変身シーン千年戦記

 約千年前。すでに"それ"の変身は始まっていた。

 ただ、それは非常にゆっくりで緩やかな変化だった。

 ごく一部の例外を除いて、その変身の事実を知る者はこの惑星にほぼいないといえた。


 今、惑星メガロスターは魔星オカスターの襲撃を受けている。

 今まで、魔星オカスターの支配下に置かれていたメガロスター。長らく奪われた自由と平和を求め、無数の子供たちとともに大きな反乱を起こしたのだ。


 メガロスターは自分の星くずから子供たちを産む。子供たちは惑星を守る戦士として、オカスターの魔獣軍団と戦うが、戦況は悪化の一途をたどる。


 さらにメガロスターでは敵の襲撃だけでなく、十年以上前から問題だった気候変動も年々深刻化していた。


 惑星表面の半分近くを占める大穴とその周辺の地域・大穴聖域。

 ここではメガロスターの人口のほとんどが暮らし、人々を守るために何十人もの戦士たちが魔獣と戦っていた。


 そのうちの一人の戦士、リトルスターはある重要な任務を与えられた。


 近年の気候変動の問題を調査するため、その原因と考えられる惑星最大の火山・ビーム火山へと、リトルスターは派遣されることになったのだ。


 ビーム火山の頂上を目指し、山道を進んでいたリトルスター。

 突然、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 火山のふもとの村が魔獣に襲われていたのだ。


「大変だ、早く助けなくては!」


 リトルスターは急いで村へ向かった。

 人々が逃げ惑う村では、中くらいのドラゴンの魔獣が、家や畑を荒らして暴れ回っていた。

 リトルスターは腰のカバンから、小さな銃を取り出す。


「リトルスター・パワー!」


 リトルスターは呪文を叫ぶ。

 リトルスターの体の奥から大量の光が放たれる。

 次の瞬間、リトルスターは普段の幼い姿から凛々しい戦士の姿に変身した。


 小さな銃も、大砲型の武器・リトルブラスターに変化した。

 リトルスターはこの武器を使い、魔獣相手に何度もビーム攻撃を繰り出す。

 リトルブラスターの放つビームは、ビーム火山の溶岩のように強力なエネルギーを持っていた。


 ビーム攻撃を受けて魔獣が疲弊してくると、リトルスターは自身のエネルギーをリトルブラスターに注ぐ。

 限界まで力が溜まった時、リトルスターはその巨大な砲弾を魔獣に向けて放った。


「リトルスター・ビーム!!」


 エネルギー状の砲弾は魔獣の体に直撃。

 ドラゴン型の魔獣は耐え切れず、その爆風の中へ消えていった。


 あまりの迫力に、避難していた村人たちは、リトルスターが本物の戦士だとわかり、感謝の言葉を述べる。彼らはお礼にご馳走を振る舞った。


 本来ならば今この時期は、ふもとの村は寒くなり、村人たち全員が服を何枚も重ね着する季節だった。



「私は大穴聖域の戦士・リトルスター。ビーム火山とは反対側にある大穴聖域で戦っていました。しかし近年、メガロスターでは気候変動が年々深刻化しており、その原因を調査すべく、私はこのビーム火山の頂上を目指していたのです」


 食事を終えて、リトルスターは自身の名前とビーム火山へ来た理由を村人たちに明かす。


「しかし戦士様、この格好で山頂に行くのは危険すぎます。私なんか、最低限の下着だけ着ているのですが、これでもまだまだ暑いくらいです」

「でも仕方ないよ。あんなにすっごく大きい変身シーンが起きてりゃ、気候変動ぐらい起きて当然だ」


 村人たちは困った顔で冗談を言い合ったり、気候変動の自分たちへの影響を嘆いたりした。


 そこへ村の首長がやってきて、その場の一同に気候変動の詳細を語った。


「メガロスターが滅ぶために、気候変動が起きているのではない。これから起こる厄災に備えているのだ。今からちょうど千年前から……」


 首長が重要な話を始めると思いきや突然、地面が大きく揺れた。


「ひっ、人が話している時に何で噴火が!?」


 普段は戦闘に慣れているはずのリトルスターは、突然の事態に動揺し慌てふためいている。


「もうすぐメガロスターが技を放つぞ! 今すぐ逃げろ!」



 同じ頃。メガロスターの上空では、オカスターの無数の要塞衛星が急接近してきていた。

 大穴聖域にも、魔獣の軍団が一斉に向かっていた。


 ふもとの村の人々は全員が避難した。

 リトルスターと村人たちは、ビーム火山の反対側の大穴聖域を目指す。

 ところがその道中、二体の魔獣が襲いかかって来た。


「みんな、逃げて! ここは私が戦います!」


 リトルスターは村人たちを先に逃し、再び戦士の姿に変身した。


「リトルスター・パワー!」


 リトルブラスターを構え、魔獣たちにビームを放ったり放たれたり、戦闘を繰り広げる。


 何とか二体の魔獣を倒したが、そこへまた別の魔獣が次々と現れる。

 休む間もなく一人で戦い続け、流石のリトルスターも疲弊した時。先程倒した魔獣の親分らしき魔獣・デカオカスが襲いかかってきた。

 その名の通り、デカオカスは体格はもちろん攻撃力もかなり大きい厄介な敵だ。


「戦士はお前一人だけか。それなら、楽して勝てるぞ!」


 デカオカスはリトルスターを見下ろし嘲笑った後、その巨大な拳を力強く振るう。

 岩がぶつかってきたような衝撃波に、リトルスターは後ろへ大きく吹き飛ばされた。


 ただでさえ疲弊していたリトルスター。デカオカスの圧倒的な力に追い討ちをかけられ、ついに変身が解けてしまう。


「それでも、諦めるものか!」


 リトルスターは必死に立ち上がり、再び戦士の姿に変身する。


「リトルスター・パワー!」


 ところが、変身完了すぐにデカオカスに攻撃され、リトルスターはまた変身が解けてしまう。

 それから何度も変身したが、変身が完了するたびにデカオカスの邪魔が入り、何度も変身解除される。


「そんな……そんな卑劣な攻撃をするな!!」


 体は傷つきながらも、リトルスターは屈さず、デカオカスに激しい怒りをあらわにした。

 途端に、デカオカスは腹立たしそうな表情になる。


「お前ら戦士ってさ。本当に真面目にやる気あるんならさぁ、何でいちいち変身がグダグダ、ダラダラと遅いんだよ!? これだから卑劣な攻撃されるんだろ!!」


 自分の行いを棚に上げ、デカオカスはリトルスターたちの変身シーンの長さを罵倒しだした。

 罵声を浴びせる間にも、変身前のリトルスターを巨大な拳で執拗に殴り続けた。

 一方的かつ残酷な暴行を加えた末、デカオカスはリトルスターの小さな銃を力づくで奪い、巨大な拳で叩き潰し鉄屑にした。


「ついに、お前も魔獣に侵される時が来てしまったな。そしていずれは、お前の母親もオカスター様に侵され、未来の最強魔獣を産み育てるための母なる機械となるのだ!」


 小さな銃は最早、鉄屑同然に蹴り飛ばされた。

 抵抗手段を失い絶望するリトルスター。

 デカオカスは卑しい笑みを浮かべ、リトルスターに近寄る。

 デカオカスとの距離が今にも狭くなる瞬間に、リトルスターは声が出なくなった。

 リトルスターは本当に屈してしまいそうになる。



「変身は、私の方が遥かに長い!!」


 突然、謎の声にデカオカスの動きは止まった。

 誰のものかわからないが、凄まじい怒りの声がその空間中に響き渡った。

 その声は遥か遠くからかもしれないが、そのどこかで戦っている誰かの声なのだろう。


 声と同時に、無残な鉄屑は元の小さな銃に戻り、リトルスターの手に返った。


「私はメガロスターの子供だ……」


 謎の声から戦うエネルギーと勇気をもらい、リトルスターは再びデカオカスに立ち向かう。


「あなたの行いを私が許しても、メガロスターは絶対に許さない!!」


 リトルスターの目に怒りが灯った時、光の球体がリトルスターの全身を包んだ。


「リトルスター・パワー!!」


 突然の現象にデカオカスは混乱した。


「お前……! 変身しても無駄だと、さっきから何度も言っているだろう!!」


 デカオカスは慌ててリトルスターの変身を邪魔しようと、何度も球体を殴り蹴りした。

 しかし球体には傷一つつかない。デカオカス側の攻撃は一切通らず、リトルスターは無事、戦士の姿に変身した。


 戦士の姿になっても、リトルスターは加護のオーラをまとっていた。

 リトルスターは自身の体にすべてのエネルギーを込める。


「リトルスタービーム!!!」


 リトルスターの怒りの必殺技を受け、先程まで優勢だったデカオカスも流石に耐えきれず、凄まじい光の中へ消えた。



「早く、大穴聖域にいる仲間を助けないと!」


 デカオカスを倒した後、他の戦士を助けるため、リトルスターは急いで大穴聖域へ向かった。


 その道中でも、何体か魔獣が襲ってきたが、リトルスターはすべて蹴散らした。

 ようやくリトルスターが到着した時、大穴聖域では無残な光景が広がっていた。


 大穴聖域にいた仲間の戦士たちは全員、魔獣に倒されてしまっていた。

 生き残っていた仲間も魔獣に倒され、他の仲間同様に星くずとなって空へ消えてしまう。


 仲間がほとんど戦闘不能に対し、魔獣は何十体もの個体が、住人のいない街を徘徊していた。


「よくも……よくも、私の仲間たちを!!」


 リトルスターは怒りのままに、魔獣たちにリトルブラスターを向ける。


「リトルスタービーム!!!」


 その怒りのビームは通常よりも強い威力だった。

 それは、寄ってたかる魔獣たちを少しの間退散させる効果があった。

 しかしすぐに別の場所から魔獣が次々とやって来る。

 リトルスター一人だけでは、とてもきりがない。

 必殺技も無制限に発動できるわけではない。

 リトルスターは急激に体力を消耗していった。


「ごめんなさい、メガロスター。私たちはもう、魔星オカスターに侵されるしかないようだね……」


 再び絶望する中、リトルスターは力尽きてそのまま地面へ倒れ込んだ。

 他の戦士たちと同じように、リトルスターの体も星くずに分解され、空へ消えていった。



「メガロスタービーム!!!」


 再び、謎の声が空に響いた。

 リトルスターの他にも、まだ戦っている戦士がいた。

 今度はどこかで必殺技を叫んだ。


 同時に、ビーム火山が大噴火を起こした。

 この惑星からすべて集めたような大量のマグマが惑星の陸に海、他すべての場所に広がる。


 ビーム火山の噴火は、子供を皆殺しにされた母親の凄まじい怒りにも見えた。

 そう。ビーム火山の正体は惑星メガロスターの武器・メガロブラスターだった。


 メガロスターのマグマの波は、すべての魔獣を焼き尽くす怒りの覚醒でもあるとともに、魔獣に殺された我が子たちを包み込む生命の布団でもあった。

 マグマの海に飲み込まれた子供たちの残骸は、メガロスターの力の一部として吸収された。


 メガロスターとその子供たちであるすべての命は合体し、一つの巨大な生命体として覚醒した。

 すべての命の心を一つにして、究極のメガロスターは魔星オカスターとの決闘に挑む。


 魔星オカスターは魚の魔獣を大量に召喚。惑星メガロスターに向かわせる。

 メガロスターはマグマの波を起こす。その熱気が、魚をすべて焼き焦がす。

 次に、オカスターは巨大隕石を召喚する。メガロスター表面は、今やマグマの海が障壁だ。マグマの障壁で弾かれ、跳ね返った隕石で、オカスター地表は半分近くが抉り取られた。


 怒り狂ったオカスター。再び魚の魔獣を何億体も召喚する。

 無数の魚の攻撃に苦しむメガロスター。それでも、オカスターの集中攻撃に耐え続ける。


 オカスターも魚を乱発しすぎて疲弊する。

 その隙に、メガロスターが最終兵器を発動させようとする。

 オカスターはすぐにまた魚を増殖させ、メガロスターを拘束する。


 メガロスターも負けてはいない。

 自身の中のすべてのエネルギーを内核に込める。

 再び魚たちをすべて退け、オカスターの拘束を破壊することに成功した。

 自由の身になったメガロスター。すべての命とともに、必殺技を叫ぶ。


「メガロスターアタック!!!」


 メガロスターはオカスターに全力で体当たりした。

 二つの天体は激突する。

 激しい衝突の波に耐え切ったのは、メガロスター。

 魔星オカスターは破壊され、宇宙の粉塵となって消滅した。



 すべてが終わった後。

 リトルスターは天国のような景色の中で目を覚ます。

 周りには、仲間の戦士たちや大穴聖域の住人たち、火山のふもとの村人たちもいる。

 不思議に思ったリトルスターは、周りの人々に聞いた。


「みんな、ここはどこなの?」

「ここは、新しい世界だよ」


 その時、彼らの住むメガロスターは変身を完了していた。

 古い世界から、新しい時代への大きな変身を。


 その新しい世界でも、まだまだ苦しいことや辛いことはいっぱいあるのだろう。

 ただ、これからの時代で魔星オカスターが再び襲って来ることはない。


 メガロスターは新しい姿に変化し、愛と平和の時代が始まったのだ。



おわり

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