第12話 デモンズゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

 今、生きているのが不思議に感じる。

 あの日、私はデモンズと名乗る謎の男から攻撃を受けた。

 致し方ない事情でドラグーンとなり、プロミネンスさんを助けていたら奴が現れ私に襲い掛かった。


 奴はとんでもない能力を持つパワードスーツを使い私をいたぶり、殺す寸前まで追い詰めた。

 だが、奴は状況が悪くなったと思ったのか突然逃げた。

 私はしばらくあの場で放心していたが、龍の力に守られていて外傷はほとんどなかったので、とりあえず避難所まで行く事にした。


 その後奴がどうなったかは分からない。とりあえずは騎士団には報告はしておいた。謎の男が暴れまわっていたぐらいしか話せない事が歯がゆかった。

 騎士団も暇ではないから、あまり調査は出来ないだろう。

 

 そしてプロミネンスさん。彼女に関しては治療魔術のおかげで大事に至らずに済んだらしい。彼女で学園に会った際には頭には包帯を巻いていた。

 彼女は「変な奴に助けられた」とだけ言っていた。


 まぁ龍人に助けられたとは言えないから、変な奴呼ばわりは良いんだけど。

 頼むプロミネンスさん。それ以上詮索するのはやめてくれ。少し気になっている様子だが、私がドラグーンとバレるのはまずい。


 幸いにも私がドラグーンだと彼女にはバレていない。

 とりあえず、パーティーはどうするか聞いてみたが、あまり酷い状態でもないそうなのでパーティーを見るだけなら大丈夫だそうだ。

 本当によかった。彼女の怪我が治って。


 それから、驚いたのは、家から横笛が盗まれていたことだ。鍵付きの棚から盗まれており、それ以外取られていない。警察には被害届は出したけど、何で横笛が盗まれたか分からない。


 そしてあれから、しばらくして回りで急激な変化が二つおきた。

 一つはマーズが学校でかなり弱い立場になった事だ。


 マーズが父親と共に逃げ出し、あまつさえ護衛に騎士団をつけた事がバレ、他の政治家や、関係者から縁を切られたらしく仕事が出来なくなった。

 その他にも、家がボヤ騒ぎがあったそうだ。原因は放火。犯人は今回の騒動でマーズたちを恨んでいる人間だろう。


 貯金があるから貧乏になったわけではないけれど、それでも社会的影響力のなくなったマーズには、最早周りをひれ伏せさせる力はない。

 という事はつまり、マーズに怯えていた連中が一気にマーズに報復しているのだ。


 今も私の目の前をマーズが手に余る程のプリントを持って、フラフラと廊下を歩いている。


 (前は、絶対に先生たちは手伝わせなかったのに…。先生まで手の平返しするなんて)


 周囲はマーズを見ると白い眼を向けるかせせら笑うか、ひそひそと何か言いあうかのどちらかだ。


 自業自得だが、不憫な思いをしているだろう。

 見ると太っちょ顔は痩せこけ、制服はかなり汚れている。誰かからの嫌がらせか、それとも洗う事も出来ないぐらい疲れ切っているのか分からない。

 すれ違いざまに、誰かが脚をかけた。マーズが派手に転び、プリントが散乱する。


 「おいおい、何やってんだよ~」


 誰かが冷やかしをかけると、マーズはその方向をギロリと睨んだ。


 「ひぃっ」


 冷やかした奴らは怯えた声を出す。彼らは元はマーズの手下だった奴らだ。

 あんなペコペコしていた奴らも裏切るのかと同時に、こんな状況になっても怯まないマーズの胆力に驚いた。


 マーズはそれ以上何をするでもなく、散らばったプリントを集めてまた歩いて行った。


 (すごいな、あいつは。こんな状況になってまで強がって…。それにしても私刑が横行するなんて、嘆かわしい。私もあいつにはひどい目に合わされてきた。ルナだってそうだ。だから気持ちも分かる。でもだからと言って、誰かを勝手に裁く権利なんてないだろう)


 私は苦しくなって、その場から離れた。

 

 さて、次に変化が起きたのは学園の様子だ。

 辺りを見回すと、皆まるで熱に浮かされているように話している。


 「ねぇ、あの龍人ってやっぱ騎士団の誰かって噂本当?」

 「えぇ~嘘。私は、騎士団の兵器だって聞いたよ」


 「龍男の正体は何かについて、ニュースの特集あったよな?」

 「見た見たそれ!でもつまんなかったよな。都市伝説ぽかったし」


 「正体は、特級魔物だろう?絶対そうだって!」

 「違うだろう!姿はトカゲぽっかたけどさぁ。なんか、人間の言葉喋っていたって聞いたぜ」


 皆、私の噂で持ち切りなのだ。正確には私が変身したドラグーンの話だが。

 

 (参った事になった、どうしよう)


 頭を抱えたい気持ちを必死で抑えた。

 私が戦った姿がネットに流出したのだ。誰が写真を撮ったかなんて分からない。


 (うぅ、でも仕方ない事だ。龍の力を渡されたあの日からこうなる事は、分かっていたんだ。覚悟の上だろう、私!)


 とはいえ、不安は不安だ。

 そうこうしている間に、今日はダンスパーティー当日。授業はどの班でもない。大体はダンスパーティーの準備か暇を持て余している。

 

 まだあの黒い奴の事も解決していないけれど、


 不安は私の中で日に日に大きくなっていった。もしもまたあの黒い奴が現れたら?次も戦うのか?周りは私の事をほっとかないだろう。もし、テレビや騎士団にドラグーンが私である事がバレたら、どうなるか知れたもんじゃない。


 (このままじゃ、不安でパーティーなんてやれないよ…。いや、それどころかこのままの事態だといずれ、バレるかも。そうだ、ルナに相談しよう。あいつならきっと分かってくれる)

 

 頼る親もいない私は、心強い友人に頼む事にした。秘密を話す事は不安だが、もう心が限界だった。

 しかし気がかりはある。


 (私はあいつにひどい事をしてしまったからな、力になってくれるだろうか。許すと言ってくれたけど、やっぱり怒っているんじゃないか。でも、このままでも良いわけないよな…。あいつに謝って。それで大丈夫なら、少しだけ話してみよう)


 私は心に決め、ルナに『話したい事がある。今大丈夫か?』とメールを送った。

 すぐに『あぁ。研究室にきてくれ』と返信がきた。


 緊張する。でも言わなければいけない。

 私は、研究室に移動した。


 いざ、扉の前に立つと頭が真っ白になる。何から話せばよいか分からない。

 扉を開こうと手を出し、やはり緊張して引っ込めるを繰り返し、何度か深呼吸をしていると「お~い」扉の向こう側から、声がかかった。


 扉が自動で開いた。

 顔だけ出して、覗いてみるとルナが長椅子に座っていた。


 「お茶を入れた所だ。まぁ座れよ」


 嗅いでみると、確かに茶葉のよい香りがする。香に誘われるように私は入室した。

 

 ルナと向き合う形で私も長椅子に座る。汗がじっとりと背中ににじむ。

 ルナの方は指で空中に円を描くように回している。彼がそうしていると、空中からティーポッドとカップ。そして可愛らしい焼き菓子が現れた。

 珍しい魔術だ。


 「良い茶葉を手に入れたんだ。お前が改まって相談なんて珍しいからな。まぁリラックスできる効能の奴を入れといたから。安心して飲めよ」

 

 「相変わらず君は気がきくな」


 いつもの調子で和やかに話す友人に、私は安堵のため息をもらす。

 カップにお茶が注がれ、ルナが手渡してくる。私は礼を言って受け取ると一口飲む。

 飲んでみると、気持ちが自然と和らぐのを感じる。

 

 「美味しいな。これは」


 私が言うとルナは満足げに頷き、そして真剣な眼差しを向けてきた。


 「で、話ってなんだ?」


 「あぁ、でも、その前に謝らなきゃいけないことが…」

 

 私が切り出そうとすると、ルナが片手を出し拒んだ。


 「あの時の事か?もう良いって。それは。蒸し返しても面白くないからさ」


 「で、でもそれだと、私は…」

 

 私が再度頭を下げようとしてもルナは、私の両肩を掴んで拒んだ。


 「もうやめようって言っているだろう。あの時は、あんな状態なら仕方ないさ」


 ルナはそう言うと柔らかな笑みになった。


 「それよか、お前の相談事だ。話しって何だ?」


 私はどこか安心した。許してくれたことにだ。許し、私の罪が軽くなったような気がした自分を胸の内で戒め、私はルナと向き合った。


 (ルナは、こんな私と話そうとしてくれている。何て良い奴だろう。彼の優しさに応えたい)

 「…実は、最近の事なんだけど」


 決心した私は、思っているよりも多くの事を話した。

 受け止めようとしてくれた彼の優しさに甘えた結果か、もしくは自分の中で抱えきれないぐらい大きくなった問題だったからか、それは分からない。けれど話し始めると、止まらなくなった。


 おしゃべりな所は私の悪癖だが、今回ばかりは気にしなかった。


 たくさんたくさん、話した。

 私の話したかった所以外まで詳細に。


 迷い森での出来事。龍の力。それを受け取り最初は隠そうとした事。けれど、魔物に襲われ、パニックになってしまい使ってしまった事。そして、あの黒い悪魔に狙われた事まで。


 話すぎて喉が渇き、私は何度もお茶をお替りした。


 ルナは私の話の最中いくつか質問こそしたが、話をすり変えたり変に説教せず、最後まで聞いてくれた。


 話が終わるとルナは深く唸り、そして長くため息をついた。


 「まさか、特級魔物、それも龍と出会って力を受け取ったとは…」


 さすがのルナでもすぐに信じれんかったかと思い、不安に思うがルナは自分の顎を撫で、注意深く私を凝視した。


 「まぁ、嘘をつくとは思えんし…本当なんだろう?それは辛かったろうな」


 ルナは同情するように、目を細めた。


 私は心底嬉しかった。


 (一人でも理解者がいてくれるのが、こんなに嬉しいなんて…!)


 「ずっと怖かった!本当はずっと怖かったんだ!力を受け取って身体が変わったのが怖かった!試合の時、勝手に身体が動いて怖かった!自分が自分じゃないような気がして!あいつと戦って怖かった!人生で初めて殺されると思って!怖かったんだ!」


 水が湧きだす如く心の中で、ずっと言いたかった言葉が次々と口に出た。


 私は頭を下げ、安堵と喜び、それに伴う脱力感に必死にこらえた。涙まで浮かんできて、それを見られないよう目を袖で覆い隠した。


 ずっと誰かに聞いてほしかった。この不安と恐怖で押しつぶされそうな気持ちを。

 それを聞き、理解してくれた。その事が私には奇跡のように輝いているように思えた。


 私が俯いている最中、ルナは何も言わなかったけれど、逆にそれがありがたかった。


 しばらくそうしていると、気持ちがだいぶ安らいできた。

 気持ちが落ち着くと頭も冷静になり、いつまでもこうして俯いているのは、恥ずかしい気がしてくる。

 とりあえず、ルナには謝らなければ。


 「ごめんな。今まで隠していて」


 ルナの顔は伺い知れないが、今顔を見た状態では謝りづらかった。


 「大丈夫だよ」


 彼の穏やかな声が聞こえ、私は安堵の笑みを浮かべ、頭を上げた。


 「だって、全部知っているから」


 そこにはデモンズがいた。


 その姿を認知すると同時に私は視界一杯に青い光が包んだ。


 身体が痛い。音が遠い。どうなっているのか、分からない。


 「ライト?」


 あぁルナの声が聞こえてくる。おい、逃げろデモンズが現れたぞ。


 「ライト」


 優しい友人は私を起こそうと声を上げているようだ。私に構うな逃げろ。


 「ライト!」


 直後、至近距離からデモンズと目があった。


 青く怪しく光るアイレンズに龍人の姿が映っている。

 反射的に変身したようだ。


 「この距離から、ぶっとばしても死なねぇとは驚いたな。まぁ、すぐ死んでもつまんないか」


 デモンズは私の肩角を掴み、私の身体を持ち上げている。


 (変だ。おかしい。ルナの声が、デモンズから聞こえてくる)


 デモンズが私を引っ張り上げると、段々様子が分かってきた。私はデモンズから光線を浴びせられ、吹っ飛び壁にめりこんだようだ。


 壁から引っ張られると、ガラガラと壁が崩れていく。


 「安心しろよ。ここには僕とお前の二人だけだ。部屋全体に魔術をかけておいたから、外に音漏れはしない」


 デモンズが高らかに笑った。間違いないルナの声だ。でも、どうして、痛みでしびれる身体に鞭を打ち、何とかつかんだ手を振り払おうとする。


 「離せ!ルナは…どこにいる⁉」


 デモンズは気を悪くしたように、首を傾げた。


 「察しが悪いやつだなぁ。僕がルナなんだってぇの!」


 デモンズは僕の腹を強く殴った。乾いた音が強く響いた。

 胃液がせりあがり、吐き出す。


 よく見たら、確かにルナの作ったパワードスーツだ。けれどほぼ姿が変わっている。細身なフォルムで流線型だった前と違い、全体的にとげとげしいデザインをしている。

 言われたら、確かに似ている。というぐらいだ。


 (でも、それでもありえない。ルナがこんな事するなんて)


 デモンズが更に腹に蹴りを入れてきた。

 痛みで視界がぐらつき、確かにこれは現実なのだと思い知らされる。


 「そうか、分かったルナ。操られているのか?なぁそうなんだろう?」


 私がルナの両肩を掴んで、そのアイレンズからルナのあの理知的な瞳を探そうとする。

 

 「はぁ?良い加減にしろよ、お前」


 しかし、アイレンズは強く鮮烈な光を瞬かせるだけだった。

 ルナが、私を真上に投げ飛ばした。


 天井に身体がめりこみ、そして落下する。

 ルナの手前まで落ちてくると、ルナは尻尾で私を叩き落とした。


 身体が地面にめりこみ、視界が地面で一杯になる。


 (反応…出来ない。よけれない。どうして⁉)

 

 頭に重みを感じる。ルナが私を踏みつけぐりぐりと体重をかけているのが分かる。

 

 「お前さ、許されたと思った?本気で?」


 頭上からルナの声が聞こえてくる。その表情は伺いしる事は出来ないが、その言葉は、あのルナとは思えないほど冷徹な響きを内包していた。


 「許す訳ないだろう?僕はお前を、お前たちを一生許さないって決めたんだ。あの時、僕を置いて逃げたあの時!あの時からずっと!いやそれより前!展示会が誰も僕の味方をしなかったあの時!お前さえ僕を庇わなかったあの瞬間!」


 ルナが頭を掴んで持ち上げ、彼と目があってしまう。


 「僕は、許さないと決めたんだ!」


 再び頭を地面に叩きつけられる。

 地面にぶつけられた衝撃で頭が揺れる。

 私は頭を持ち上げ、彼を見上げる。私を見下ろす彼からは、溢れんばかりの怒りが伝わってきた。


 「ご、ごめ」


 再び持ち上げられ今度は顔面を殴られる。

 

 「そんな物で許されると思うなよ」


 ルナの低い声が私を貫いた。


 (私は…私はなんと大馬鹿なんだろう)


 今更ながらに自分の間抜けさを嘆く。


 (許されたと…心のどこかで勘違いして、もう取返しがつかないくらい、に)


 怒りはなかった。それよりも悲しかった。友人をこんな風にしてしまった。憎悪の念に取りつかせたのは全て自分の責任だ。


 (あの時、逃げずに、私一人でも味方していたら、あの時逃げずに助けていれば…ルナをデモンズになんかさせる事なかったのに)


 涙が頬を流れた。


 今更どんなに後悔しても遅い。懺悔に意味はない。それを分かっていても自責の念は止まらない。

 現状は変わらない。

 ただ絶望だけが変わらずにそこにある。


 ルナに投げ捨てられ、私は地面に身体を打ち付けた。

 ぼろ雑巾のように扱われても身体は動かない。


 「身体、動かないだろう?お茶に薬を入れておいたんだ。即効性の強い奴。だが中々倒れない物だからヒヤヒヤしたよ。それも力のおかげかな?」


 ルナがゆっくり近づいてくる。

 私が後ずさりして逃げようとするが、やはり身体は上手く動かず、そのままルナに蹴られ転がる。


 ルナはそんな私を見て、どこか嗤うように両手を広げた。


 「芋虫みてぇだな。無様だねぇ」


 私は右こぶしを固く握った。


 (このまま、このままにしてはおけない。ルナを、ルナを止めなきゃ。これ以上罪を重ねさせたくない)


 焦った私は右こぶしにありったけ魔力をかき集めた。龍の力のおかげで魔力も底上げされている。これを全力でぶつければ、或いはルナを止めれるかもしれない。


 (ごめん、ルナ。少しだけ我慢してくれ)


 地面に付しながら、私は機会を伺った。ルナがまたゆっくりこちらに近づいてくる。


 「ん?気絶したか?」


 ルナが顔を近づけてきたその瞬間。

 私は飛び上がり、右こぶしをルナの顔面に殴りつけた。


 しかし、ルナは身じろぎもしなかった。

 代わりに私の右こぶしから血が吹いた。


 痛い。痛みのあまり絶叫し、部屋に叫び声がこだまする。

 龍の力で単純に強化されているはずの、硬い鱗を持つ右腕はあっさり負けた。その事実が信じられなくて、痛む右こぶしを押さえ私はルナの顔を見る。


 ルナの眼前に、盾の形をした魔法陣が浮かんでいた。


 「防御魔術。衝撃反転だよ。驚いたか?僕は魔道具班だからな。魔術制作班にも顔が利くんだ」


 ルナが私と同じように右こぶしを握り締める。


 「魔術をソフトとするなら、魔道具はハード。そして【魔術】とは、さっきお前がやった【魔力を単純に込めるだけ】の【魔法】と違う」


 右こぶしが矢を引くように、引き寄せられる。


 「魔法陣というプログラムに従い、事象を生み出す。それが【魔術】だ。見せてやる。これが魔術だ」


 右こぶしに雷マークが描かれた魔法陣が現れた。魔法陣は青黒い電撃を帯びており、その電撃がこぶしへと伝わったその時。

 私は、死ぬと思った。


 「ライトニング・スマッシュ!」


 技名発生と共に繰り出された拳が私を打ち抜いた。

 

 隕石落下によっておきるクレーター。一瞬それを思い浮かべた。

 

 衝撃が部屋を揺らし、地面は吹っ飛ぶ。衝撃の中心にいた私はなすすべなく、地面を突き進んでいく。


 視界が白い。

 頭が揺れる。

 痛みはない。

 意識が遠のく。


 「おい、ライト」


 揺らぐ意識の中、ルナの声だけははっきりと聞こえる。


 「あ、うぐ…」


 答えようとしても私の口は動かなかった。

 よく分からない。どうなった?一体?


 首をロープのような物で縛られている感覚がある。そのまま首を掴まれたまま私は持ち上げられる。

 ギリギリ軌道は確保されており、呼吸は出来る。


 「すげぇな。龍の力ってやつは。第一級兵器魔術を使っても、大丈夫とは。恐れ入ったよ」


 あの表情の変わりにくい友人が、確かに嗤っているのが分かる。本気で人を傷つけ楽しんでいる。


 揺らいでいた視界がカメラのピントを調整するように、段々と正常に戻ってきた。

 悪魔か蝙蝠を模した黒い兜が目に映る。


 「ルナ、もう、やめてくれ」


 蚊の鳴くような声だ。力が入らないのだ。


 「やめる?嫌だね。これからが面白い所だ」

 

 


 


 


 

 

 

 




 

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