『やがて果てとなり』 お題:壊れかけの希望 制限時間:15分
防護服を着込んだあの人たちは、この扉が開いたら助かるよ、と最後に言ってから出て行った。がちゃん、と重たい鍵のかかる音がして、それきり僕は一人きりでその部屋で過ごすことになった。
食事も自動生成され、排泄区域も清潔に保たれたその真っ白い部屋で、僕は扉が開くのをただ待つだけの日々を送る。それが僕に残された最後の希望だからだ。あの人たちにとっては僕が希望であり、僕にとってはこの部屋こそが希望だった。
一週間が経ち、一ヶ月が経ち、一年が経ち、十年、百年、千年が経った。僕は依然として、ただ扉が開くのを待っていた。あの扉を開くだけの知能を持っていて、尚且つ滅びゆくさだめのあの人たちではない誰かをずっと待っていた。
部屋の隅に出来た小さな亀裂に気づいたのは、一万年を超えたあたりだった。僕よりも先に部屋が壊れてしまうようだ。そして、部屋が壊れれば、僕もまた壊れる。そういう風に出来ている。何事も計算通りにはいかないものだ。
亀裂は毎日少しずつ深くなり、とうとう西(とあの人たちは呼んでいた)側の壁に落雷のような傷を作った。
明日か、明後日か。僕には予測がつかないが、きっとこの部屋は粉々に砕けて、僕も共に砕けるんだろう。分かってはいるが逃げ場もなく、出来ることもない。
僕は今日も自動生成された食事を一人寂しく楽しみながら、無機質な白い扉が開きやしないかと、じっと見つめて待ち続けている。
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