おせちくれ男

 二月一日。

 巷で噂の迷惑客・おせちくれ男が来店した。


「ご注文はお決まりですか?」

『おせちをお願い』

「申し訳ありません。おせちは売り切れました」

『早く出せ!』

「どうしてもというなら、一月に行ってください」

『それがタイムマシンが買えなくて、行けないんだ!』

「それなら当店でタイムマシンをお貸しします。他のお客様のご迷惑にもなりますので、すみやかにお帰りください」



『くそ、追い出された! 仕方ないからタイムマシンで一月に行くか!』


 まずは箱を開けてみる。


『は? 中身はエロ本と注意書きの冊子だけ? まぁ注意書きを読もう。『この本を読むだけで、あっという間にあなたの望む未来へ行けます』だって。『この本』がエロ本、すなわちタイムマシンってわけか。エロ本読むだけで未来に行けるなんて最高だ! 早速読むぞ!』



『……ふぅ、こんな飽きないくらい面白いエロ本は人生で一度も読んだことなかったな。のめり込んでて気にしてなかったけど、今日の日付は……は? 一月最後の日! 二月一日になるまであと一分だ! 急いでお店へ行こう!』



 お店へ着いた時、扉には『本日の営業は終了しました』と看板が。


『くそっ間に合わなかったか!』

「お客様。ちょうどいいところへ来ましたね」

『お前らは何者だ! 早くおせちを用意しろ!』

「申し訳ありません。おせちは売り切れました」

『じゃあ俺はタイムマシンを使うよ!』

「おやめください。エロ本は人前で読むものではございません。それよりも、この鏡をご覧なさい。あなたはこの一年間何をしたのですか? 何のために毎日生きてきたのですか? エロ本に限らずアダルトコンテンツは、あなたのエネルギーと時間を搾ります。それがこのタイムマシンの正体です。タイムマシンにはカメラも内蔵しています。私たちスタッフはあなたの一年間をすべて知っているのです」

『うぐっ、ぐぬぬっ……思い出せるな、やめろ!! もうやめてくれええぇぇっ!!!』


「「「許しません」」」



 一ヶ月前のスタッフ一同


「一ヶ月後はバレンタイン。お客様を喜ばせる為に、新しいチョコレートスイーツを作るぞ!」

「一週間後はバレンタイン。好きなあの子への告白の為に、糖分控えめに自分磨きだ!」

「三日後はバレンタイン。憧れの上司の為に、心を込めて作った感謝のチョコレートを渡すよ!」

「明日はバレンタイン。あの迷惑客の逮捕に貢献してくれたみんなにお礼のチョコレートを渡すぞ!」



おわり

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