傷だらけの氷ミイラ

 温かい南の楽園を目指して、旅人は極寒の氷原を歩いていた。

 氷の洞窟を探索していると、人間のミイラを見つけた。


 そのミイラは服を着ておらず、寒さに凍えてしまったのだろう。

 その身体中にはたくさんの傷がつけられていた。

 そのミイラが身につけていた唯一の装備は、折れた剣だけ。


 剣は戦士の持ち物。

 身体中の傷は、大切なものを守るために命懸けで戦った証。


 興味を持った旅人はさらにミイラの身体を調べた。

 背中側や下半身もくまなく調べていたところ、局部に「誰からも必要とされない、哀れな〜」と蔑称が刻印されていた。


 生前、世界のすべての人間から嫌われ憎まれ、時には傷つけられ、孤独な生涯を送ったのだろう。

 誰も味方する者はなく、守るべき物もなかったのだろう。


 そんな孤独な中でも、その戦士は大切な物を守るために、自分の剣が折れてでも戦いつづけたのだ。


 そう思いを馳せた旅人は自分の上着を着せて、そのミイラを優しく抱きしめた。


 そして、そのミイラも南の楽園へ連れて行き、暖かい太陽の下に墓を作ってあげるのだった。



おわり

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