『貴方もまた』 お題:恋のむき出し 制限時間:15分
知らない顔だった。僕がこの世で一番彼女のことを知っている、と思っていたのは勝手な思い込みだったのだと、その横顔を見ただけで理解してしまった。
凛と澄ました顔で、それでも瞳だけは熱っぽく視線を注ぐ彼女の見つめる先を、ゆっくりと同じ道を辿るように見やる。隣に座っているのに、物陰に隠れるストーカーのような気分だった。
新しいクラスで、先生が来るまでに無駄話ばかりを繰り返すクラスメイトたち。視線の先は前から二番目、仲の良い女子と大きな笑い声をあげて騒いでいる集団の一人に注がれていた。何度注意されても染め直さない明るい髪を揺らして、何が面白いのか涙が出るほど笑っている。
彼女の視線は、馬鹿笑いする少女にだけ注がれていた。僕には分かってしまった。知らないことは何もない、と思っていた幼馴染だ。たとえ仮に知らないことが出てきたとしても、これまでの付き合いで察せてしまうくらいには理解していたのだ。そう思うとなんだか嬉しいような、嬉しくないような、微妙な気持ちになる。恋とは難しいものだ。
とりあえず今はいいが、このままでは僕だけでなく他のやつにも知られてしまうだろう。変な揶揄われ方をして、幼馴染が傷つくところなんて見たくなかった。ので、僕は小声でそっと、「もう少し隠した方がいいぞ」なんて囁いた。ぱっと、頬にかかる黒髪が揺れて、視線が交わる。
瞳に映る不安を無視して、僕はいつも通りの情けない笑みを浮かべ、「今んとこ、多分僕しか気づいてないけど」と付け足した。
安堵の表情へと変わった彼女が、薄らと耳を赤く染めながら、隠し持っていた携帯で内緒話を送ってくる。できる限り平常通りを装って答えながら、どうやら僕の方はうまく隠せていたらしい、と呟く代わりにそっと吐息を溢した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます