母のおとぎ話

「昔、その村に老夫婦が暮らしていた」


 母はそのおとぎ話を娘に聞かせていた。


「ある夜。隣の家から話し声が聞こえてきて、老夫婦は話の内容をすべて盗み聞きしてしまった」


 母が話を続けていた時。家の外へ声が漏れて、近くを歩いていた男はそのおとぎ話をすべて盗み聞きしてしまった。


「次の日の朝。老夫婦は話し声が聞こえた家の噂を他の家に伝えて回った」


 昨夜盗み聞きしたそのおとぎ話を、男は他の家に伝えて回った。


「その噂は瞬く間に村中に広まった」


 男が伝えたそのおとぎ話は、瞬く間に村中に広まった。


「やがて、隣の家にも噂が回ってきた」


 そのおとぎ話を作った女性の家にも、そのおとぎ話が回ってきた。


「隣の家の住民は、その噂は嘘だと言って、老夫婦を訴えた」


 そのおとぎ話を作った女性は、自分の作った話を勝手に広められたと言って、男を訴えた。


「それから、老夫婦は嘘つきとして村中から嫌われるようになった」


 そのおとぎ話を勝手に話した罪で、男は村中から嫌われるようになった。


「おしまい」


 今日も、母はそのおとぎ話を娘に聞かせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る