魔王も必ず救われる
その男は、幼少期には凄惨な虐待の末に捨てられ、少年期には会う人すべてから過激な暴言を浴びせられ、不幸な人生を送っていた。青年期には信じていた唯一の親友に裏切られ、唯一の宝物も奪われた。
すべてからの不幸の暴力に苦しみ放浪する中、水もない砂漠で"真の勇者団"と出会う。
「無価値な自分を殺してくれ」
喉も渇ききった男は勇者団に土下座する。何年も不幸が続き力尽きた男を、勇者団は嘲笑うことも見下すこともせず、親切に介抱する。
その名の通り、真の勇者団は何年も前に悪の魔王と魔物をすべて滅ぼし、世界から魔王の脅威を退けた功績がある。
そこから誰も傷つかない真の平和を実現するため、倒された魔王と魔物の魂も救い、最終的には魔王と魔物も含めたすべての人間が幸せに暮らせる世界を実現するのが真の勇者団の活動目的だった。
勇者団の拠点主である聖人も心穏やかな物腰だった。
「あなたは過去世で、魔王として多くの罪なき人を殺め、多くの人を悲しませた。過去世でそのカルマを消化し切れず、今世に持ち越しているのです」
魔王のカルマはあまりに重く、一人の人間では負荷に耐え切れず死んでしまう。神の愛によって、魔王の魂はいくつにも分裂した。
現在は真の勇者団に倒された魔王について、その残酷な悪行の話をいくつか聞いた男は魔王の行いに強い怒りを覚える。
「こんなことが……絶対に許されてはならない!」
「あなたが今感じるその怒りが、あなたの人生に困難な試練をもたらしているのです。あなたは自ら、人々を傷つけた罰を受けることを願っているのです」
「それはそうですよ。私が過去世で悪いことをしたのだから。私は幸せになることが許されないのですね」
男は自らが幸せになってはいけないと諦めた顔になる。
「いいえ、過去世で人を殺した罪人も、宇宙の終わりまでには必ず幸せになれます。ただし、そのためにはすべての罪を償う必要があり、膨大な時間と困難が伴います」
その男のように重症の場合、善行をただ何回か重ねるだけでは、人々の怒り恨みは簡単に静まることはない。
「今世のあなたも背負う"魔王のカルマ"は、過去世のあなたに対する人々の怒りや憎しみ、負の感情からも生み出されている。ここまで重症になれば、私の下で特殊な治療を受ける必要があります」
現在、魔王をはじめすべての魔物は、真の勇者団に倒され滅びた。ところが、彼らの魂は人間に転生した後も未だ、魔王の罪と人々の怒りからの重いカルマに縛られていた。
そこで魔王のカルマを取り払うため、聖人によって数年以上にも及ぶ治療が開始。治療が始まると、魔王のカルマが魔物のように暴れ出し、数々の重い副作用が男を襲う。頭痛、めまい、吐き気に苦しみ「死にたい」と泣き叫んだこともあった。
そんな時は、あの時砂漠で助けてくれた勇者団のみんなに声をかけてもらった。
「俺たちもそうやって、自分の中の本当の魔王をやっつけ切ったんだ」
「私たちもあなたの償いのために、できる限りのことはする。でも、あなたの償いはあなたにしかできない。あなたにしかできないことがあるから、あなたには最後まで生きる意味がある」
過去世から分裂した魂の持ち主や、魔物の魂の持ち主たちも何人かが新しく加入し、男と同じ治療を受ける。
何日も起き上がれず眠れない辛い日々が続いたが、修行者たちはもう一つの同じ魔王を倒すために、激しい体調不良にも負けなかった。
「みんな、最後まで戦おう。世界の平和のためだけではなく、自分の幸せのために」
本物の魔物のように大暴れする魔王のカルマ。心の中で、それぞれが自分の中の魔王と激しい戦いを繰り広げた。三年以上もの辛い修行の末、魔王のカルマを抑えられるようになり、治療の第一段階は完了。あとは最終段階へ移った。
街を歩いても喧嘩を売られなくなり、寺院からの外出が許可された。真の勇者団に見習いとして加入し、修行者たちは街で人助けをすることになる。
「まだ、魔王のカルマは倒されていない。すべての人が心で許してくれるまで、私たちの戦いは終わらない」
魔王や魔物から生まれ変わった修行者たちは真の勇者として、誰も傷つけないための新たな戦いに赴くのだ。
「誰もが自分の勇者として、自分の中の魔王と日々戦っている。私たちも、他の戦っている人を応援していこう」
おわり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます