ねぎまのねぎ

甘木 銭

ねぎまのねぎ

「ナオよ。俺は優しい男になろうと思う」

 焼き鳥屋の奥の二人席で、向かいに座る栄斗が宣言した。


「なんで?」

「モテたいから」

 まだほとんど酒は回っていないはずだけど。


 店内は賑やかで、栄斗の声は周りにほとんど聞こえなかったと思われるけれど、なんとなくこちらまで恥ずかしいような気がしてしまう。


「そんな上っ面だけ優しくしても、女の人は騙せないと思うけど」

「まあそうだよなぁ。男は簡単に騙されるのに、女の子ってかなり冷静に男を見てるもんな」


 意外と冷静に考えている。


「たまに思うことがあるんだよ。小学校の高学年くらいから保険の授業を男女別で受けたりしててさ。女子の方は何やってるんだろうなんて気になっててさ。……本当は男の選び方とか習ってたんじゃねえかなぁって!!」

「そんな訳無いから! てか何の話?」


 やっぱり馬鹿だった。

 栄斗とは小学生の頃からの付き合いだが、こういう馬鹿っぽさはずっと変わらない。


 栄斗は水を一気飲みすると、目の前にあった焼き鳥を一本取って、もそもそと食べながら続けた。


「まあ脱線したけどさ。モテたいって思ったのには事情があるんだよ」

「いつも言ってることじゃん」

「いや、今回改めて強くそう思ったんだよ!」


 あまり聞く気にはなれなかったけれど、何も言わせないのもなんだかかわいそうなので、黙ってこちらも目の前の焼き鳥を一本取って食べることにした。

 ねぎまだった。


「昨日合コン行ったって言ったろ? 大学の先輩に誘われて。盛り上げようと頑張ったんだけどさぁ。俺以外の二人はちゃっかり女の子と帰ってったのに、俺だけ見捨てられたんだよ! しかもだぞ? こっち側一人キャンセルで男三女四だったのに、両側の二人が、女子二人ずつ連れてったんだぞ!? とんだピエロだよ!」


 引き立て役にされたのか。

 確かに少しかわいそうだ。


 でも自業自得なんだよなぁ。

 中身小学生だし。


「やっぱ底が浅いとさ、見透かされるんだよ。両側の二人はお眼鏡にかなうけど、間にいる俺は及びじゃねえって嫌われるんだ。ねぎまのねぎみたいに!」

 そう言って栄斗はこちらの手元にある食べかけのねぎまを指さした。


 ねぎま、好きなんだけどなぁ。


「ナオはモテたいとか思わないのかよ?」

「いや別に」

 栄斗は両手に焼き鳥の串を持って、一気に口に放り込んだ。


 ももとかわだった。


「ああ、モテてぇなぁ……」

 グラスに残っていたハイボールを一気に煽り、栄斗は愚痴っぽく吐き出した。


 私を選べばいいのに、とその顔を恨めしく睨みながら思う。


 もう長い付き合いなんだから。

 それとも、長すぎるからだろうか。


 ねぎま野郎はもうこちらになど見向きもせずに机に突っ伏してしまっている。


 私が女として見られるには、まだまだ時間がかかりそうだ。







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