【KAC20226】鳥型従魔の危機感

小龍ろん

鳥型従魔の危機感

 吾輩は戦雀である。名前はクリンギングルート。『取りつく根』という意味らしい。不思議な由来だが、ご主人のことだから深い意味があるのだろう。まあ、長いのでたいていはクリンと呼ばれておる。


 吾輩がご主人の従魔になってから、それなりの月日が経つ。冒険者であるご主人とともに幾多の戦いを潜り抜けた。従魔としてご主人の力になっているという自負はある。だが、そんな吾輩にも悩みはあるのだ。


 翼に風を纏い、刃となす。自在に空を舞い、敵を引き裂く。それが吾輩の戦い方である。そこらの獣など吾輩の敵ではない。だが、将来的にはどうだろうか。


 ご主人は間違いなく大器。いつかは英雄と呼ばれる存在になるだろうと、吾輩は考えておる。だが、そうなったとき、吾輩は今と同じく、ご主人の傍で力になることができるであろうか。ご主人が活躍するにつれて、ご主人が立ち向かうべき敵も強力になっていくことだろう。そうなったとき、非力な戦雀が傍で戦うことはできるのか。


 そんな考えが頭を渦巻いておった。が、そんな悩みが吹き飛んでしまうような事件が起こったのだ。


 それは何でもない日のことだった。ご主人が、吾輩をぼんやりと眺めながら何事かを呟いたのだ。はっきりとは聞き取れなかったが、吾輩には「焼き鳥が食べたい」と聞こえた。




 ………………。




 ご主人!?

 たしかに、将来的には力不足になるかもしれないと危惧したけども!

 吾輩、まだまだ現役ですよ!


 そういえば、最近、街中を歩いているときに屋台を見て立ち止まることが多かったが、あれはまさか焼き鳥の屋台を見ていたのか!?


 いやいや、落ちつくのだ。ご主人がそんなことを言うはずがない。吾輩の聞き間違いに決まっておる。


「クリン、今日は溶岩地帯に挑戦してみよう」


 ご主人!?

 なんでそんな場所を選んだんです!?

 そこ、火属性攻撃してくる輩ばかりなんですけども!


 やはり、ご主人は吾輩を焼き鳥にするつもりなのか。だが、吾輩もむざむざ焼き鳥にされたりはせんぞ。


 吾輩に残された道は種族進化だ!

 溶岩地帯のような火属性の強い場所で種族進化すれば、火耐性を持つ種族に進化できるはず。そうなれば、焼き鳥にならずに済むのだ!


 そうして、吾輩は死に物狂いで戦った。残念ながら一日で進化するには至らなかったものの、決して諦めはしない。絶対に種族進化を果たし、生き残るのだ!


 強い決意を胸に秘め、吾輩はご主人を見据えた。だが、なぜかご主人は穏やかな表情で微笑んでる。


「良かった。元気になったみたいだね。最近、足取りも重たいみたいだったし、心配していたんだよ」


 ご、ご主人……!

 何故、今になって、そんな暖かい言葉を……!


 いや、待てよ。

 ご主人は今、「足取りが重たい」と言った。

 もしかして、吾輩、これを「焼き鳥が食べたい」と聞き間違えたのでは……?


 ……ふははは!

 もちろん、吾輩はご主人を信じていたとも!

 焼き鳥云々は自分を追い込むための……あれだ!

 あの、なんだ、とにかくあれである!


 うむうむ。吾輩も今回のことで成長したのは間違いない。

 これからもご主人の力になると誓おう!





 うん、なんとか誤魔化せたみたい。

 いやあ、思わず本音が出ちゃったときは焦ったけど、なんとかなってよかった。もちろん、仲間を食べたりはしないけどね。それどころか、クリンが不快に思うかもしれないから、長い間焼き鳥を食べないようにしている。ただ、我慢すると余計に食べたくなるんだよね。


 いや、冗談でも『取りつく根とりつくね』なんて名前つけるべきじゃないね。名前を呼ぶたびに、焼き鳥が食べたくなるよ。


 ああ、焼き鳥が食べたい……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20226】鳥型従魔の危機感 小龍ろん @dolphin025025

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ