飛ばない飛行機たち
地面には、飛ばない飛行機たちがたくさん並ぶ、ふしぎな光景が広がっていた。
飛行機は空を飛ぶものだが、飛ばない飛行機たちは飛ばないことを選んだ。
なぜなら、飛ばない飛行機たちは本当はうまく飛べないからだ。
どこを直しても、どんなに練習しても、飛行機たちは安定してうまく飛ぶことができない。
不安定なまま飛びつづければ、墜落してしまう危険もある。
飛行機は空を飛ぶものだが、空を飛ぶことは危険でもある。
飛べない飛行機たちは危険を恐れた。
「空を飛ばなくてもいいや」
「飛べないなら、飛べないままでいいや」
やがて飛行機たちは空を飛ぶことを諦め、地面にとどまって過ごすようになった。
飛行機たちが空を飛ばなくなったことで、乗客たちも墜落を心配する必要がなくなった。
年が経つにつれ、ここへ住み着く飛行機や乗客はどんどん増えていった。
右にも飛行機、左にも飛行機、前にも後ろにもたくさんの飛行機がどこまでも地面に並びつづけている。
乗客たちも危険な旅をつづけるより、飛行機が集まる街にとどまった。
飛べると信じて飛べずに落ちかける飛行機を信じるより、飛ばない飛行機とともに地面にとどまって暮らす方が、快適で安全だというのだ。
「旅はできなくなるけど、墜落するよりはずっと良い」
「飛行機が飛ばなくても、映画を観たり眠ったりできるしね」
旅ができないとつまらないと不満を言う者もいた。
しかし乗客たちも年が経つにつれ、ほぼ全員が旅をしない生活に慣れていった。
同じ場所にとどまり、同じ毎日を繰り返すのが当たり前になっていた。
今日も、墜落は起きていない。
良くも悪くも平和で、変化がない一日だ。
飛ばない飛行機は、落ちることも、墜落して壊れることもない。
他のものとぶつかることを恐れて、地面を走ることもない。
自分が壊れて、大切な人やものを失うこともない。
ただ、何年も動かないものは長い時間をかけてゆっくりと錆びついていった。
おわり
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