第7話 開発ぅうううううううううううううううううううう!!

  国に帰ってきてから、色々とあった。

 まずは私について。私は国に帰ってきてから、とりあえず病院で異常がないか検査を受け、それが終わったらあの森で何があったか事情聴取を受けた。

 身体検査は驚くことに、何の異常もなかった。下手をすれば龍の力がバレるかと思いきや、何ともなかったのだ。


 面倒だったのは、事情聴取の方だ。迷い森は危険だし、その事を話さなくてはならない。しかし、どのように話してもらえば良いか。話したとしても、何故迷い森について詳しいのか。そして迷い森について話すには、龍との出来事についても語らねばならない。


 私は随分と迷ったが、まず龍の事は伏せて、とりあえず迷い森について述べる事にした。と言っても全てを話しても怪しまれるので、嘘を交えて話す事にした。

 まず、迷い森には協力な個体の魔物が沢山いる事。これはすぐ信用してもらえた。

 エビル・カーンも見つかっているし、これは問題ない。


 次に迷い森で人の死体があり、それが木に飲まれるようになっていた事、自分も迷い森の木々に食われそうになった事を話した。


 これは嘘と一部本当。木々が実際蠢いていた事は本当だし。あの迷い森は人を食うのだ。しかし、私は食われてないし、死体も見ていない。

 さすがにこれを話した時には首を傾げられてしまったが、もしかしたらあの迷い森は木、もしくは森全体が魔物で擬態をしているのかもしれません、と話したら、とりあえずそこら辺含めて調査すると言われた。


 まぁ、全て信用してもらえるとは思わないし、私もリスクを冒してまで、全てを話そうとは思えない。

 私は臆病な人間なのだ。

 だが、なんにせよあの森に調査が必要なのは事実。そこで何が起きたとしても、私にはどうにもできない。

 

 だが、調査で死ぬことはないだろう。エビル・カーンの発見された森にいくのだ。迷い森には精鋭の騎士たちが調査に赴く事になる。だから、大丈夫と思いたい。

 事情聴取が終わると、私はあの事件関連のニュースを調べた。迷い森について、どのくらいの事が知れているかを見ておきたかった。


 だが、情報を調べていると不自然な流れを感じた。新聞、テレビ、ラジオ。どれを見ても、あの時エビル・カーンに襲われ、すぐに逃げ出した事を英断と報じている。全体的には、7、8割というところだ。


 あの時、ルナと私が落ちた事も報じられてはいたが、素早い脱出により、多くの命が守られたという感じだ。犠牲になった二人に関しては仕方がないと。

 マーズの父親辺りが何かをしただろうか。よく分からない。情報の自由がきくSNSでは、まだルナや私の事を心配する声が挙げられており、情報の歪みに、察知する人間もいた。


 しかし、やはりそれだけだった。


 色々終わって学園に戻る頃にはすっかり疲れてしまった。

 久しぶりに家に帰ってみたら、ぷにるは勝手に袋を開けて、ご飯を食べていた。おまけに、私の収集物の管理までやってくれていた。

 随分と利口なペットだ。今度、高級なおやつを買ってあげよう。


 家のベットで寝ていると様々な事を思い出す。まるで映画のような時間だった。

 魔物に襲われ友を見捨て、森に落ちたら龍と出会い力をもらい、そして人外となった。


 本当に自分が体験した事と思えない。

 そして、何より一番記憶に残っているのは、ルナの事だ。まだ生きているかどうかは分からない。生きていてほしい。でも生きていたらどんな顔でルナと会えばよい。どうすれば彼に許しを得る事が出来るだろう。


 「デイリー、モイジー、マイピー、私はどうすれば良いだろう?」


 ベッドで寝転がりながら、すくすくキノコに話しかけても彼らは答えてくれない。


 「やぁ、クルスト。私は失敗してしまったよ。メッセージを送ってもルナはまだ見てないみたいなんだ。もしメッセージを見たとして、また会えたとして、私は許してもらえるかな。無理かな」


 食人植物のクルストは大きな口のような花弁を、開かせるだけ。彼は魔物だ。人間の事情など知った事ではない。


「ルリーポ、マルダ、メンべ、スイミン、ラーメン、チャーハン…。どうしたら良いか、誰か教えてくれ。誰でも良いから」


 鬼蜂に泣きついても彼らはブンブンと飛ぶだけ。ここにいる誰もが私の力にはなりえない。当たり前だ。

 私は彼らの事を友人のように扱っているが、それは所詮私の一方通行な想い。


 でも、何故こんな事をするか。それは単純に寂しいからだ。

 天涯孤独の身で、親は早くに死に。友もルナ以外はいない。

 コミュ症で内気な私は人との関係づくりが苦手だった。


 つまりどこにも頼るアテがないのだ。

 孤独。その一言を認めたくなくて、収集品の魔物たちを友人扱いする始末だ。

 以前まではそれでもよかった。不満はなかった。

 けれど唯一の友人を失いかけて、今孤独というのを実感している。

 

 私以外誰もいないこの部屋の静かさに押しつぶされそうになる。

 自分のなしたことに、責任をとりたい。でもどうすればよいか分からず、私は頭を抱えた。

 苦しかった。逃れられぬ自責の念の、呪縛のような苦しみに飲まれながら私は眠った。


 朝起きて、ぷにるにご飯をあげながら、机に置かれている小さな箱のスイッチを押す。

 箱から煙が噴出し、煙の中に映像が投影される。


 いつも見る朝のニュース。しかしやはり違和感がある。


 『当時、43名中、41名を逃がす事に成功した騎士団学園の教員に話しを伺う事が出来ました。実際、あの時どのような状況だったのでしょうか』


 声色が明らかに高く、表情も緩んでいる。

 お気に入りのキャスターの顔が今は不快に感じ、私はスイッチを押してテレビを切った。


 「最近、どこもこんな感じだ。ルナの事なんて、犠牲者ぐらいにしか報じてない」


 今日はいつもの調子もなく、ルームメイトである収集物には挨拶出来ず、朝の身支度を終えて、家を出た。

 教室に到着すると、いつも以上にざわめいた空気を感じる。

 今日は、先日の事も踏まえて振り返りを行うため、魔物研究班、魔道具班合同の授業だ。

 

 故に、マーズと手下二人もいる。豊満な腹を震わせてマーズは大声で下品に嗤っていた。どうせマーズはいつものバカ話だろう。

 この男は、ルナを置いて逃げるように教師に命令した張本人だ。

 

 (マーズ、こいつがいなければルナは大丈夫だったかもしれない。いや、責任は私にもある)

 

 私は朝の挨拶もせず入室した。

 私が教室に入っても、特段誰も話しかけてこない。いつもの事だが、今日の所は気が楽だ。


 龍の事もあるし、気軽には話せない。

 席に座ると、教員が入ってきた。先日、この教員は取材を受けたばかりだ。

 

 (一体どういう気持ちで何を話したんだか)


 私は嫌悪の感情を視線に込めたが、教員はそれに気づかず話始めた。


 「みなさん、おはようございます。まずお伝えする事が二つあります。まずあの時、魔物に襲われたルナ君ですが、無事でした」


 教室が大きな波のごとくざわめく。

 私も一気に汗が噴き出す。

 喜びというより、死刑判決を受けた受刑者のような、恐怖に近い驚きだ。


 「みさなん、静かに。えーとですね、彼は魔物に襲われた時に、運よく森に落ちて無事だったんです。そこを救助されたわけですな。今日から彼も学園に戻ります。まぁ、彼も色々とあったんでね、優しくしてあげて下さい」


 教員がそう言うと、教室の扉が開き、ルナが入ってきた。

 教室が静まる。

 ルナだ。ルナが歩いている。


 本来なら嬉しいはずのそれは、自分がやった罪の証でもある。生きた心地がしない。心臓が針に刺されるような錯覚さえする。


 (あの森に落ちて、無事だったのか…。よく無事でいたものだ。というか本当に何も事が無かったんだろうか?)


 ルナを見ていると、深くうなだれて居る。ルナは、私の隣に座ってきた。

 銃口を突きつけられたように、心臓が跳ね上がる。

 ルナから、まるで生気を感じない。しかし奇妙な事に、威圧感というか他者を寄せ付けない何か、壁のような物それは感じるのだ。


 だが、それがあるからと言って何もしないわけで良いはずがない。


 (私から、何か言わなければ)


 だが口が開かない。

 怯えているのだ私は。彼に話す事が怖くなっている。心の中で話さなければという良心と話したくないという恐怖心がせめぎあい、パンクしそうになっている。

 俯き、膝を見ている事しか出来ない自分に嫌気がさし、固く目をつむる。


 「おい、大丈夫か」


 隣からいつもの声がした。

 横を見ると、ルナが普段通りの理知的な目を私に向けている。


 「え、あ、あぁ」


 思わず間抜けな声が出てしまう。


 「良かった。なんかきつそうな顔していたから」


 ルナは安心したように、目を細める。


 「い、いや君の方こそ」

 

 「僕?あぁ、そんな顔していた?まぁ色々とあったからな」

 

 「あ、あの時はごめ、」


 咄嗟に小さく言葉が出た。けれどそれはルナによって突如伸ばされた手で口を塞がれ、続きが言えなかった。


 「ん?みなまでいうな。分かっているって。僕は大丈夫だから」

 

 ルナはゆっくり手を離し、笑顔を見せた。


 「な?大丈夫だって」


 ルナのその笑顔に、私は重い呪縛から解き放たれたかのような心地がした。

 

 「あ、ありがとう」


 許してくれて。それは言えなかったがルナは満足そうに頷いた。

 教員も、教室のほとんどの人間が安心したような顔つきになっている。みんなも思うところがあったのだろう。

 マーズと手下二名は居心地悪そうにしていたが。


 「先生、待ってもらってすいません。話し始めて下さい」


 ルナが促すと教員はさっそく今日の段取りを話し始めた。

 こうしてルナと一緒に授業を受けていると、いつも通りの日常に戻ったんだと実感した。戻ってきて初めて安心出来た。

 

 私は授業を聞きながら、少し回想にふける。

 実は最近龍の力について、少し試してみた。

 山に行き、誰も見ていない事を確かめて色々と調べてみた。

 龍人に変化する前でも高い筋力体力を発揮し、自分よりも大きな岩を片手で持ち上げた。

 魔力についても以前とは比較にならないレベルまで上がっている。


 五感全てが冴えわたり、能力は飛躍的に向上している。

 高い崖も高速で登り、走れば100m2秒。おまけに全然、疲れていない。

 そしてやはりドラグーンと唱えると、龍人へと変化するのだ。龍人の状態では皮膚が鋼鉄のように高くなるだけでなく、上記の能力が更に向上するだけでなく口から熱線も吐ける。


 しかし、龍人化にも弱点は存在する。まず龍人への変身は時間制限が決まっており、大体30分前後で体力を消費すると、より短くなる。ダメージを受けても時間は短くなる。

 

 また変身後は体力が使い果たされた状態になり、次に変身出来るのはまた一日後くらいかかる。能力も人並みまで落ちる。病院の検査を受けても異常がなかったのはそのためだ。


 しかし、弱点はあるとはいえ、危険な能力である事には変わらない。私はこの力を使ったとき、力の大きさに恐怖した。

 この力は誰にも知られてはならないし、使えない。

 この力は封印して使おう。


 知られなければ大丈夫だ。

 きっとうまくやれる。

   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕は今研究室にいる。

 授業が終わった後、こちらに移動してきたのだ。もちろん僕一人っきり。

 優秀な成績を残している僕は、小さいながら自分専用の研究室を使えるのだ。

 研究室全体は、煉瓦と木で組み上げた教室と違って、白を基調としたタイルで作られている。


 この部屋に来て、長く息を吸い込むと戻ってきたんだという実感と、あの日の恐怖が胸の内に広がり、気持ち悪い感情のグラデーションを作り出す。


 その感情に突き動かされるように、僕は乱暴に杖を取り出した。

 物語の世界で魔法使いが使う杖とは違う。それはSFアニメに出てきそうな近未来的なデザインをした機械の杖だ。

 一般的な魔法使いはみんなこれを使う。

 僕が杖に魔力を込めながら空中にかざすと、魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣を杖で操作しながら、前までの出来事を一つ一つ思い出す。


 「帰ってから色々と見てみたが、何だこれは」


 僕は机に置いてある新聞を手に取る。

 そこには見出しで『無事、生還』の文字。もちろんあの魔物事件の時のだ。

 

 「どこのメディアを見ても、僕を置いていった事は仕方のない事。それより僕を置いていった連中が無事で良かったように書かれている…」


 新聞を握り締め、机に叩く。


 「大方マーズの父親の手引きだろうな。上級国民だからって、ここまでやるのかよ。クズが」


 両手を握り締め、溢れる憎しみに歯を食いしばって耐える。


 「おまけに親父のやつ僕が帰ってくるなり、「さっさと作業に戻れ」と言いやがった。一言の心配の言葉もなかった…!もう親父は過去の栄光にとらわれた亡霊だ!」


 脚を踏み鳴らし、毒づく。この部屋は魔術によって防音を施しているのでどれだけ叫ぼうが、聞こえはしない。

 だから、安心して宣誓出来る。


 「そして、ライト。あいつニコニコしやがって。本当に許したとでも思っているのか、バカなやつだ。許す訳ねーよ、あいつも、マーズも、クラスの連中も、教員も、ついでにこんなバカげた事を報じ、それを信じる連中も、僕は許しはしねーよ」


 ライトに明るく話したのは、当然嘘だ。僕の炎のような憎しみは、今鉄よりも固い決意になったのだ。


 「ライト。あいつは特に苦しめて殺してやる。僕を裏切った事を地獄で後悔させてやる」


 僕の声はいつものように響く。

 青く輝く魔法陣に黒い闇が加わる。


 「この国を許さねぇ。全てを許さねぇ。全て、壊してやる。その為には準備が必要だ。さて、どうやったら皆殺しに出来るかな」


 魔法陣を操作し、僕が作ったパワードスーツにアクセスする。

 もう一つ魔法陣が机に現れ、その上に、仮想のパワードスーツが出現する。

 それを弄りながら、再設計を開始する。


 「まずは自分をアップグレードしとくか。こいつは風や雷の激しい所でも救助活動出来るように、頑丈に作られてあるからな。スーツを殺傷用にしておけばかなりの戦力になるだろうな…さて」


 再設計の最中、釣り針のような葛藤が自分の胸の内に引っかかた。


 (これは、人を助けるために作った物。これを改造し、人を殺すためにするという事は、これに込められた想い。ひいては過去の自分を裏切るという事。それを、僕が出来るのか。こいつを改造出来るのか…⁉)


 再びパワードスーツに目を移す。物言わぬ仮想の鎧はただその鋭い目を光らせるのみ。

 僕はそれを見たとき、一瞬手を下ろしかけてしまったが首を横にふって迷いを絶ち、作業を再開した。


 「後には引けないんだ。僕だって」


 浮かび上がる仮想のパワードスーツはパーツが離れ、新しいパーツに換装されていく。丸みを帯びたシルエットは鋭利な刃物のようになり、灰色であった全体は夜のように真っ黒に、本来人を抱きとめるためにあった両腕は、切り裂くためのかぎ爪へと変貌していく。


 更に腕にはナイフや手裏剣、毒ガス。両肩には小型ホーミングミサイルなどなど。

 作りながら、その発想は止まらず形へとなっていく。

 以前の蝙蝠じみたデザインは消え、その形はまるで悪魔のようになった。


 「一通りやり終えたが、まだ足りない…。一応ドローンも作っておくか…。でも、予算がそろそろ厳しいな」


 毎度、制作時には予算が学園から渡されるのだが、作れるものには限界がある。

 だが、国内を転覆させるくらいにはより強い兵器が必要だ。

 しばらく、唸りながら悩んでいると壁に飾ってある魔物の写真にめがついた。

 なんて事はない写真だが、これを見て閃いた。


 「何だ、あるじゃないか。兵器なら」


 ここに来て、久しぶりに高揚感を感じる。


 「魔物を引き寄せる魔道具を開発しよう。たしか、そう。あの横笛があったな」


 魔法陣を操作し、ホログラムの設計図を出現させる。

 

 (この横笛から発生される、魔力周波は魔物に作用し遠ざける。これを逆に利用して引き寄せるようにすれば良い。本当は、先輩が設計した魔物除けの装置を使いたいが、あれは量産化体制が決まっていて、設計図は厳重に管理、保管されている。頑張れば盗めない事はないが、今は事を荒立てたくない)


 魔物除けについては諦めよう。

 一先ずはこっちの制作だ。


 (とりあえず、魔物寄せの笛は制作しておこう。こいつがあれば、僕がどうにかしなくても、勝手に魔物は寄せられ、人間たちを襲うだろう。となると、邪魔なのは二つ。一つはライトの持つ横笛。あれがあったら厄介だ早急に対処しよう。そして二つ目。結界だ)


 窓を見れば、うっすらと青白い柔い光が見える。


 (あの結界が面倒だ。管制室に侵入せねば。ドローンを使ってみるか…。よしよ決まってきたぞ。久しぶりにワクワクするなぁ)


 思わず興奮で口が弧の形に歪む。自分の周りに魔法陣が次々に展開し、僕の頭の中にある設計図をホログラムで書き起こしていく。

 

 「くっはっは…はっはっはっはっはぁ!」


 両手を広げ、大声で笑う。

 もはや自分が別人のように変わってしまったが、それに後悔はない。

 むしろ、とても清々しい気分に浸っている。

 

 

 


 




 




 


 


 

 

 


 


 


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