットライトの如く降り注いだ。
閃光の中心にいたのは箒に跨るベガ教官だ。
教官は表情を僅かにゆがめ、剣を振りかざした。剣から、光が放たれ、ベールで被うかのように魔物の群れを包み押しとどめた。
「全体!攻撃!」
ベガ教官の声に反射的に私たちは攻撃の構えととった。
周囲の景色が元の速度に戻っていく。
目の前では騎士団持ち直し、剣を構えた。
「ベガ隊長を守れ!」
騎士の一人が剣を掲げると、それに続くように騎士団全員が剣を掲げる。
上に突きあげれた剣は、一人一人様々な色に発光した。光の剣はロケットの如き推進で勢いよく伸び敵を貫いていく。
「よっし!」
思わずガッツボーズを取ってしまう。
これで勝てる。そう思った。
突如、私たち全員の目の前に魔法陣が現れた。通話専用の魔術だ。
こんな時に通信してくるのは。
『こちら司令部。諸君、任務を変更。持ち場を離れよ』
「え…?」
魔法陣から冷たい声が響いた。
目の前には私たちの後ろにいる人々に襲い掛かろうと、魔物の群れが迫ってきていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「みなさん、こちらです!慌てず、押さず、移動して下さい!あ、そこ!写真なんてとってないで早く移動して!」
声を張り上げ、私たち学生は避難誘導をしていた。
場所は、空中に浮かぶ都市部の最下。つまりは地上だ。
老若男女、誰もが逃げていた。青ざめる者。パニックになる者。泣きじゃくる者。あるいは、野次馬根性で写真や動画をとる者。
そしてそれらが決して暴動や、騒ぎにならないように道の端で必死で声を上げ、或いは箒に乗って、負傷して動けない人がいないか空から見まわる私たち。
そこまで広くない街道を所狭しと人が、押し詰め移動していく光景を見ると現実感がなくなってくる。
この姿を見て、これがいつか歴史の教科書などに載るのだろうか等とどこかで考えてしまった。
空を見上げればあちこちで火の手が上がり煙がこっちまで来ている。
暗黒の夜は炎によって照らされ、空は煙が覆っている。遠くの方では爆発音と魔物の声。
遠くを見れば、焼け崩れた上空の建物が落下していく。
(これは生涯忘れる事はないだろう。私はこの恐怖を忘れ去れない。きっとここにいる人々の多くはそうだ)
今でも、怖い。戦闘班が戦ってくれているとはいえ、状況はベストと言えない。魔物の数が多く、対処しきれない状況下にある。
それでも私はここで必死に声を張り上げていた。
(でも、怖くてもきっと誰かが何とかしてくれる。プロミネンスさんやみんなが、助けてくれる。だから、それまで何とか耐えよう!)
私は助けを信じていた。信じるしか出来なかった。
しかし、私のこの気持ちを揺るがす物があった。
(龍の力を使えば、ドラグーンと一言言えば、あいつらを蹴散らすまではいかなくとも時間を稼げるかもしれない。でも…)
遠くの方を双眼鏡で覗くと、魔物の群れがゆっくりとだが確実にこちらに向かってきていた。魔物の好物は人間の恐怖する心。故により多くの人間、より恐怖の集まる感情。つまり、この避難している所を目指すのはごく自然な事だった。
それが私には怖かった。
恐怖で身体が震え、脚がすくみ全身から冷や汗が止まらなかった。
(無理だ。怖い。あんな化け物共につっこむなんて無理だ。いくら龍の力でも、もし、もし何かあったらひとたまりもない。自動反撃機能がついているけれど、それでもまずあそこにいく事が私には出来ない!)
いくらどんなに凄い力を持っていても、私の心は何も変わらない。力は心次第なのだ。
(しかし、もし一度力を解き放てば、上手くいけばより多くの命を救えるかもしれない。あぁ、でも出来ない!みんな、みんな許してくれ!救えたかもしれない人たち!本当にごめんなさい!)
理屈ではなく感情で。良心より恐怖が勝っていた。あの時、ルナを見捨てたあの日から私は変わっていなかった。
良心の呵責。罪悪感。それらが心を押しつぶす。
それでも身体が鉛になったかのように重く感じ、動けなかった。
私は力を使える事実に目をつむった。
他のみんなと同じようにここで頑張れば良い。そう思い込んだのだ。
私はなるべく集中して避難中でトラブルが発生していないか、目を凝らして観察する。
すると、一人の男性が空を指さし叫んでいる。釣られるようにそちらを見ると、箒に乗った人がこちらに向かってくる。
だが、安定していない飛行だ。ふらつきながらこっち目掛けて突っ込んでくる。
「み、みんな逃げろぉ!」
無我夢中で叫び、私は逃げ出した。
街道で避難していた人々も同様。押し合い圧し合いながら逃げ惑う。
やがて、箒はすぐそばにある壁に激突し壊れ、乗っていた人は放り出され、道に転がる。
とりあえず、箒にぶつかった人はいない事を確認して、倒れた人に駆けよる。
「だ、大丈夫で、すか⁉」
驚きにより声が多少詰まってしまう。
駆け寄り、傍によると倒れた人の顔が分かった。
プロミネンスさんだ。
彼女は、身に着けていた甲冑がかなり破損しており、身体もあちこち怪我をしている、顔色もかなり悪い。
「プ、プロミネンスさん!どど、どうしよう。と、とにかく今、応急処置魔術を!」
プロミネンスさんを助ける為に魔術を使用しようと、手のひらを翳すと、これまで目をつむっていた彼女は目を見開き私の手を掴んできた。
「プ、プロミネンスさん⁉」
彼女は口を動かし、何かを言っているが声がかすれて聞き取れない。
もっとよく聞く為、耳を近づける。
「に、逃げろ…」
「へ…?」
誰かの叫び声が聞こえた。
振り返ると人々が上空を見て叫び、逃げている。
その上空を見てみると、緑色の巨大なムカデのような魔物がすぐ近くまで迫ってきていた。
「な、何で。どうして…⁉戦闘班や騎士団が守ってくれているんじゃ…⁉」
「…騎士団と、戦闘班の、ほとんどが別任務に、駆り出された」
私が狼狽えていると、彼女が途切れ途切れの弱弱しい声で答えてくれた。
「べ、別任務って何さ⁉」
「マーズだ…。マーズの親が圧力をかけてきやがったんだと思う。あいつら自分たちが脱出するために、騎士団のほとんどを、自分たちの護衛につけやがった」
私は信じられない思いだった。仮にも国家権力である騎士団が。市民を守るための筈の存在が。たった一人の男の命令に従い、その存在意義を放り出した事が。
次に自分たちを守るためにここまで汚い事をやるマーズたちに。
そして、それによる今のこの危機的状況が。
怒りよりも絶望感と虚しさが全身に圧し掛かった。
「そんな…。まだ、…避難も完了していないのに自分たちだけ…」
続きは言葉にならなかった。私は座り込み唇をかみしめ俯き、惨めな気分をひたすら味わう事しか出来なかった。
しかし、彼女は違った。
プロミネンスさんは両手を握り締めると、苦しそうな顔でゆっくりと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと何を…⁉」
「ベガ教官と私を含めた他数人は命令に背いて、やつらと戦ったんだけど。ごめんな…。ここまで侵入を許しちまった・・・。でも、大丈夫。何とかするから」
プロミネンスさんはそう言って白い歯を見せ笑った。
自分が一番苦しいはずの彼女が、それでも笑顔で安心づけようとしているのだ。
エース・オブ・エースの彼女がここまで追い詰められても、決して弱音を吐かなかった。
私はそんな彼女を止めたくて必死に彼女にしがみついた。
「だ、ダメ!絶対ダメ!このままじゃあ死んじゃうよ!」
「覚悟の上さ…」
彼女は私を振り払って、ムカデ魔物に向かっていった。
しかし、ムカデ魔物は彼女を弾き飛ばし、私に向かってきた。
逃げる暇もなく私はムカデ魔物に捕まった。
凶悪な牙で腹を咥えらえ、痛いと思った瞬間。
すぐに地面がかなり遠くなった。
ムカデ魔物に咥えられて、上空まで連れ去られたのだ。
何が起きたのか本能的に理解し、私は恐怖の叫び声を上げた。
ただひたすらに魔物に振り回され、咥えられる痛みに叫び、私は泣いた。
あまりにも四方八方に動き回るせいで上下左右の方向が分からなくなる。
流した涙でさえすぐに飛び散ってしまう。
その中で私はどこかひどく冷静に直感した。
(死ぬ。本当に死ぬ。死んでしまう)
私は完全に恐怖に負け、頭が真っ白になってしまった。
そして、自らの決意が瓦解した事にさえ、気づかなかった。
「ドラ…グ―ン!」
恐怖とパニックにより裏返った声で、隠し通すと決めたその名を呼んでしまった。
落雷のような衝撃が全身に走り、ムカデ魔物が驚いて私を離す。重力により落下していく自分。
落下中でも自らはどんどん変化していく。
服と靴がはじけ飛び、肉体は強固な物へと、緑の鱗が現れ、全身を覆い、手足の爪が長く凶悪に、体毛は消失し頭は二本の角が生え、トカゲのような顔つきへと。
地面に落ちる時には、完全に変身を終え、二本の太くなった脚で着地した。
着地の衝撃で地面が割れた。
頭が朦朧とする。何が起きたのか自分でも理解しきれていない所がある。
だが、一つだけ確かな事がある。
(あぁ、やってしまった。パニックになってつい叫んでしまった)
落ち込みたいのに身体は勝手に動く。
魔物の気配を瞬時に感じ取ると、振り向くとさっきまで自分を食らおうとしていたムカデ魔物を睨みつける。
ムカデ魔物は驚いたように身体を跳ね上げさせると一目散に逃げ出していく。
(身体が言う事をきかない。勝手に動いてしまう。クソぉ。さっきまで機能しなかった自動反撃機能がここに来て発動するなんて)
憤慨したい気分だが、今はそれどころじゃない。
とりあえず、まずは状況確認。周りに人はいない。よし自分の姿は見られていない。
そしたらその次。
(プロミネンスさんの所にいかないと…。あぁ、でも行ったら魔物扱いされるかなぁ…。でも考えている場合じゃない!彼女も危ないんだ、いかないと!)
私はすぐさま走り出した。
体感としては時速100キロだろうか。これほどのスピードでも思考は至って冷静。身体を完全にコントロールしている。
どれだけ速くても、周りの景色を完全に把握できているのだ。今の所、誰も私を見ていない。
あのムカデ魔物は私をかなり遠くまで連れ出したらしいが、すぐに元の所に戻ってこれた。
プロミネンスさんは建物のすぐ横で倒れている。きっと弾き飛ばされた直後に壁に激突してそのまま意識を失ったのだろう。
その彼女に魔物たちが獲物を狙う目をして群がってくる。
「プロミネンスさん!」
私は、駆け出し勢いそのままに魔物の群れにぶつかった。
魔物たちは私の姿を見ると、すぐにどこかに行ってしまった。
「私の中にある龍の力を恐れているのか」
そう言えば、あの迷い森でも上級魔物が沢山いたのに襲ってくる気配がなかった。私が上手く避けていたのもあるが、特級魔物の力に恐れをなしたのだろうか。
あの魔物にぶつかる際もあまり怖くなかったように感じる。
いかん、魔物研究者としてつい、色々考えてしまいそうになる。
まずは目先の事だ。
とりあえず、プロミネンスさんの様子を見る。
頭から血を流しており、目も閉じている。
怪我人を目の当たりにして、緊張する。でも助けなくては。
「すぐに治療するから!頑張って!応急処置魔術!」
手のひらを彼女の上に翳すと、緑色の魔法陣が現れ光が降り注いでいく。
血が止まり、傷が塞がっていく。
「よ、よかった。後は他の誰かに知らせる事が出来たら…」
とりあえず上手くいって安心したが、この後はどうするべきか。このまま、彼女を連れて避難区域に向かえば、魔物として攻撃をうけてしまう。一度変身したら解除するにはしばらく待たなければいけないし。
でもここでのんびりもしていられない。
私が少し考えこんでいると、彼女の瞼が動き、そしてゆっくりと開いた。
「あっ…!ヤバイ!」
思わず驚き声が出てしまった。
彼女は私をじっと見つめている。
その瞳から感情を推し量ることが出来ない。
とにかく、ここを離れなくては。そう思い立ち上がろうとする。
「お前…」
彼女は弱々しい声ながらも、確かに自分を呼んだ。
「お前が、…助けてくれ、たのか?魔物か?な訳ないよな。魔物が人を助けるわけないし。人の言葉は話さないよな。…よく分からないけれどありがとう」
プロミネンスさんは痛みを堪え笑顔を作り、礼を述べた。
きっと彼女は疲れと痛みにより、冷静な判断力を失っているのだろう。頭から血も出ていたし、きっとぶつけてしまってそのショックで混乱しているに違いない。
何故なら今の私は人外の存在。化け物だ。
そんな私に礼を述べるなんて、いくら何でも常識的じゃない。
きっと混乱しているだけなのだ。
だが、それならば好都合。
彼女に驚かれたり、危害が与えられることなく避難場所まで運べる。
人のいる所まで運んで、後は下ろせばよい。大声を出せば誰か気づいて回収にくるだろう。
私はそっと離れて、変身が解いたら避難すればよい。
そこまで考えて、私は彼女に顔を近づけた。
「わた…俺の事は詮索しないでください。貴方を助けたいだけなんです。難しいでしょうが信じて下さい」
彼女は素早く頷いた。とりあえず上手くいきそうだ。
「よし。近くの避難場所まで案内します。さぁ、つかまって」
私が手を差し出そうとすれば、彼女も手を近づけてくる。
「やれやれ。せっかくのパーティーを邪魔しやがって」
後ろから謎の声が聞こえた。
その声と共に、私の手は彼女に触れることなく、何かに凄い勢いで蹴られ横に飛んだ。
「うっ、がっ!あっ!」
何回か地面に身体を打ち付け飛んでいく姿は、はたから見たら水切り石に見えただろう。
地面を転がりようやく停止した。
身体は痛くない。軽く眩暈がするだけ。
「空を飛んできてみれば、魔物がおかしな動きして気になったんだが、何だ?お前?」
黒いパワードスーツを身に着けた者がゆっくりとやってくる。
さっき後ろから聞こえた謎の声はあいつだ。声はエフェクトがかかっており、男性か女性か分からない。
「魔物?それとも人間?それは何かの外皮か?」
黒いパワードスーツを身に着けた者は、苛立ちを隠さず指さして聞いてくる。
パワードスーツ全体が悪魔じみた刺々しいデザインをしているので威圧感を感じる。
「まぁ、何でも良いや。どうせお前も死ぬんだし。それよりもせっかくのパーティーを邪魔してくれたんだ。たっぷり楽しんでもらうぜ、今夜は」
パワードスーツを着た何者かは狂気じみた感じで笑っていた。
それが心底恐ろしかった。
一体何者だ。目的は。この騒動の首謀者。それとも単に火事場泥棒的な奴か。疑問は湧き出てくるはずなのに、それに蓋をされたかのようだ。
怖い。こいつは何かとてつもなく危ない雰囲気を感じる。
直感が訴えている。こいつは関わってはいけない相手だと。
背筋が凍り、身体が震えだす。目をそらして逃げてしまいたいのに、身体が恐怖で凍り付いて動けない。
それに気づいたあいつは、どこか楽しそうに肩を揺らした。
「震えているな?怖いのか、なるほどなるほど。これで一つ分かったぞ。お前は臆病者だな、そして人間だ。そんな感じがする。警戒する必要はなさそう…だな!」
そいつは言葉を切ると同時にこちらにつっこんできた。
自動反撃機能が働き、両手の平を前に突き出し相手を受け止める。
勢いを殺しきれず、少しずり下がってしまう。
(か、かなりのパワーだ。押し負けている…!)
相手は、カギづめを抱きつくように私の背中に突き立ててきた。爪は私の身体を少し引き裂いた。
「いっぐ…!」
猛烈な痛みが走り、声にならず苦悶の表情で悶えるしか出来ない。爪には魔力を通してあるのだろう。私の鋼鉄より硬い皮膚を簡単に切り裂いてしまう。
私の身体に爪を突き立てている当の本人は愉快そうに、こちらを見上げている。
その見上げる仮面はまるで、悪魔が嗤っているようなデザインをしており、かなり不気味だ。
見るだけで気持ちが萎縮していく。
悪魔は私に顔を近づけ、薄気味悪い声で囁いてくる。
「ククク…怖いか?そうか、恐れているんだな?この僕を。いいぞ、もっと怖がれ苦しみ悶えて、そして…死ね」
その声と共に脚に力が入らなくなった。身体が宙に浮いているのだ。
悪魔の方を見ると、背中に蝙蝠のような翼が広がっている。
こいつは私を空高くまで、私と共に飛んでいるのだ。
「うわわっああ!た、助けてくれぇ!」
私は情けない声を上げて暴れるが、その度に爪が食い込みむしろどんどん逃げられなくなっていく。
「そんなに暴れるなよ。まだまだ夜は長いぜ?長く楽しもうじゃないか」
そう言って奴は壊れたように笑った。その笑い方と声は僕と同じ人外の化け物なんじゃないか。そう思わせるくらいの迫力があった。
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